第200話 拉致られました… って、なんでやねぇえええええんっ!
とうとう200話です。
読んで下さってる皆様には感謝しかありません。
異世界でも正月は三ヶ日の様で、飲食業界は4日から仕事を始めている。
商店なんかは5日からが仕事始めだ。
前世の日本と同じなのが面白い。
今更だけどな…
また、サービス業のホテルや宿屋、テーマパークは休む事なく営業している。
勿論だが、ギルドも正月休みは無い。
年末捻出特有の依頼もあるからだ。
年末大掃除の手伝いとか、正月の飾り付けの手伝いとか庶民的なモンだけどな。
てか、正月の飾り付けって日本かよ…
まぁ、注連縄も注連飾りも無いし、門松も無いけどな。
異世界での飾り付けは、前世のクリスマスみたいな飾り付けだったりする。
勿論、クリスマスツリーは無い。
クリスマス自体が無いんだから、当然だけどな…
そんなこんなで1月も5日になると、街は普段の活気を取り戻す。
もっとも、5の付く日を休診日にしているホプキンス治療院は、ロザミアで唯一の休みを満喫してるのだが…
ミラーナさん、ミリアさん、モーリィさん、ライザさんの4人は早速ギルドに出向き、適当な魔物の討伐依頼を受けてニュールンブリンクの大森林へ出掛けていった。
なので今、治療院でノンビリしてるのは私、アリアさん、ルディアさん(シフトで5の付く日が休み)の3人だ。
「それでは少し遅いですが、新年おめでとうございま~す♪」
「「おめでとうございま~す♪」」
私が言うと、アリアさんとルディアさんがハモって応え、エールで乾杯する。
私は私の小さな身体に比べて大きいジョッキを両手で持ち、魔法で冷やしたエールを喉に流し込む。
「ぷはぁ~っ♪ 美味しい~っ♡ 昼間っから飲むエールは最高ですねぇ♡」
私は満面の笑みを浮かべ、エールが半分に減ったジョッキをテーブルにダンッと置く。
「エリカさん… それ、まるっきり酒飲みのセリフですよ…」
「エリカちゃんがお酒を飲んでると、なんだか子供に飲酒させてるみたいで罪悪感があるわねぇ…」
言って2人は私を見ながら苦笑する。
「何を言ってるんですか。私はこう見えても29歳なんですからね? この治療院の人間の中では最年長なんですよ?」
「そうなんだけど、やっぱり見た目がねぇ…」
苦笑したままエールを飲み、肴代わりの寿司を食べるルディアさん。
まぁ、見た目8~10歳の私の身長は130㎝で、10歳女性の平均身長(日本人)より10㎝近く低い。
顔立ちだって銀髪と瞳の色──エメラルド・グリーン──以外は日本人風だから、欧米人的な顔立ちのイルモア王国──だけでは無いが──では見た目の年齢より更に幼く見えるだろうしな。
「私から見ても、エリカさんは幼く見えるんですよねぇ… まぁ、私も見た目は13~14歳ぐらいなんで、エリカさんの事は言えませんけど…」
なんて話してると、玄関の呼び鈴が鳴って来客を伝える。
「ん~? 折角の休みを満喫してるってのに、急患ですかぁ~?」
私はジョッキ片手に階段を降り、残ったエールを飲みながらドアを開ける。
「どうしました~? 今日は休診日なんで、急を要さない病気や怪我は…」
「おお、エリカ殿! 新年おめでとう! 久し振りであるな! 突然で悪いのだが、今から私と一緒にヴィランまで同行を願いたい!」
そこに居たのはマインバーグ伯爵。
私の言葉を遮り、言うが早いか待機させていた馬車に私を放り込む。
「なななななっ! 何ですか、この状況はっ!?」
「すまないが、話は馬車の中でさせて貰う。治療院の関係者には、この手紙を読んで貰おう」
私の混乱を余所にマインバーグ伯爵は手紙を治療院の玄関に置き、馬車に乗り込むと御者を急かしてロザミアを後にしたのだった。
これって拉致か?
