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小さな魔法医エリカ ~ほのぼの異世界日記~  作者: タイガー大賀


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202/243

第201話 王都への道中は、治療三昧です。何故だ…?

 私はマインバーグ伯爵に拉致(らち)(?)され、最初の宿場町『タルキス』に()る。

 ロザミアに逃げ帰ろうと思えば可能な場所だが、私の魔法医──医者──としての使命感が(ゆる)さなかった。

 護衛として同行している騎士達の誰もが身体(からだ)()()かを故障していたのだ。

 勿論、マインバーグ伯爵も。

 もっとも、伯爵は一番軽症なので後回(あとまわ)し。

 最も重症なロッド・ゲイル騎士団長から治療を(ほどこ)していく。


「なんで、こんなになるまで放置してるんですか…? (けい)(つい)(つい)(かん)(ばん)ヘルニアを発症してますよ? 手や足が(しび)れたり、肩、背中、腕にかけて痛かったりしてたでしょう? (ちから)(はい)(にく)かったりした事はありませんか?」


「エリカ殿、その()()()()()()()()()()()()()()とは何であるか?」


 ゲイル騎士団長を診察しながら言うと、(かたわ)らで様子を見ていたマインバーグ伯爵が聞いてくる。


「簡単に言えば、骨と骨の間にある円板状の軟骨… これを(つい)(かん)(ばん)って言うんですけど、それがはみ出た状態をヘルニアって言うんです。それが(けい)(つい)、つまり首の骨で起きてるんですよ」


 私が説明するが、マインバーグ伯爵は首を(かし)げる。

 まぁ、異世界(この世界)の医学は地球の中世(なみ)だからな…


「そうなると、どうなるのであるか?」


「首を含めた背骨の中には神経の(たば)()まってます。軟骨がはみ出した事で、その神経が圧迫(あっぱく)されるんですよ。特に首は、全身に(つな)がる神経が集まってますからねぇ… それこそ、首から肩・背・腕にかけての痛み、()()(しび)れや脱力などの症状が現れるんですよ」


 なんとなくだが、マインバーグ伯爵もゲイル騎士団長も理解した様だった。


「た… 確かにエリカ殿の(おっしゃ)る通りの症状はありました… 疲れと(とし)()()だと思っていたのですが…」


「まぁ、あながち間違ってはいませんね… 加齢でも(つい)(かん)(ばん)ヘルニアは発症しますから。でも、だからと言って放置しないで下さい。若い(うち)は回復力も高いですし、少々の不調も少し休めば良くなるでしょうが… 人間、30歳を()えたら徐々に回復力も体力も(おとろ)えるんですよ? そりゃ、その下降も訓練や運動の継続で(おさ)えられますが、それでも限界はありますからねぇ…」


 話ながらも治療を終えると、ゲイル騎士団長は肩をグルグル回しながら満足そうに(うなず)く。


「さすがは(うわさ)に聞くエリカ殿ですな。もう痛みも(しび)れもありません」


 どんな(うわさ)なんだか…

 どうせ変に持ち上げてんだろうけど…

 その()、夕食を(はさ)んで騎士団の面々を治療した私は、最後にマインバーグ伯爵の治療を(おこな)う。

 さすがに普段から(きた)えているだけあって、(まん)(せい)(てき)な症状は()(じゅう)(かた)ぐらい。

 まぁ、最近では()(じゅう)(かた)も含めて丸ごと()(じゅう)(かた)と呼ぶんだけどな。

 どうでも()いけど…

 それはともかく、マインバーグ伯爵の場合は(まん)(せい)(てき)なモノではなく、単に加齢が原因なだけだ。

 腰椎(ようつい)椎間板(ついかんばん)ヘルニアの(ちょう)(こう)も確認できたが、まだまだ予備軍の(いき)を出ないので(よう)()()だ。


「まぁ、私も45歳であるからな。それは(いた)(かた)あるまい。だが、(きた)えていなければ、もっと症状は重かったのであるか?」


(きた)えている、いないより、若い頃と変わらず動かしてるからじゃないですかね? と言うか、()(じゅう)(かた)とか()(じゅう)(かた)とか言いますけど、原因が明らかな(しっ)(かん)はそれらに含めないんです。(よう)は『肩に(とう)(つう)(ズキズキ痛む事)と運動障害がある』『患者の年齢が40歳以上である』『明らかな原因が無い』という3条件を満たすモノを()(じゅう)(かた)とか()(じゅう)(かた)と呼ぶんですよ。伯爵様の場合、若い頃と同じ様な(たん)(れん)を行っている事で肩の()動域(どういき)(たも)たれている(ぶん)、痛み(など)の症状が(おさ)えられているのではないかと… まぁ、()くまでも私の(すい)(そく)に過ぎませんけどね」


