第220話 ロザミアに帰ったら帰ったで、相変わらずの人が居ます…
私の記憶改竄の魔法で『私の素っ裸を至近距離から見た記憶』を、ルーデンス子爵が私の身体を持ち上げ過ぎた所為で『ルーデンス子爵のイチモツを至近距離から見た記憶』に書き換えられた国王陛下は、しばらく顔色が悪かったのだが…
私が説明した事で、なんとか気を取り直したのだった。
まぁ、それでもルーデンス子爵のイチモツを至近距離で見た記憶は残るし、ルーデンス子爵にしても至近距離で自身のイチモツを国王陛下に見られた形になったのは変わらない。
そして当然ながら、そのイチモツの形や大きさは正確に陛下の記憶に刻まれる事に変わりは無いのだ。
理不尽とか言わないで欲しい。
精神は今年で30歳を迎える成人男性の私だが、身体は10歳程度の女(の子)なのだ。
えっ?
マインバーグ伯爵や、侍従長のセガールさんと一緒に風呂に入っただろうって?
それは別問題なんだよ。
マインバーグ伯爵は私を娘みたいに思ってくれたし、セガールさんは孫みたいに思ってくれてたからな。
ルーデンス子爵は…
ある意味で私を恐れてたから、私が服を脱ぎ始めた時から目を逸らしてたし…
けど、陛下にそんな感情は無いワケで…
だから私も普通に恥ずかしかったのであり、記憶改竄で陛下が私の裸を見なかった事にするのは当然なのである。
異論は認めない。
…だったら身体を魔法で女の子に変えなきゃ良かっただろうって?
そこはホラ、男より女、大人より子供の方が何かと得だからだよ。
例えば美少年なら女性層からのウケは良いだろうが、男性層からのウケは良くないだろう。
特に、お目当ての女性が居る男性層からは…
逆に美少女なら、男女問わず…
いや、老若男女全てにウケが良い(と、思う)。
だから私は異世界で上手く立ち回る為に、魔法で自身の姿を見た目8歳~10歳程度の美少女に変えたんだよ。
って、誰に言ってんだ、私は…
それはともかく、ルーデンス子爵の回復祝いと称して食事会が催される事になったのだが…
何故か私は陛下の私室に1人呼び出されていた。
「すまないな、エリカ殿… 食事会の前に、どうしても貴殿に頼みたい事があってな…」
私の説明を受け、『ルーデンス子爵のイチモツを至近距離で見た』記憶が紛い物である事は解って貰えた筈なんだけど…
「私が至近距離から見たルーデンス子爵のイチモツ… あれがエリカ殿の魔法に依る偽りの記憶である事は、充分に理解している…」
私はコクリと頷く。
「だがな… 私は至ってノーマルなのだ。だから偽りの記憶だとしても、事ある毎に彼のイチモツを思い出すのはツラいのだ…! だから頼む、エリカ殿! 『ルーデンス子爵のイチモツを至近距離から見た記憶』を、私の頭から消してくれ! このままでは仕事に集中出来んし、間違った判断を下しかねん! 国王として、その様な事態を招く事は出来んのだ! 頼むっ!」
あぁ~…
そりゃまぁ、そうだろうなぁ…
そっちのケがある男ならともかく、ノーマルを自認している男に、いつまでも(偽りとは言え)他人のイチモツが記憶に刻まれているってのは…
大衆浴場なんかで遠目にチラッと目に入る程度ならまだしも、至近距離からモロに見た記憶だからな…
「了解しました。では、陛下の記憶を書き換えさせて頂きます」
言って私は陛下の額に手を翳し…
「記憶改竄!」
陛下の記憶から『ルーデンス子爵のイチモツを至近距離で見た記憶』を完全に消去。
だが、全く何も無かった事には出来ない。
人間、記憶に空白が生まれると、その記憶の隙間を埋めようとして別の記憶を作り出す事もあるのだ。
それも、自身にとって都合の良い記憶を…
なので私は、消した記憶の代わりの記憶を植え付ける事にした。
出来るだけ当たり障りの無い記憶を…
「はい、これでもう大丈夫ですね♪ この記憶なら、思い出しても何の問題も無いと思いますが… どうですか…?」
私が言うと、陛下は目を閉じて浴場での事を思い出す。
やがて目を開けた陛下は…
「ま… まぁ、確かに問題は無いとは思うのだが… この記憶… 後からミラーナに文句を言われないだろうか…? いや、ミラーナだけではないが…」
「家族なんですし、問題は無いと思いますよ? 家族揃って仲良く一緒に入浴するって、幸せな事じゃありませんか♡」
私は満面の笑みで応える。
「それに、気まずいと思われるなら黙っていれば良いだけじゃありませんか? 陛下の記憶の中だけに留めておく限り、王妃陛下もロザンヌ殿下も、ましてやロザミアに居るミラーナさんに知られる事は無いんですから♪」