拉致なのか!?
────────────────
「…で? ど~ゆ~事なのか説明して貰えますか?」
私が睨んで言うと、マインバーグ伯爵は少し戸惑った様に話し始めた。
「実はエリカ殿に頼みがあってな… しばらくの間、ヴィランで魔法医達の講師を務めて貰いたいのだ…」
「はぇっ!? 私が講師!? ど~ゆ~事ですか!?」
ワケが解らず、私は頭が混乱する。
「エリカ殿は、キャサリン様がロズベルム王国のアンドレ殿下の元に嫁ぐ事は存じておるな?」
私は黙って頷く。
「そのアンドレ殿下が、婚礼の儀にホプキンス治療院の方々を呼びたいと仰ってる事は?」
「知ってます… と言うか、アンドレ様から直々に出席して欲しいと頼まれましたよ…」
私の言葉を聞き、驚くマインバーグ伯爵。
「それは何故であるか!? アンドレ殿下はロズベルム王国に帰った筈だが…?」
私はアンドレ様がミラーナさん達と共にロザミアに来ていた事を簡潔に話した。
「なんと… アンドレ殿下がロザミアに… それもエリカ殿の所に滞在していたとは… ならば、ロズベルム王国の魔法医の実力も聞いたであろう?」
「えぇ、聞きましたよ。話を聞く限りでは、魔法医としての実力も考え方も、イルモア王国… と言うより、ヴィランの魔法医達より間違い無く上ですね。以前、私の代わりを務めた魔法医達は、40人も集まったワリに良くやったとは言い難く…」
マインバーグ伯爵の表情が強張る。
が、私は構わず続ける。
「ところがアンドレ様の話では、ロズベルム王国の魔法医なら20人も居れば、交代制で私とアリアさんの代わりには事足りるみたいなんですよねぇ。骨折ぐらいなら、1人で1日20人ぐらい治せるらしいんですよ。ヴィランの魔法医達は、10人も治せないってのに…」
マインバーグ伯爵は強張った表情から呆れた表情に変わり、馬車の座席に力無く凭れた。
「ならば、やはりエリカ殿を講師として招聘すると言う王妃様の考えは正解であるな… エリカ殿、すまぬがヴィランの魔法医達に魔法医としての心構えを教え、実力向上の為の訓練を施してはくれまいか? このままでは、イルモア王国に真の魔法医はエリカ・ホプキンスしか居ないと、他国に陰口を叩かれかねん。このルドルフ・フォン・マインバーグ、伏して願い奉る!」
奉るな!
あんた、最近の戦の功績で、侯爵に陞爵寸前なんだろ!
そんな偉いさんに頭を下げられたら、断りたくても断れんやないかいっ!
…等と言ってる間に、最初の宿場町が見えてきたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「エリカさん、マインバーグ伯爵様と一緒にヴィランに行ったみたいですね…」
「マインバーグ…? 伯爵…? エリカちゃんって、貴族様とも付き合いがあるの? 見た目は子供なのに、底が知れないわねぇ…」
マインバーグ伯爵の残した手紙を見ながら、アリアとルディアはエールを飲みながらボケ~っと会話を交わしていた。
そこへミラーナ達が帰宅。
2人から事情を聞くと…
「母上が裏で糸を引いてんのか… そりゃ、
マインバーグ伯爵も逆らえないよなぁ… エリカちゃんもだけど…」
「マインバーグ伯爵様も、気苦労が絶えませんねぇ… エリカちゃんもですけど…」
「ホント… 王妃様に振り回されるマインバーグ伯爵様もだけど、エリカちゃんも大変だねぇ…」
「ボク、疲れたから少し寝るね。夕飯の用意が出来たら起こしてね~♪」
ミラーナ、ミリア、モーリィの3人はエリカとマインバーグ伯爵に同情していた。
が、我関せずと言った感じのライザだけは相変わらずのマイペースで、さっさと部屋に戻ってベッドに潜り込んだのだった。