 私の説明にマインバーグ伯爵は(うなず)く。


「ふむ… ミラーナ様に勝ちたいとの(いっ)(しん)(たん)(れん)(おこな)っていたのであるが、意外な所で身体(からだ)の状態を(たも)っていたのだな…」


 ミラーナさん打倒(目的)はともかく、それが身体(からだ)の若さを(たも)ってるんだから()いか…

 そうして全員の治療を終えた私は、さっさと風呂に入って眠ったのだった。





 ────────────────





 翌日からは、移動と()(とう)の治療ラッシュだった。

 宿(やど)で朝食を済ませると、すぐに馬車で次の宿場町まで移動。

 移動中はマインバーグ伯爵とゲイル騎士団長に(りょう)(わき)を固められ、向かい側には3名の騎士団員。

 更に騎馬の護衛5人が馬車を(かこ)んでいて、楽しく会話しつつも『絶対に逃がさない』とのプレッシャーを掛けられている。

 そして宿場町に着くと、()()()宿(やど)()に傷病人が(さっ)(とう)

 外が真っ暗になるまで診療に忙殺(ぼうさつ)された。

 勿論、途中に()る貴族が(おさ)める(まち)でも同様。

 と言うか、(まち)の方が宿場町より押し掛ける傷病人は多い。

 人口が多いから当然なのかも知れないが、こんな事は初めてだ。

 王都には何度も行ってるが、途中で治療活動した覚えは無い。

 これ、絶対に何か裏があるだろ…

 そう思った私は、夕食の席でボソッと(つぶや)いた。


「まるで私の来訪(らいほう)を知っていたみたいに患者が来ますねぇ…」


 ()()()じゃなく、本当に()()()()()()()来たんだろうけどな。


「確かに不思議であるな… エリカ殿を迎えに行く時には、その(よう)な雰囲気は感じられなかったのであるが…」


 言ってマインバーグ伯爵は(あご)に手をやり考え込む。

 ん? マインバーグ伯爵の()(がね)かと思ったが、違うのか?

 いや、考えてみたらマインバーグ伯爵に()()()()をする理由が無いな。

 なら、いったい誰が…?

 私が周囲を見渡すと、1人キョドった若い騎士が居る事に気付いた。

 彼は街や宿場町が見えたら先行し、宿(やど)の手配をするのが担当だった(はず)だけど…

 確か階級は少尉で25歳、名前はトーマス・ボウマンだったな。

 そのトーマスさんは、私の視線に気付くと頭を下げて(あやま)り倒した。


「も… 申し訳ありません! 私が宿(やど)を手配する(さい)、エリカ殿の事を話したのです! そうする事でエリカ殿の治療を望む患者が宿(やど)に押し寄せ、エリカ殿の逃亡を(ふせ)げると思い…」


「お前の所為(せい)かぁっ!」


 すぱぁあああああんっ!!!!


 ゴルフ・スイング式のハリセン・チョップの一撃が、頭を下げたトーマスさんの顔面に炸裂(さくれつ)

 トーマスさんは空中を()う様に3回転し、顔面から床に落ちた。


理由(わけ)を話せっ! 何が目的で… って、私の逃亡を(ふせ)(ため)って言ったけど、あんたの考えじゃないでしょっ! 誰に指示されたっ!?」


「ボウマン少尉… エリカ殿の言う通りであろう? 素直に話せ。(いた)(かた)ない理由であれば、エリカ殿は許してくれると思うぞ?」


 (いか)る私を(せい)し、マインバーグ伯爵が静かに語り掛ける。

 しかし、何故かトーマスさんは顔を(そむ)け、明後日(あさって)の方向に視線を向ける。

 素直に白状した(ゲロった)方が()いだろうに、伯爵の言葉にこんな(たい)()を取るって事は…

 間違いなく伯爵より上の階級からの指示だな?

 それでもそれなりの階級の騎士なら…

 (よし)んば(こう)(こう)(しゃく)(あた)りが無茶な事を言っても、道理に(もと)るなら拒否するだろう。

 て事は、絶対に逆らえない相手からの指示だな?

 つまりは王族だ。

 そして、そんな事をする王族と言えば…


「なるほど… トーマスさんに私の足止めを命じたのはマリアンヌ(王妃)陛下… もしくはキャサリン殿下かロザンヌ殿下ですね? それなら仕方ありませんね…」


 私は肩を落とし、王都に行く覚悟を決めた。

 ただし、誰の()(がね)かハッキリさせてからだ。

 勿論、黒幕にはハリセンを叩き込むのは決定事項。

 それが(たと)え王妃様であったとしても…

 私の決意に、何故かマインバーグ伯爵を初めとした全員が引き()った笑顔を浮かべていた。

 何故だ…?。

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