第222話 エリカの回顧録 ~中編~
話の流れで私の過去を話す事になったのだが…
「えぇと… いつぐらいの事から話せば良いんですかね…?」
どの辺りから話すべきか…
ハッキリ言うが、ロザミアに来る以前に関しては作り話でしかないからなぁ…
言えんけど…
すると、アリアさんが手を挙げ、話し始める。
「あの~… エリカさんがロザミアに来る前の事は、聞かなくても良いと思います。早くに両親を亡くした事や、祖父母と山奥で暮らしてた事は知ってますし… お祖父さんが医師で、お祖母さんが魔導師って事や、お二方から英才教育を受けていた事も知ってますから…」
アリアさんの意見にウンウンと頷くミラーナさん、ミリアさん、モーリィさんだったが、ライザさんとルディアさんは…
「そうだったんだ… ボク、初めて知ったよ…」
あぁ、ライザさんは知らなかったっけ…
「エリカちゃん、苦労したのねぇ…」
ルディアさん… 初めて会った時のミリアさんみたいな反応だな…
「私もエリカちゃんに初めて会って、その話を聞いた時は同じ反応だったわねぇ…」
当時を思い出したのか、ミリアさんがしみじみと語る。
それを聞いて…
「それじゃ、私がロザミアに来てからの事を話しましょうか? それ以前の事って、聞いても面白くないでしょうし」
私が提案すると、全員がコクリと頷く。
もっともアリアさんだけは…
「ただ、エリカさんが魔法医になる為に、どんな勉強をしてたのかぐらいは聞きたいと思いますけど…」
と、若干不満気だったけど…
「とりあえず話しますね。ロザミアに来る事になったのは、祖父母が亡くなったのが切っ掛けです。山奥で一人暮らしする事に不安だったってのが大きいですね」
話し始めると、すぐにミラーナさんが質問してくる。
「ロザミアを選んだのって、何か理由があるのかい? それまでエリカちゃんが何処に住んでたのか知らないけどさ… ニースは少し遠いけど自然が豊かな街だし、東にはロザミアより大きなポルティエって街が在るんだけど… まぁ、ニュールンブリンクの大森林よりは小さいけど、そこそこの大きさの森を抜けなきゃいけないけどさ」
あぁ… 多分だけど、それは私が異世界に来た時に居た森だな…
まぁ、今となっては関係無いが…
「偶然っちゃ~、偶然ですけどね。何処かに拠点となる様な街が在れば良いな~って思いながら歩いて、辿り着いたのがロザミアだったんですよ」
この辺、嘘は言ってない。
適当に街を目指して歩いてて、たまたま辿り着いたのがロザミアだったんだから。
「街の入り口で、警備兵ですかね? 止められましたけど、事情を話したら簡単に入れてくれました。当時は24歳でしたけど、見た目がこれですからね。で、まずは職を得ようと思ってギルドに向かったワケです。幸い、祖父母の指導で魔法医として活動出来るだけの素養はありましたからね」
すると、ミリアさんが大きく頷く。
「だったわねぇ… 見た目が小さい子供だから驚いたわ。こんな子供が夜にギルドに来るなんてって思ったもん。話を聞いたら寝る場所もお金も無いって言うし、ギルド長は帰っちゃって居ないしで、どうしようかと思ったわよ… けど、魔法医としての素養があるって言うから仮登録だけして、後でギルド長に決めて貰おうって思ったわね…」
だったなぁ…
まぁ、ギルド長が不在の状態で勝手な事は出来ないわな…
「それでまぁ、翌朝… ギルド長がギルドに来てから、私の実力を見る為に怪我人を治療してみせたり魔力量を計ったりしたんですよね」
すると、ミリアさんは呆れた様な表情になる。
「驚いたなんてモンじゃなかったわね… 実力を見る為に指名されたザック君の脚は一瞬で完治させちゃうし、魔力量を計る為のオーブは、エリカちゃんの膨大な魔力に耐え切れなくて粉々に破壊されちゃうしで、文句を付けるなんて出来なかったわよ…」
と、ミリアさんが言うと…
「まぁ、その辺の事は知らないんだけどさ… 凄腕の魔法医がロザミアに来たって事は私も聞いたよね。たまたまミリアがエリカちゃんに会った時、私は仕事が終わって帰ってたんだけどさ。ミリアはその日、夜番だったんだよね?」
「そうなのよね… だから偶然、エリカちゃんが来た時に担当する事になったんだけど… それが今、こうして一緒に住んでるんだもん… 人生って、判らないわよねぇ…」
モーリィさんに話を振られ、しみじみと話すミリアさん。
私としては、そんな感情は無いんだけど…
むしろ、流れで一緒に住む事になった程度の感情なんだが…
って、それを言っちゃ駄目なんだろうな…
