第19話 もしかして知らなかったの?
「エリカちゃん、助けてくれ!」
その日の朝の治療を終え、ギルドの食堂で昼食を食べていると、私がロザミアに来た翌朝にギルド登録の試験(?)として足の怪我を治したザックさんがギルドに飛び込んで来た。
「誰だ! 俺のエリカちゃんに気安く助けを求めやがるのは!」
「「「誰がテメーのだ!!」」」
ドッカ~ン!!!!
どさくさ紛れにとんでもない事を叫ぶナッシュさんに向かって、ギルド内に居たハンター達やギルド職員達が一斉に持っていた物を投げ付ける。
誰だ、椅子やテーブルまで投げ付けたの…
ナッシュさん、埋もれて姿が見えなくなってるじゃないか…
とりあえず私はザックさんの元に駆け寄る。
「どうしたんですか?」
私の背後からナッシュさんと、ナッシュさんに物を投げ付けた人達の言い争う声が聞こえる。
うん、ナッシュさんの命に別状は無いみたいだから良しとしよう。
ザックさんに事情を聞くと、ザックさんを含めた仲間達7名で西の大森林へ行き、薬草採取をしている最中にまたもホーンベアに襲われたとの事。
ホーンベア1頭なら問題無い人数だったが、運悪く出会したのは3頭。
何とか退治したものの全員が怪我してしまい、とても街まで戻れない。
一番軽傷のザックさんが、急いで救援を求めに戻ったって事だった。
私は仕事を受けていない10名のハンターの人達と共に、西の大森林へと向かった。
ちなみにナッシュさんは、言い争いの最中に気性の荒いハンターの兄ちゃんにドツかれて気絶していた。
西の大森林まではロザミアから徒歩で1時間ちょっとの距離。
私がロザミアに来る前に転生された森は東側で、規模は西の大森林の10分の1も無いんだとか。
結構大きいと思っていた森がそんなに小さいなんて、西の大森林ってどれだけ大きいんだろう…
のんびり歩くワケにもいかないので、ザックさんの怪我を治療した私とハンターの兄ちゃん達、更に案内のザックさんの全員が小走りで大森林へと向かう。
─────────────────
西の大森林に着くと、怪我人達は全員が大森林から少し離れた草原に横たわっていた。
動ける者は、動けない者を何とか引き摺って危険な森から出たらしい。
ホーンベアに襲われたのは、森に入って50mちょっとの距離。
動ける者は4人、動けない者は2人。
動ける者が多かったのが不幸中の幸いだったな…
ザックさんは唯一足を怪我しておらず、他の怪我も比較的軽傷だったので、全力で助けを求めに走ったそうだ。
近くに川が流れているので、付いて来てくれたハンターの兄ちゃん数人に頼んで水を汲んで来て貰う。
出血と呼吸の荒さ、更には痛みから来る発汗で脱水症状を起こす可能性が高い。
水を汲んで来て貰ってる間に重傷者から治療を施す。
魔法で切れた血管や神経、靭帯や腱や筋肉組織を繋ぎ、傷口を修復していく。
1人目の治療が終わる頃、皮袋数個に水を汲んでハンターの兄ちゃん達が戻って来る。
私の指示で、入れ替わりに数人の兄ちゃん達に川まで水を汲みに行って貰う。
1人目の怪我が完全に治った事を確認し、更に大量出血から来るショック症状を起こさせない為、増血の魔法も施しておく。
─────────────────
治療開始から約1時間半、ようやく全員の治療が終わった。
なんとか死者を出さずに済んだ事に、全員が安堵の溜め息を吐いたのだった。
いくら無制限に魔法を使えると言っても、これだけの重傷患者全員を完治させるのは精神的に疲れる。
私は立ち上がるのも億劫な程に疲労困憊していた。
そんな私を見て、一番体格の良いハンターの兄ちゃんがヒョイと私を抱き上げた。
「えっ? えっ!?」
と困惑する私に向かって…
「エリカちゃん、ありがとな。お陰で仲間が死なずに済んだぜ。疲れたろ? このまま俺が街まで運んでやるから、ゆっくり寝てると良いさ」
と、ニカッと笑って言う。
う~ん…
見た目は美少女(?)でも精神は男の私が、ガタイの良い兄ちゃんにお姫様抱っこで運ばれるのには抵抗があるけど…
そんな事を考えてる内に、疲れ切った私は眠ってしまったのだった…
─────────────────
しばらくして気が付くと、私はお姫様抱っこされたままギルドの扉を潜るところだった。
「おっ? 気が付いたかい、エリカちゃん? 丁度ギルドに着いたぜ」
ガタイの良い兄ちゃんが私に声を掛けると、その様子を見たナッシュさんが食って掛かる。
「あぁっ! ケインの旦那! 俺のエリカちゃんに…」
と言ったところで…
「「「テメーのじゃ無えっ!」」」
と、ナッシュさんは数人の兄ちゃん達にドツかれる。
う~ん、学習しないヤツ…
「何を勘違いしてやがる!」
「エリカちゃんはテメー1人のエリカちゃんじゃ無えっ!」
怒鳴られてナッシュさんは涙眼になりながら…
「でもさぁ、エリカちゃんは8~10歳くらいだろ? だったらさ、15歳の俺なら年齢的にも丁度良いと思うんだけど…」
と、何やら意味深な事を言う。
ん?
まさかと思うけど…
「お前、何を言ってんだ? まさかと思うが、エリカちゃんの事を知らないのか?」
その言葉を聞いて、ギルドマスターのマークさんが床にへたり込むナッシュさんに聞く。
「…何をですか?」
首を傾げてマークさんの言葉を理解していない様子のナッシュさん。
「あぁ、そうだった。お前がギルドに就職したのは、エリカちゃんがロザミアに来て半年以上経ってからだったよな…」
マークさんは疲れた表情でナッシュさんに言う。
「知らないんだったら勘違いするのも無理は無いか… なら、この際だから教えてやる。実はな、エリカちゃんは不老不死なんだ。エリカちゃんの見た目は8~10歳ぐらいに見えるが、実年齢はロザミアに来た当時で24歳。あれから1年は経つから25歳になるのかな? つまり、お前より10歳は年上なんだよ。仮にエリカちゃんとお前が良い感じになったとしても、この先お前は歳を取って老けて行くだろ? だが、エリカちゃんの見た目は変わらない。将来、お前が40代や50代になっても見た目が8~10歳のエリカちゃんと付き合ってたら… 知らない人から見たら、お前は幼女趣味の変態だぞ?」
いや、マークさん…
それって何気に私が傷付くんですけど…
そう思いつつナッシュさんを見ると、ナッシュさんはガクッと肩を落として
「そんな…」
と、ショックに打ちのめされていた。
そしてボソッと呟く…
「…ロリババアかよ…」
ぴきぃいいいいん!!!!
瞬間、マークさんを初め、その場に居た全員が凍り付く。
次の瞬間…
ドバキャァアアアアアッ!!!!
「誰がロリババアじゃ、この腐れボケぇえええええええっ!!!!!!!!!!!!」
私は叫びながらナッシュさんの脳天にテーブルを叩き付け、テーブルを粉々に砕いたのだった。
~後日談~
ギルド職員を始め、ロザミア住人全員に『エリカに対して“ロリババア”は絶対の禁句です。死ぬ覚悟が無ければ、絶対に口に出さない事』との通達が流されたのだった。
いや、ナッシュさん死んでませんからね!
元は男性だったエリカですが、さすがに1年も女(の子)として過ごす内に、徐々にですが女性としての自覚やプライドが目覚め始めたのかも知れませんねw




