第213話 過去には色々あった様ですね…
風呂では3人──王妃様、キャサリン様、ロザンヌ様──から寄って集って好き放題に身体を洗われた私だったが…
さすがに就寝時は解放され、キャサリン様だけが一緒の寝室だった。
………………って、何でやねんっ!
「何で私がキャサリン殿下と同室なんですか…?」
「何でって、私が希望したんですのよ? 夕食の時にも言いましたけど、婚礼の儀が終わるまでが、私がエリカちゃんを独占する最後のチャンスなんですもの♪ これを最大限利用しないなんて、そんな勿体無い事出来ませんわ♪」
満面の笑顔で語るキャサリン様。
こっちの都合… じゃなくて感情… いやいや気持ち… かな?
とにかく自分の事ばかり考えんと、こっちの事も考えんかい!
言えんけど!
…いや、ここは敢えて言わせて貰おう。
「キャサリン殿下… 私を独占したい気持ちは理解します… いえ、正直言うと理解出来ませんけど… もっと言えば、王妃陛下やロザンヌ殿下もです… 何故、私を寄って集って(お風呂で)洗いたがるのか、全く以て解らないんです…」
思い切って言おうとしたが、相手が王族である事にビビってしまい、言葉を選んで当たり障りの無い様にしか言えなかった。
我ながらチキンである。
「う~ん… 言われてみれば、何故でしょう…? 不思議ですわねぇ…?」
あんた自身も理解しとらんのかいっ!
いやまぁ、一時期ミラーナさんも私を洗う事にハマってたし、明確な理由なんて意外に無かったりするんだろうけど…
てか、異世界って娯楽が少ないから、そんな事でも趣味(?)として確立してしまうんだろうか…?
それにしても、今の状態は何なんだ!?
私が(ビビりながら)言い、それにキャサリン様が答えている間に、私はベッドに引き摺り込まれて抱き枕にされていた。
「あの~、キャサリン殿下…?」
私が抗議しようとキャサリン様に顔を向けると…
彼女は幸せそうな顔をして、スヤスヤと寝息を立てていた。
寝付くの早過ぎやろ!
私は身を捩り、何とかキャサリン様の拘束を解こうとするが…
意外な力強さに諦めて寝ました…
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翌朝。
私は就寝時と全く同じ体勢で目覚めた。
確認すると、キャサリン様も全く同じ体勢で、ガッチリと私をホールドしている。
私を絶対に独占してやるとの執念なのだろうが…
寝ている間でも揺らがんのかいっ!
「んぁ… おはようございます、エリカちゃん♡ よく眠れましたか?」
程無くして目覚めたキャサリン様は、ニコニコ笑顔になって問い掛けてくる。
いや、『♡』ぢゃ無えし…
「眠れたかどうかで言えば眠れました… けど、一晩中ガッチリとホールドされてたからか、寝返りすら打てなかった様で… 全身がバッキバキに凝り捲ってるんですけどね…」
嫌味の一つでも言ってやらなきゃ、と思ったのだが…
「まぁっ! それはいけませんわ! 朝食の前に、お風呂で身体を解しましょう♪」
前半は慌てた様子だったが、後半の『♪』で本音が出たな!?
こいつ、最初からそれが目的だったろ!?
王妃様やロザンヌ様を出し抜いて、風呂で私を独占して洗うつもりだったな!?
がっでむ!
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朝食の席では、キャサリン様はホクホク笑顔。
私は魂が半分抜けた状態だった。
半ば無意識のまま朝食を終え、午後からの婚礼の儀に向けてドレスに着替える。
今回のドレスは淡い青。
キャサリン様からは例の銀のドレスをリクエストされていたのだが、主役であるキャサリン殿下より目立つので固辞した。
ちなみにミラーナさんは黄色、ミリアさんとモーリィさんは緑、ルディアさんはピンク、アリアさんとライザさんは青。
全員淡い色味だ。
勿論、新婦であるキャサリン様は純白。
異世界の結婚式でも、新婦は白なんだな。
ただ、参列者は色取り取りだし、新郎は軍服みたいな服装だ。
軍服と言うか、正装が軍服みたいな形状なんだろうな。
こちらも白が基調になっている。
婚礼の儀は、異世界の女神であるアミルエレスと思しき像の前で永遠の愛を誓うといった簡素なモノ。
最後はヴィランから同行してきたカメラマンが、アミルエレス像の前に集合した全員の写真を撮って終了。
その後は披露宴へと進む。
が、披露宴とは名ばかり。
立食形式のパーティーで、誰も彼もが飲んで食って喋り捲ってる。
時々、カメラマンが新郎新婦を数名の参列者と一緒に写真に収めていく。
ミラーナさんは我々ホプキンス治療院の面々と共に写っておきながら、ちゃっかり新婦側の親族とも一緒に写っていた。
夕方になって、ようやく披露宴が終了。
ロズベルム王国側の参列者達は、各々の王都邸へと帰っていく。
私達イルモア王国側の参列者は、王宮や離れに割り当てられた部屋へと戻る。
私は何故か、ロザンヌ様と同室だった。
なんでやねんっ!
