第212話 道中は独占。風呂では…?
ニコニコ笑顔で私とのツーショット写真を眺めて話すキャサリン様。
何故か馬車に同乗させられて話を聞かされている私は、護衛として同乗している騎士達から苦笑されていた。
彼等は理解しているのだ。
キャサリン様が私に執心している事を。
私も私でキャサリン様の心情を慮り、話に合わせて頷いたり返答したりしている。
が、最初の宿場町が近付いた頃になると、徐々にキャサリン様の言葉数が少なくなる。
やっぱり国を離れるのが寂しいのかな?
そんな事を思っていると、キャサリン様は溜め息を吐いてボソッと呟く。
「お腹が空きましたわ…」
腹が減ってただけかい!
「間も無く宿場町に到着します。先触れを出していますし、丁度夕食時ですので…」
「着いたらすぐに食べられますのね!? この辺りでは何が食べられますの!? 美味しいのかしら!?」
護衛の騎士の言葉に、身を乗り出して質問するキャサリン様。
意外に食い意地が張ってたんだな…
まぁ、気持ちは解る。
私もニースに行った時、アリアさんが止めなければ生態系を破壊しかねない勢いで山菜やキノコを摘んだからなぁ…
程無くして宿場町──ヨアヒム──に到着。
私達は町の中央付近の宿に分宿する事になったのだが…
宿で出される食事より町の食堂の方が種類も豊富、近隣で採れる山菜を多く使っていたり、ニュールンブリンクの大森林に比べると遥かに小さいが、森に生息する野生動物の肉を使っている料理が多いとの事で、キャサリン様が町の食堂での食事を希望。
ホプキンス治療院の面々を護衛にし、出掛ける事になった。
「で…? 何でアタシまでがキャサリンに付いて行かなきゃならないんだよ…?」
「ん~… キャサリン殿下の姉君で、ホプキンス治療院のメンバーだから… でしょうか?」
ミラーナさんのボヤきに、考えつつ答えるアリアさん。
いや、考えるまでもないやんか…
「キャサリン殿下が希望した護衛メンバーですからねぇ… 何か考えがあっての事なんじゃ…?」
アリアさんの言葉にミリアさんが付け加える。
そんなの、あるワケ無ぇだろ…
今の私の状況を見れば、そんなの単なる言い訳だって判るだろ…
「ミリアさん… あのエリカちゃんの状況を見て、何かキャサリンに考えがあっての事って言えるのかい…? アリアちゃんもだよ… 治療院のメンバーを護衛に選んだのって、あれが目的なのは一目瞭然だろ…?」
言ってミラーナさんは、私とキャサリン様を指差す。
その先には、ニコニコ笑顔で私を抱っこして歩くキャサリン様。
すっかり大人になったキャサリン様は、身長がミラーナさんと変わらないまでに成長していた。
私と彼女との身長差は40cm近くにもなっており、初めて会った時には少し見上げる程度だったのが嘘みたいだ…
その隣で羨ましそうに私達を見ているロザンヌ様も、キャサリン様より少し低いぐらいの身長だ。
キャサリン様と10cmも差はないだろう。
2人共、成長したなぁ…
キャサリン様の抱っこに抵抗も出来ず、ボケ~ッとそんな事を考えていると、ロザンヌ様がブー垂れ始める。
「キャサリン姉様… そろそろエリカちゃんを抱っこしてるのも疲れた頃でしょう? そろそろ交代しましょうか? …って言うか、交代して下さいませんか? キャサリン姉様ばかりエリカちゃんを抱っこするのは、さすがにズルいと…」
「思いませんわ♡ なにしろ私、この旅の間がエリカちゃんを独占する最後のチャンスですのよ? ロザンヌは、帰りにエリカちゃんを独占しようと思えば独占出来るでしょう? なので、今は我慢して下さいな♡」
笑顔ではあるものの、眉間に皺を寄せて殺気を漲らせるキャサリン様に、思わず後退るロザンヌ様。
