第208話 王妃様達の執念(?)には、どうやっても勝てない様です…
私はロザミアに帰ってくるなり、再び王都に向けて出発する事になった。
馬車に放り込まれた私は、同乗するミラーナさんに文句を言う。
あまりに急な出来事に、マインバーグ伯爵とフィリップ様は唖然としているが…
無情にも馬車は王都に向けて走り出す。
「ちょっと待てぇえええええいっ! なんで帰ってきたばかりなのに、また王都に向かわなきゃいけないんですかぁあああああっ!」
「なんでって、まずはロザミアでの最後の社交シーズンだからって事で、キャサリンから是が非でもエリカちゃんを連れて来て欲しいって言われてるんだよね。それと、社交シーズンが終わったらロズベルム王国へ行って、そのままキャサリンの結婚式に出席するからだよ」
しれっと答えるミラーナさん。
しかし私は納得できず、文句を続ける。
「だからって… 私、ロザミアに帰ってきたばかりなんですよ? 少しぐらい休ませてくれたって…」
「まぁ、文句を言いたい気持ちは解るんだけどさ、イルモア王国を離れるキャサリンの我が儘に付き合ってやってくれよ。これが最後…………だと思うからさ♪」
今の微妙な間は何なんだ?
私はミラーナさんを無言で睨み付ける。
ミラーナさんは私から目を逸らし…
逸らした先から更に目を逸らすが、その方向からも目を逸らし…
気付けば馬車の中に居る全員からミラーナさんはジト目で睨み付けられていた。
いや、正確には1人だけ窓の外を夢中で眺めてるけど…
「まぁ、キャサリン殿下の事であるから… なんだかんだ理由を付けて、社交シーズンには帰国しそうではある… と、ミラーナ様は考えておられるのではありませんかな?」
見かねたマインバーグ伯爵が言うと、皆からジト目で睨み付けられたミラーナさんは、小さくなりながらコクリと頷く。
「それを考えると、帰国の度にエリカさんを王都に呼び付けるぐらいの事はしそうですよねぇ…?」
私の隣にちょこんと座ったアリアさん。
首を傾げて頬に指で掻き、困った様な表情で話す。
あぁ… キャサリン様なら、それぐらいの事は平気でしそうだな…
「ボク、馬車での旅って初めてだよ♪ ガタゴト揺れるのと遅いのはイマイチだけど、何もしなくて良いのは楽だなぁ♪」
マイペース過ぎるライザさんは放っておこう…
それより私は気になる事が…
「聞きたいんですけど、治療院ってどうなってるんですか? まさかと思いますけど、誰も居ないなんて事はないでしょうね…?」
私は殺気をMAXにしてミラーナさん、ミリアさん、モーリィさんを睨み付ける。
3人は顔面を蒼白にして…
って、おいっ!
治療院を完全に留守にしたら、ロザミアがどうなると思ってんだ!?
私がロザミアに定住する前は、毎年何人か死んでたってマークさんが言ってたんだぞ!?
「3人共、演技は止めて下さいよ… エリカさん、安心して下さい。ちゃんとアンドレ殿下が20人も魔法医を派遣して下さってます。実力的には申し分なく、骨折を1日に20人ぐらい治せる魔法医ばかりです」
「へっ!?」
私は目を丸くしてアリアさんを見る。
続いてミラーナさん達を見ると…
3人は肩を震わせて笑いを堪えていた。
「…な? アタシの言った通りだろ? エリカちゃん、治療院を空にしたフリをしたら、絶対に動揺するって…」
「…凄い殺気だったよねぇ…♪ すぐにアリアちゃんが演技だってバラしたから良かったけど、そうでなかったらハリセンの一発ぐらい食らってたかも…」
「…だから止めた方が良いって言ったじゃないですか… まぁ、私もアリアちゃんがバラすだろうって思ったから、同意したんですけど…」
ずどぱぁあああああんっ!!!!
めきぐしゃぁあああああっ!!!!