私が捲し立てる様に言うと、陛下は…
「それもそうだな… この記憶、私の中だけに留めておくとしよう」
腕を組んで頷き、私の提案を受け入れてくれたのだった。
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その後、無事(?)に食事会を終えた私とライザさんは、王妃様やロザンヌ様への挨拶もそこそこにロザミアへと帰還。
勿論、急ぐ必要も無かったので、ニースに寄って山菜狩りをし、ロザミアでは手に入り難い山菜やトリュフを採って帰ったのだった。
「お帰りなさい、エリカさん。早速で悪いんですが、サミュエルさんの治療、お願いしても良いですか? ちょっと私には手に負えなくて…」
治療院に戻るなり、アリアさんが私に治療を押し付け…
じゃなくて、私に治療の交代を申し出た。
「何なんですか、このサミュエルさんの状態は…? 全身骨折の上、内臓が5ヶ所も破裂してますよ…? 脳にもダメージが認められますし… どれだけシゴウしゃげたんですか、プリシラさん…?」
私がジト目で見ると、プリシラさんは…
「いっつもの事じゃがねぇ… 今回はちぃとやり過ぎたかも知れんのんじゃが、こんなが手抜きしよるけぇイケンのんじゃわ。包丁とか料理に使う道具ならまだしも、剣や槍、盾をこさえるんに手抜きは絶対にこらえられんけぇねぇ…」
と、床に倒れたサミュエルさんの頭を踏み付け(おいおい…)たままで言う。
「はぁ… て~事は、サミュエルさんが剣だか槍だか盾だかを作る時に手抜きしたと…? で、それに怒ったプリシラさんがサミュエルさんをシゴウしゃげたって事ですか…?」
サミュエルさんを治療しつつ聞くと、プリシラさんはコクリと頷く。
「…まぁ、思わずブチ切れてしもうたけぇ、エリカちゃんからもろうたハリセンの事を忘れてしもうて、このハンマーでシゴウしゃげてしもうたんじゃがね…」
言ってプリシラさんが見せたハンマーは、大人の男が両手でやっと振るえるかどうかと言う大振りの物。
人間と比べて筋力の高いドワーフだから軽々と振るえるんだろうけど…
そんなモノで普通の人間に過ぎないサミュエルさんが殴られたら…
「アホかぁあああああああいっ!!!!」
すぱぁああああああんっ!!!!
私は思わず全力のハリセン・チョップをプリシラさんの脳天に叩き込む。
「プリシラさん… サミュエルさん、死んでても不思議じゃありませんよ…? もう少し考えて下さい… てか、殴る前に深呼吸して、少しでも良いですから落ち着いて下さい… そうすれば、少なくともハンマーじゃなくハリセンを使おうって思えた筈ですから… 今回はギリギリですけどサミュエルさんは助かります。けど、一歩間違えば… いえ、半歩…? いやいや、この感じだと四分の一歩… なんて甘いモンじゃないですね… 殆ど死にかけてましたよ…? アリアさんが私に治療を振るのが後数分… いや、30秒も遅ければ、サミュエルさんは助かりませんでしたね…」
「えぇっとぉ~… その場合、ウチはどうなるんかのぅ…?」
プリシラさんは目を泳がせながら、私に聞く。
頑丈だな、おい…
「まぁ、普通に考えて殺人犯として投獄されてたでしょうね。そんな施設がロザミアに在ったかは知りませんけど」
私が言うと、隣でアリアさんの治療を受けていたモーリィさんが口を挟む。
…また木に激突して骨折してやんの…
「ギルドの地下に牢獄が在るんだよねぇ。もっとも、ミラーナさんが領主になってから税率が2割から一気に0.5割まで下がったじゃん? だから、金に困って盗みを働くヤツって居ないんだよねぇ。オマケに、ギルドに登録してるハンターとかは非課税だしさ。ロザミアは気性の荒い連中が多いからトラブルは起きるけど、仲間意識が強いからなのか殺しに発展する事は無いし、お互いに殴り合ったらスッキリして仲良くなる連中ばっかりなんだよねぇ」
殴り合うって…
それはそれで問題なんじゃ…?
まぁ、お互い根に持たないってんなら、そ~ゆ~のもアリなのかなぁ…?
それはともかく…
「…で、モーリィさん? 木に激突して骨折って、これで何回目でしたっけ? いい加減、学習して下さいよ… ミリアさんは全く怪我しないし、ミラーナさんだって戦の後の一回こっきりなんですよ? それからプリシラさん。ロザミアに牢獄が在るって判ったんですから、そこに放り込まれる様な事は控えて下さいよ?」
私が言うと、2人は顔を見合せ…
「「気を付けます」」
と、ハモって反省の言葉を口にしたのだった。
口だけじゃないだろうな、こいつら…