「まぁ、そんなこんなで魔法医として働ける事になったんですが… その時点では治療院を建設するまでの話は無かったんですよね。だから、ギルドの簡易宿泊部屋を一室使わせて貰う形で治療所を開設したんですよ。だから、1日で銀貨2枚でしたっけ? 宿泊料をギルドに払ってましたね」
「そこからが大変だったわねぇ… 最初の何日かは、毎日200人ぐらいが治療して貰いに殺到してたわよね? 古傷を持ってるハンターも多かったし、さすがのエリちゃんもバテバテだったわよねぇ…」
当時を思い出し、私は大きく頷く。
「でしたねぇ… で、そんな状態が何日か続いた時、マークさんがハンターの兄ちゃん達に怒鳴ったんですよね…」
「そうそう、かなりの迫力だったよ? 『お前らぁ! エリカちゃんに治療して欲しいからってワザと怪我してんじゃねぇだろうなぁ!』って… 私の周りに居たギルド職員も、あの迫力には結構ビビってたよ? 私もだけど…」
職員も… って、モーリィさんもビビってたんかい…
まぁ確かにマークさん、かなり怒ってたからなぁ…
ハンターの兄ちゃんの1人が『なんか治療して欲しくなっちまって、ついつい怪我を作っちまう』って言った時なんか、『バカ野郎! そんな事して致命傷でも負ったらどうする! 今後、ワザと怪我した事が判明したヤツはハンター登録抹消するからな!』って、周りのハンターの兄ちゃんでさえビビる様な迫力だったからなぁ…
「お陰で… と言って良いんですかね? それでまぁ、1日の治療人数が半分ぐらいに減ったんですよね。それでも毎日100人ぐらいが治療に訪れる事に変わりありませんでしたけど…」
「そうそう。でも、結構な人数がギルドに用事も無いのにギルド内に居るからさ、業務に支障が出る事も多くなってきたんだよねぇ… まぁ、エリカちゃんに治療して貰うのが目的だから、全く用事が無いってワケでもなかったんだけどさ…」
私が説明すると、モーリィさんが大きく頷きながら捕捉を入れる。
「それで、ここに治療院を建てたワケか… て~事は、この場所を勧めたのは不動産屋のランディさんだな? エリカちゃんがロザミアに来て、どれぐらい経ってたんだい?」
「え~っと… 確か、そろそろ3ヶ月になろうかって頃でしたね…」
ミラーナさんの質問に、私は少し記憶を辿ってから答える。
ミラーナさんは腕を組んでソファーに凭れ、ウンウンと頷く。
「アタシは領主邸を解体して更地にしてからランディさんに売って… すぐに転売して構わないって言ったんだけどさ… なかなか売りに出さないから何でだろうって思ってたんだよな… でも、それが結果的にエリカちゃんの治療院を建てる事になったんだから、今となってはランディさんのファインプレーって感じなのかな?」
ミラーナさんの感想に、私は宙を仰ぎ…
「じゃあ、もしランディさんが早く売りに出してたら… ここは立地条件も良いし、何か違う施設が建ってた可能性が高いんですかね? で、そうなってたら治療院は全く別の場所… 例えば商店街とか食堂街、状況次第では住宅街に建ててたかも知れないって事ですかね?」
言いつつ私は考える。
現在、治療院の在る場所は、確かに立地条件が良い。
ロザミアの中心部に位置してるし、住民の過半数を占めるハンターの生活基盤であるギルドとの距離も近いし…
何よりも怪我と隣り合わせの職業であるハンターにとって、仕事や報酬(=賃金)を得る場所と怪我の治療が出来る場所が近いのは助かるだろうしな。
だが、どちらかと言うと街の外周部に位置する住宅街に住む一般的な職業の人には不便かも…
と言っても、一番遠い場所でも2㎞ぐらいしか離れていないのだが…
そもそもロザミアの街自体が半径2㎞程度の円形の街なんだから…
その一部を若干拡張してテーマパークや観光ホテル、土産物なんかを扱う歓楽街を建設したんだが…
とは言え、仮に治療院を住宅街に建てた場合、街の反対側に住む住民にとっては4㎞も離れた場所まで来ないと治療を受けられない事になるので、そっちの方が不便極まりないだろう。
ロザミア住民の過半数を占め、生活の糧である仕事や金を得るギルドと、自身の生活に付き物である怪我を治療する場所が離れていては困るだろう。
そう言った事を考えれば、街の中心部に治療院を建てる事が出来たのは重畳と言えるだろう。
「ロザミアって、このホプキンス治療院やギルドが在る中央広場を中心にして、商店街や食堂街が在るでしょう? その外周部に沿う感じで建てられてるのが住宅街だし… もし、街の端っこに治療院が在ったら、反対側に住んでる人にとっては不便よねぇ… それを考えたら、治療院が中央広場に建てられた事は最善だったと思うわね…」
ミリアさんの意見に、全員が大きく頷いた。
が、直後のモーリィさんの言葉に、ミリアさんは大慌てになるのだった。




