第20話 あらゆる意味で凄い人です
ナッシュさんの失言(?)から数日後、私は久し振りにギルドの食堂でマークさんと昼食を食べた。
食後の会話中、王都の事を知りたくて聞いている内に王宮の話題になった。
国王陛下や王妃様の話になり、更に子供の話題になり、女が3人連続で生まれたと聞いた私は少し驚いて声を挙げる。
「王女様が3人も連続で生まれたんですか!?」
「あぁ、それを聞いた国民は『また王子じゃなかったか』って、ガックリしたもんだ」
そうだろうなぁ。
この国は思ったより良い政治をしている様で、国民の殆どが国王陛下や王妃様を慕っているらしい。
そんな国王陛下に跡取りが生まれない事に、国民の多くはヤキモキしているだろうなぁ…
「けどな、この5年で王子が2人生まれたんだよ♪」
マークさんはニコニコして言った。
あ、生まれたんだ。
それは良かったじゃないか♪
「まぁ、第2王子は生まれたばかりだし、第1王子もまだ5歳と幼いがな。とにかく国民は安心したんだよ」
ちなみに王女様は17歳の第1王女を筆頭に、第2王女が間も無く15歳で成人を迎える。
第3王女は13歳だそうだ。
王子達とはそこそこ歳が離れてるが、離れてるからこそ可愛がってそうだな。
微笑ましい国王家族を想像し…
「きっと仲が良い家族なんでしょうね♪」
とマークさんに言うと、何故かマークさんは眉をしかめ…
「まぁ、仲は良いよ。第1王女を除いては…」
第1王女を除いては?
どういう事だ?
「第1王女様とは仲が悪いんですか?」
マークさんは首を降り…
「仲が悪いってのとは少し違うんだよなぁ… 考え方の相違ってのかな、第1王女はかなり個性的な人だから…」
考え方の相違?
個性的?
私が疑問に思っていると、ギルドの扉が開いて1人の女性剣士が入って来た。
ライトアーマーに身を包み、鞘に入った大振りの両手剣を持っている。
プラチナ・ブロンドのショートヘア…
と言う程には短くない。
が、セミロングと言う程にも長くはない。
肩の辺りで切り揃えており、前世で言うショートボブって感じかな?
見た感じはハンターなので、邪魔にもならず女性らしさも失わない、丁度良い長さ…
なんだろうな、知らんけど。
それより特徴的なのは、彼女の持つ瞳の色。
前世でも珍しい色だったし、異世界に来てからも見た事のない紫。
その女性剣士を見て、驚いて立ち上がるマークさん。
「ミ… ミラーナさん!」
ミラーナさん?
あぁ、この人の名前か。
…にしてもマークさん、驚き過ぎじゃないかな?
「お、マークさん。アタシの言った事、守ってくれてるんだな♪」
驚くマークさんに女性剣士は嬉しそうに笑いながら言う。
「そりゃ、まあ… あれだけ頑強に言われたら守りますがねぇ…」
マークさんは疲れた表情で応える。
「アタシに対する話し方が敬語なのは相変わらずみたいだな♪ 普通に話してくれる気は無いのかい?」
ニヤニヤ笑いながら言うミラーナさん。
「それは仕方ありませんよ。そもそも身分が違い過ぎますからねぇ…」
ん?
身分が違い過ぎる?
どういう事だ?
「あの~、マークさん。身分が違い過ぎるって?」
意味が分からない私はマークさんに聞いてみる。
「ふむ…」
マークさんは少し考えると…
「本人に聞いてみな?」
と、ちょっぴり意地悪そうな笑顔で言う。
また意味が分からないが、仕方無いのでミラーナさんに聞いてみる。
するとミラーナさんはウインクしながら微笑み…
「あぁ、アタシの名は聞いての通りミラーナ。あんまり言いたかないけど、この国の第1王女ってヤツさ♪」
と、驚愕の事実をサラッと口にした。
「………………………………は?」
「だから、アタシはミラーナ。この国の第1王女」
私はミラーナさん… いや、ミラーナ王女を呆然と見つめる。
だって王女様でしょ?
ライトアーマーを着た王女様?
ドレスとかじゃなくて?
大振りの両手剣を持った王女様?
羽根扇子とかじゃなくて?
頭には金属のプレートが何枚も貼られた鉢巻き?
ティアラとかじゃなくて?
履いてるのは金属製のガードが付いたブーツ?
ヒールとかじゃなくて?
手に嵌めているのは金属製のガードが付いたロンググローブ?
シルクとかのグローブじゃなくて?
たった1人で?
御付きの人の1人も居なくて?
混乱していると、マークさんが私の肩をポンポンと軽く叩きながら…
「だから言ったろ? かなり個性的な人だって」
と、ミラーナ王女には聞こえない様に言った。
その後、マークさんとミラーナ王女は何やら楽し気に話をし…
「さすがに着いたばかりだから疲れてるんでね。今日は早めに宿屋で休むとするよ。じゃ、明日また来るから♪」
と言い残し、意気揚々と去って行った。
……………………………
個性的なんてモンじゃ無いだろぉおおおお!!!!
何処の世界にミラーナさんみたいな王女様が居るんだぁあああ!!!!
個性的なんて言うから、てっきり王族にしては庶民的な人だとか、17歳って年齢的にもキャピキャピしてるとか、普通はそう思うだろぉおおおお!!!!
何なんだ、あの人懐っこい超絶バトル系の王女様はぁああああっ!!!!
あまりの衝撃に、マークさんとミラーナ王女の話の内容なんか全く入って来なかった。
もっと王女様って清楚な感じじゃ無いのか?
それとも、この世界じゃミラーナ王女みたいなのが普通なのか?
いやいや、確かマークさんは個性的と言ったよな。
確かに言ったよな?
間違い無いよな?
じゃ、やっぱりミラーナ王女が特別なのか?
全く分からん!!!!
私は頭が混乱して夕方からの治療が出来ず、開業以来初めて治療院を臨時休業にしたのだった。
あまりにもミラーナ王女がエリカの持つ『王女様』のイメージから掛け離れていた為、さすがのエリカも理解に苦しんでいる様です。




