第210話 ふぉとぐらふ… フォトグラフ!?
宴もたけなわとなった頃、ようやくミラーナさんが戻ってきた。
「エリカちゃん… 父上が聞いてるの、知ってて話を振ったんだろ…?」
やつれた表情で私に迫る。
「う~ん… 知っててと言うより、視線を感じたんですよね。で、誰かな~って視線を感じた方向を見ると、国王陛下でしょ? ミラーナさんと出会った頃、ミリアさんから聞いたんですよ… ミラーナさんがハンターになる為に策謀を巡らしてたって。結構、詳しく話してくれましたよ? で、つい…」
「何が『つい…』だよ… お陰で散々説教食らったんだからな…」
「自業自得って気がしないでもないですけど… それにしても、今の今まで… 私が言うまで気付かない陛下も陛下ですけどねぇ…」
「それだけミラーナの言い回しが巧妙だったと言う事でしょうな。あるいは何だかんだ言っておっても、アインベルグがミラーナを溺愛しておると言う事ですかな? そうで無ければ、10歳にも満たない幼児の言葉を真に受けますまい」
いつの間にか私達の会話に参加するランジェス大公。
てか、溺愛ねぇ…
まぁ、初めての子供で女の子。
ドレスを着た今のミラーナさんは、黙っていれば清楚な美人って感じだから、小さい頃はさぞかし可愛かったんだろう。
だとしたら、溺愛するのも頷ける。
しかし…
「ランジェス大公様、溺愛って事ですけど… 私がミリアさんから聞いた話だと、ミラーナさんは自分より妹さん達を優先する様に陛下に進言したそうなんですけど…?」
ランジェス大公はコクリと頷く。
「その話はアインベルグから聞きましたな。同時期に、マリアンヌからも別の話を聞いておりましたので、これは何か裏があるかもと思いましたが…」
「「別の話…?」」
私とミラーナさんがハモって聞く。
「ミラーナ… お主、幼少期にマリアンヌからハンターの話を聞くのが好きだったそうじゃな?」
「う… うん… なんか聞いててワクワクしてさ、しょっちゅう母上に強請ってた記憶があるよ… で、読み書きを覚えてからは、王宮の書庫に入り浸ってハンター関連の本を読み漁ってたっけ…」
「で、自分がハンターになる為に、策謀を巡らしてたんですね…?」
私がジト目でミラーナさんを見ると、ランジェス大公が…
「今になって言うのも何じゃが、私にはバレバレじゃったがな♪ ミラーナなりに頑張っておるんだと、微笑ましく思っておったわ♪」
と、口髭を弄りながらニヤニヤと話す。
「サ… サルバドール伯父さん… アタシがハンターになる為に策謀を巡らしてた事、知ってたのか!?」
「アインベルグの奴は、お主を溺愛してたからか気付いていなかったがな♪ まぁ、アインベルグだけでなく、周りに居る貴族達もミラーナの堂々とした態度で騙されていたみたいだが… 私からすれば、セリフは棒読み… とまでは言わんが、かなり芝居掛かっておったからなぁ… あぁ、これは『自分の望みを叶える為の芝居だな』と、すぐに判ったぞ。私の子供達も、よくやっていたからのぅ♪」
「アタシの演技力って、その程度だったのかよぉ…」
落ち込むミラーナさんだが、気にする事はないと思うんだけどなぁ…
ミラーナさんを溺愛している国王陛下はともかく、そんな感情を抱いていない貴族達を騙せてたんだから…
まぁ、騙してたって言うと、言い方が悪いと思うけど…
演技力に関しては、気にしなくても良いんじゃないかな?
俳優… と言うか、女優じゃないんだから…
「そりゃ~、アタシがハンターになる為の策謀を始めたのは物心が付くか付かないかの頃だからさ、演技力なんて無いも同然だよ… でも、自分なりに頑張ってたつもりなんだけどなぁ…」
それで自分の思い通りに事を進めたんだから、大したモンだよ…
その後もランジェス大公とミラーナさんのやり取りを聞いていると、王妃様や子女の皆さんが見知らぬ人を連れてやって来た。
どう見ても貴族って感じじゃないな…
商人でもないし、何かの技術者って感じだけど…?
「ミラーナ♪ エリカちゃん♪ 良い物を持って来ましたわ♪ 最近になって、王都で開発… と言うか、発明された物ですの♪」
王妃様がニコニコ笑顔で連れて来た技術者(?)の隣に鎮座する物体に、私は見覚えがあった。
かつて(前世)の卒業式の前に、生徒(児童)が校長先生や担任の先生と一緒に撮った記念写真…
その時の、やたらレトロな機材に目を奪われた記憶がまざまざと蘇る。
私達は国王陛下を中心に整列させられ、何枚かの写真を撮影された。
ストロボ代わりのマグネシウムが焚かれる度に、周りの人達がザワめくのが面白いかも♪
撮影が終わると、私は思わず王妃様に尋ねる。
「あの、王妃陛下… これって…?」
「あら、エリカちゃん。もしかして興味があるのかしら? これはきゃめらと言って、ふぉとぐらふなる物を撮影する機械なの♪ まだ技術的にものくろおむでしか撮影出来ないのが残念なんですけどね…」
いや、中世ヨーロッパ程度の文明しかないこの世界で、写真技術を持っただけでも凄いと思うぞ?
「それに、撮影してから完成するまで10日程度の期間が必要ってのも、もどかしいですわね…」
それだけ現像技術が未熟とか、印画紙や薬品の質が良くないって事かな?
「まぁ、それは機材や技術の向上を待つしかありませんね…」
こればかりは私の前世の記憶をフル活用しても、どうにもならないからな…
そもそも写真に関する知識なんか無いし…
「あのピカッて光ったの、何だったの…? 凄く眩しくて… ボク、まだ眼がチカチカしてるよぉ…」
ライザさん、ドラゴンで夜目も利くから、余計に眩しく感じたんだろうな…
「私もですよぉ… あの光、眼に悪くないんですか…?」
極端に近距離だと悪いだろうけど、それなりに距離は離れてたから大丈夫だよ。
てか、エルフだけにアリアさんも光に敏感なのかな?
「あぁ~、眩しかったぁ… ふぉとぐらふの撮影? …って、凄く眩しいのね…?」
ルディアさんは普通(?)だな…
て言うか、これが普通の反応なんだろうけど…
「まだ眼に光の感覚が残ってるわ… なんだか太陽をモロに見た直後って感じ…」
「ミリアも…? 一瞬だったけど、凄い光だったもんねぇ…?」
ミリアさんもモーリィさんも、初めての体験に戸惑っている様だな…
まぁ、2人共ハンターとして夜目が利く様に鍛えているだろうからなぁ…
だとしたら、2人よりハンターとしての技量の高いミラーナさんは、余計に眼にダメージを受けてるんじゃ…?
そう思い、ミラーナさんを見てみると…
手で両眼を覆い、蹲っていた。
そして…
「んぐあぁあああああ~~~~っ!!!! 眼がっ! 眼がぁあああああっ! 眩しいっ! 痛いっ! 何も見えないぃいいいいいいっ!!!!」
…お前はドラゴンやエルフより眼が敏感なんかい…
てか、ここまで敏感過ぎると、もう野生動物って感じだよなぁ…
もがき、のたうち回るミラーナさんの姿を私達ホプキンス治療院のメンバーは勿論、会場に居た全ての貴族達や大臣達が冷めた眼で見ていたのだった。