前衛… と言うか、単に先導しているルディアさん、モーリィさん、ライザさんも、キャサリン様の放つ『この旅の間は私を絶対に独占する!』との殺気にも似た迫力ある言葉に思わず振り向いていた。
と言うか、マジで殺気を放ってるよ、こいつ…
また、後衛のミラーナさん、アリアさん、ミリアさんは、キャサリン様の考えをあれこれ推察していたからか、『やっぱり〝ホプキンス治療院のメンバーを護衛に〟ってのは建前で、私を独占するのが本来の目的か』とでも言いたげに、ジト目でキャサリン様を見詰めていたのだった。
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似た様な事が二十数回繰り返され、ようやく私達一行はロズベルム王国へと到着した。
「ここがロズベルム王国か… 初めて来たけど、気候はロザミアと変わらないな。畑で栽培されてる野菜類も同じ様な感じだし、少なくとも食生活に関しては問題ないかな?」
馬車の窓から流れる風景を眺め、ミラーナさんは少しばかり安心した様な言葉を漏らす。
急に食べる物や飲む物が変わると体調を崩す事は多い。
だが、ここロズベルム王国はイルモア王国の南半分と変わらない風土みたいなので、その辺の心配は無さそうだ。
王宮に着き、キャサリン様を歓迎する食事会で出された料理も、イルモア王国の王宮で出される料理と変わらない様で、キャサリン様はアンドレ様と並んで談笑しながら普通に食べていた。
だが…
「普通に旨いんだけど… このハンバーグ・ステーキ、何かちょっと違う気がするな…?」
肉に関して異様な執着心を持っているミラーナさんは、ハンバーグ・ステーキに違和感を覚えた様だ。
「何が違うんですか? 普通のハンバーグ・ステーキだと思いますけど…?」
「うんうん、普通に美味しいよねぇ♪ それにしても、外国に来れて王宮に招かれて食事ってさ、ホプキンス治療院のメンバーならではの厚遇だよねぇ♪ エリカちゃんやミラーナさんと仲良くて良かった~♪」
「モーリィ、ちょっとはしゃぎ過ぎよ? ここは王宮なんだから、少しは落ち着かないと…」
「う~ん… ミラーナさんの言う通り、このハンバーグ・ステーキ… ちょっと何か違う気がするなぁ… 美味しいのは美味しいんだけど…」
「言われないと分からないけど、ちょっと普通のハンバーグ・ステーキと違うわね。どう違うかって言われると答え難いんだけど…」
アリアさん、モーリィさん、ミリアさん、ライザさん、ルディアさんが、それぞれ意見を述べ合う。
ミリアさんとモーリィさんのは意見とは言い難いのだが…
私は2人以外の言葉を受けてハンバーグ・ステーキを食べ、口内で魔法を使って成分を分析する。
その結果は…
「このハンバーグ・ステーキ… 多分ですが、大豆ミートを使ってますね… それも全てではなく、 およそ半分ってトコでしょうか…?」
私の分析に、目を丸くして驚くアンドレ様。
「エリカちゃん、分かるのかい? 実は、ロズベルム王国では畜産が進んでいなくてね… 代わりにと言ってはなんだけど、大豆の生産量が多いから挽き肉に混ぜて使ってるんだ。純粋な獣肉を食べ慣れてる人には物足りないかも知れないけどね…」
言われて私は肉に関して異様な執着心を持っているミラーナさんを見る。
「大豆を使ってんのか… でも、言われなきゃ分かんないよな。何か違うな~ってだけでさ。それに、旨いし♪」
旨けりゃ何でも良いみたいだな、こいつ…
他のメンバーを見ても、全員が満足そうに食べながら頷いていた。
そうして食事会は恙無く終了。
直後、私はキャサリン様に捕まり風呂(大浴場)へと連行され…
王妃様とロザンヌ様を交え、3人がかりで身体好き放題洗われたのだった。
外国に来てもやる事は変わらね~のか、テメー等…




