第214話 お風呂の報復はお風呂で♡
翌朝、朝食を済ませた私達は、何故かアンドレ様&キャサリン様と並んで式の参列者を見送っていた。
私達も帰るんじゃなかったんかい。
その後、2人に連れられて中庭でお茶会。
お茶を飲みながら菓子を摘まんでいる間、執事やメイド達は忙しなく2人が新婚旅行に出発する為の準備に動き回っていた。
庶民感覚が身に染み付いている私…
だけじゃないな…
ホプキンス治療院のメンバー全員…
ミラーナさん以外は申し訳なさそうな表情で彼等を見ている。
「エリカちゃん… それに皆もだ。手伝おうなんて思わなくて良いからな。あれは連中の仕事なんだ。下手に手伝ったら、逆に仕事を奪われたと思われちまうぞ?」
私(達)の思考を読んだのか、ミラーナさんが釘を刺す。
「そ~ゆ~モンなんですか? 私… だけの感覚じゃないと思いますけど、普通は手伝って貰ったら『ありがたい』とか『助かる』とか思うんじゃ…?」
私が疑問を口にすると、ミリアさん、モーリィさん、アリアさん、ライザさん、ルディアさんは、その通りだと言わんばかりに首を縦にブンブン振る。
「あら~、エリカちゃん達は優しいのねぇ♪ でも、ミラーナの言う通りなのよ? それに、仕事を奪われた~って思われるだけじゃなくて、その分『給金が減らされるかも知れない』って思われちゃう場合もあるから気を付けないと♪ 下手すると恨まれちゃうかも知れないわよぉ~♪」
王妃様、恨まれちゃうかもって…
そんな恐ろしい事をにこやかに言わないで欲しいんですけど…
でもまぁ、地球の中世ヨーロッパ程度の文明であるこの世界では、そう考えるのが普通なのかも知れないな…
特に貴族とかの、所謂上流階級の人達は…
だが、こちとらバリバリの平民!
忙しい時には手伝って欲しい、手伝ってくれって思うのが普通だし、時には自ら手伝うって声を掛けるモンなんだよ!
…まぁ、どう考えるかは人に依るし、そもそも地球…
特に日本人の考えなんだろうと思う。
自信はないけど…
なので、私の考えは言わないでおく。
ややこしくなるだけだろうし、余計な事を言って議論になるのも面倒だしな…
などと考えていると、侍従長と思しき老齢の紳士が2人に歩み寄って何やら話し掛ける。
どうやら出発準備は終わった様である。
2人は揃って立ち上がり、私達に向かって深々と頭を下げる。
「準備が調った様ですので、出発する事にします。これからの半年間、新婚旅行を楽しむだけでなく、将来この国を背負う為の見聞を広めて参ります」
アンドレ様、次期国王としての自覚はしっかりしてるみたいだなぁ。
フェルナンド様も次期国王なんだけど、まだ今年で10歳だからなぁ…
と、思っていたら…
「アンドレ義兄上、帰国の際には是非ともヴィランに寄って下さい。旅の間に見聞きしたり経験した事など、教えて頂けませんか? 僕も次期国王として見聞を広めたいと思っているのですが、まだ旅に出られるだけの年齢に達していませんし… 何よりミラーナ姉上の様に、いざと言う時に戦えませんから父上から許可されないと思いますので…」
ををぅ…
しっかり自覚が芽生えてるやん…
てか、以前ミラーナさんが言ってたな。
フェルナンド様、次期国王としての自覚が芽生え始めてるみたいだって。
あの時は軽く聞き流してたけど…
こうして目の前でその姿を見ると、なんだか感慨深いものがあるなぁ…
いつの間にか私の身長も追い抜いてるし、心身共に成長したんだなぁ…
「フェルナンド、成長したなぁ… ロザミアのテーマパークからヴィランに帰る時、エリカちゃんからも成長したって褒められてたっけな。まぁ、あの時はご褒美のキスを貰ってブッ倒れてたけど…」
「ミ… ミラーナ姉上! それは言わないで下さい! エリカお姉ちゃんにキスされて平気な男なんて、居るワケ無いじゃありませんか!」
余計な事を言ってフェルナンド様を困惑させるミラーナさん。
ずどぱぁああああああんっ!!!!