「ロズベルム王国までの道中、ず~っとキャサリン姉様にエリカちゃんを独占されましたもの。これからイルモア王国… ヴィランに帰るまでは、私がエリカちゃんを独占させて貰いますわ♡」
いや、『♡』ぢゃ無えし…
その後、少し遅めの夕食の席でもロザンヌ様は私にベッタリ。
アンドレ様の隣で食事するキャサリン様は、殺気を込めた視線で私達を睨んでいたが…
苦笑するアンドレ様から何か言われ、その後は2人で談笑しながら食事していた。
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食事の後のお風呂では、当然の様に王妃マリアンヌ様、キャサリン様、ロザンヌ殿下から私は好き放題に全身を洗われ捲っていた。
明日からは1人減るとは言え、ヴィランに着くまでは毎日の様に王妃様とロザンヌ様から洗われるんだろうなぁ…
そんな事を思いながら、キャサリン様に明日からの予定を聞いてみる。
「明日は朝食の後、参列してくれた皆さんを見送って、それから新婚旅行の準備ですわね♪」
異世界にも在るんだな、新婚旅行の習慣…
「キャサリン姉様、新婚旅行は何処に行かれますの?」
「ムルディア公国まで船で行きますの♪ 公国内をノンビリ一周してから、また船でロズベルム王国まで帰る予定ですわ♪ だから、半年ぐらいは漫遊する事になりますわね♪」
ロザンヌ様の質問に笑顔で答えるキャサリン様だが…
遠いし期間も長いな!
日本じゃ新婚旅行なんて、せいぜい1週間だぞ!?
まぁ、それは庶民の感覚だし、異世界の王族とは違うだろう。
アンドレ様としても、王太子として見聞を広める意味もあるんだろうしな。
てか、イルモア王国はムルディア公国と国交があるけど、ロズベルム王国はどうなんだ?
「アンドレ様に聞きましたけど、ムルディア公国との国交を樹立したのはロズベルム王国の方が早かったそうですわね。イルモア王国がムルディア公国との国交を樹立したのは、それから10年ぐらい経ってからだそうですわね」
なるほど…
ロズベルム王国はイルモア王国から分割された国だからな。
下位の国に国交を結ばせて様子を見て、問題が無いと見て国交を結んだってトコか…
ブツブツ言う私に、今度は王妃様が答えてくれた。
「あら~、エリカちゃん♪ ミラーナが言ってたけど、結構鋭いのねぇ♪ 新興国と国交を結ぶ前に、自国の下位国に国交を結ばせて様子を見るのは常套手段よぉ♪ ロズベルム王国がムルディア公国と国交を結んだ当時、ムルディア公国は建国して10年を少し過ぎたぐらいだったかしら? 大国だったイルモア王国も国を分割して規模を縮小したばかりだったから、慎重になってたみたいねぇ… 分割した国の先に、ハングリル王国とかチュリジナム皇国って相容れない国も在ったから…」
あぁ、在ったなぁ…
今じゃ、ハングリル王国は戦争に負けた上、チュリジナム皇国からの借金や借りた兵士を損耗した事で、チュリジナム皇国に併合吸収されてしまった。
滅亡と言っても良いかも知んない…
そのチュリジナム皇国も、イルモア王国に対して無茶な戦争を仕掛けてボロ負けした上にクーデターが起こって皇帝が暗殺され、現在は内乱で国内はボロボロ…
王妃様が在ったと過去形で話すのは無理もない。
ハングリル王国の滅亡と、チュリジナム皇国の皇帝暗殺からの内乱…
その両方に私が関与して………いませんよね?
誰か、エリカは関係無いと言って下さい。