「下らん冗談は止めて下さいっ! 私にとってはキャサリン殿下の我が儘に付き合うより、治療院の方が何より大切なんですからね!」
「エリカさん… 3人共、聞こえてないと思いますよ…?」
アリアさんが私の服をツンツン引っ張りながら言うので3人を見ると…
私の放ったミラーナ仕様ハリセンの一撃で、3人は纏めて馬車の床に頭をめり込ませて失神していた。
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「すまぬな、エリカ殿… 私としても、まさかロザミアに着いた途端に蜻蛉返りする事になろうとは…」
「まぁ、日程を考えると仕方無いのかもしれませんけどねぇ… それでも少し飛ばせば社交シーズンには間に合うんだし、1日か2日ぐらいはロザミアで休めたんじゃありませんか?」
私がロザミアに帰り着いたのは2月10日。
普通に馬車で移動するなら王都までは20日掛かるから、3月から始まる社交シーズンに間に合わせる為、すぐに出発するのは理解出来る。
が、私が馬車を牽引する馬や御者にドーピング魔法を掛ければ、眠らず休まず王都まで移動する事は可能。
半分以下の日程で王都まで行けるのだ。
…って、いつだったか王都からロザミアに帰る時に、その方法で帰ってきた様な気が…
「それなら父上、エリカちゃんの言うどーぴんぐとやらでヴィランに戻りましょう。キャサリン殿下達も、そんなに早くエリカちゃんが戻るとは思っていないでしょうから、今度は王都邸でノンビリお風呂に入って頂けるのでは?」
「それ、採用!」
フィリップ様の意見に、私は間髪入れず賛成する。
「当然ですが、ミラーナさん達も一緒で構いませんよね? 仮にミラーナさんだけでも王宮に帰ったら、私が王都に居るのがバレちゃうかも知れませんからね」
「…それもそうか。アタシだけが先行してヴィランに戻るってのも、おかしな話だからな」
ミラーナさんも賛成してくれた様だ。
そんな中、おずおずと手を挙げるルディアさん。
「それ、私もですか…? 貴族様の御邸に、私みたいな黒人がお邪魔しても大丈夫なんでしょうか…?」
人種を気にしてんのかい…
ロザミアでは人種差別は無いけど、王都は別だとでも思ってんのかな?
「人種を気にしているのであるか? それなら気にする事はない。イルモア王国では人種に由る差別を禁じておるし、貴殿の事はランジェス大公から聞いておるのでな」
「父上の言う通りだから安心してよ。王都には他の街より有色人種が多いんだ。それに、僕の婚約者も黒人ではないけど有色人種でね。少し浅黒い肌をしてるんだけど、チャーミングな女性なんだ♡」
話の後半、フィリップ様は全員がドン引きする程デレていた。
「フィリップの惚気は置いといて… ルディアさん、マジでイルモア王国には人種差別なんて無いから安心してくれ。事実、アタシ達みたいな白色人種とルディアさんみたいな黒色人種が婚姻を結んでる例も多いんだ。アタシの元・婚約者候補にも、何人か黒色人種が居たしね♪」
「フィリップもだが… 白色人種も含め、全員がミラーナ様にブッ飛ばされたのであるがな。はっはっはっ♪」
おっさん… 余計な事を言うなよ…
フィリップ様、落ち込んでるじゃんか…
「父上ぇ~… もう忘れさせて下さいよぉ~… ミラーナも笑うなよぉ~…」
遮光器土偶みたいになった眼から、ツ~ッと涙を流すフィリップ様。
ミラーナさんはと言うと…
フィリップ様から顔を逸らし、肩を震わせて笑っていた。
いや、ミラーナさんだけじゃなく、事情を知っているミリアさん、モーリィさんも、顔を俯せ必死(?)に笑いを堪えている。
てか、いつの間に復活したんだ、テメー等…?
ついさっきまで、(ハリセンを食らって)馬車の床に頭をめり込ませて失神してただろうが…
「…まぁ、狭い車内での一撃でしたからねぇ。威力が半減してたんじゃないですか?」
アリアさんが冷静に分析(?)する。
「なるほど… なら、狭い空間でも威力が落ちないハリセンを…」
「「「それは止めてっ!」」くれっ!」
ミラーナさん達3人は、全力でハモって私の研究(?)を阻止するのだった。
その後、私のドーピング魔法で移動した私達は、社交シーズンが始まる10日前に王都に到着。
少しはノンビリ出来ると思ったのだが…
私の魔力を感知した王宮に勤める侍従の1人がキャサリン様に密告…
私は王宮に拉致され、毎日王妃様達からお風呂攻撃を食らわされたのだった。
ど畜生!