「フェルナンド殿下は私に甘えたいのを最終日のテーマパークまで我慢してたんですよ? キスしちゃったのは、その頑張りに感動したからです。ですので、フェルナンド殿下の努力を揶揄う様な発言は看過出来ませんね…」
私はミラーナさんをハリセンで叩きのめす。
「わ… 悪い… フェルナンドが思ってたより成長してたモンで、つい揶揄いたくなって…」
顔面を地面にめり込ませたまま力無く言うミラーナさん。
まぁ、そ~ゆ~気持ちも解らんでもないが…
今のフェルナンド様に対してやる事ぢゃ無えだろ。
少しはフェルナンド様の気持ちを考えてやれってんだ。
「フェルナンド殿下… ロザミアで最後に会ってから、更に成長されましたね♪ 私、先程のアンドレ殿下に掛けられた言葉で確信しました。フェルナンド殿下は将来、立派に国王としての務めを果たされる事でしょう♪ そして、フェルナンド殿下が良い見本に成れば、ローランド殿下も王弟として、立派に補佐を務めてくれるでしょう♪」
ニッコリ笑って言う私に、フェルナンド様とローランド様は揃って私の足元を指差し…
「「エリカお姉ちゃん… ミラーナ姉上の頭を踏ん付けてグリグリさせながら言っても…」」
…と、ハモった上に眼を遮光器土偶の様にして言うのだった。
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アンドレ様とキャサリン様が新婚旅行に出掛けるのを見送った私達は、残ったロズベルム王国の王族達と昼食を取った後で、ようやくヴィランへ向かって出発したのだった。
ヴィランに着くまで、当然の様に毎日のお風呂は王妃様とロザンヌ様と一緒だった。
1人減ったとは言え、精神的な疲労は変わらない。
いや、むしろ増えているかも…?
とにかく相手が相手なだけに抵抗する事も出来ず、2人から好き放題に身体を洗われる。
ホプキンス治療院のメンバーは、毎回お風呂で疲れ切った私を慰めてくれるのだが…
「慰めなんか要りませんよぉ… そんな事より、誰か代わってくださいよぉ…」
残りの日程が半分程になった頃、私はマジでギブアップを宣言した。
2人共、ロズベルム王国への往路で私をキャサリン様に独占されていた鬱憤を晴らすかの如く、毎回2時間以上も私とお風呂を共にするのだ。
2人は私を2時間以上も好きに出来て満足だろうが、こっちの精神は限界を超えていると言っても過言ではない。
美しい王妃様と、若くてピチピチのロザンヌ様の2人と一緒にお風呂に入れて羨ましい?
バカ野郎!
相手が身分に差の無い平民の女性なら、私だって純粋に楽しむわいっ!
が、相手は王族なんだぞ!?
こっちからの要望も言えないし、下手に抵抗すると不敬罪だか何だかで処罰されるかも知れないんだぞ!?
そんな相手と一緒にお風呂に入って楽しめるのか!?
って、誰に言ってんだ、私は…
「エリカさん… 残りの日程は10日程です… 辛いとは思いますが、辛抱して下さい…」
「そうよ、エリカちゃん… 残り10日程じゃない… ヴィランに着けば、王妃陛下もロザンヌ殿下も一緒にお風呂に入ろうなんて言わないわよ…」
「そうそう♪ …って言うかさ… なんでエリカちゃん、されるがままなの? 逆に王妃陛下やロザンヌ殿下を洗ってあげれば良いんじゃない? 抵抗するのはダメでも、洗うのはダメって事はないと思うんだけどな~」
アリアさん、ミリアさんが慰めてくれる中、モーリィさんが思ってもみなかった提案をする。
その手があったかぁあああああっ!!!!
翌日、私は『たまには私が2人を洗って差し上げます♡』と言い…
魔法で作り出した〝タワシ(硬度:硬い)〟を用い…
2人を文字通り悶絶させたのだった。
ざまぁ♡




