第1話 突然ですが、死んじゃいました
気が付くと真っ白な世界だった。
何故、俺はこんな所に居るんだろう?
随分と長い間気を失ってた気もするが…
しばらく考えて思い出す。
そうだ、俺は死んだんだ。
確か医科大学を卒業してマンションに帰り、一緒に卒業した友人達と合流して居酒屋でお祝いしてて…
そしたら突然、店が爆発したんだっけ…
て事は、ここは『死後の世界』なんだろうか?
想像してたのと違うなぁ…
三途の川も無ければ花畑も無い。
それどころか完全に『無の世界』って感じなんですけど…
上には何も無い。
周りを見渡しても何も無い。
足元は…
やっぱり何も無い。
一体ここは何処なんだろう?
そんな事を考えていると、何かがフヨフヨと近付いて来るのに気が付いた。
小さな光。
何だろうか?
目の前に来た小さな光は、突然輝きを増したかと思うと人の形に変化した。
「こんにちは」
光り輝く人の形が話しかけて来た。
少しずつ光は弱まり、女性の姿がハッキリしてきた。
「はぁ、こんにちは」
俺は少し戸惑いながらも返事する。
「この度は大変でしたね」
「あぁ、居酒屋の爆発ですか?」
「まだ若いのに死んでしまうなんて…」
「まぁ、それも運命なんでしょうね。悔いが無いと言えば嘘になりますが、死んでしまったんだから仕方無いですよ」
正直、苦労して医科大学に入り、必死に勉強して卒業した途端に死ぬなんて、不幸以外の何でも無いだろう。
思えば子供の頃から運が悪かったなぁ…
ちょっと転んだだけなのに骨折したとか、ただの風邪だったのが拗らせて肺炎になったとか…
その度に入院し、治して貰った事が医者を目指す切っ掛けだったんだけど…
その医者になるまであと一歩のところで死んじゃうんだもんなぁ…
やっぱり俺は運が悪いんだな。
まぁ、過ぎた事は仕方無い。
死んだ俺の前に光り輝く人(?)が現れたって事は、転生させてくれるって事なのかも知れないし、チート能力が貰えるなら次の人生は幸運な人生を求めても良いかな?
まるでラノベだけどね。
いや、勉強の息抜きに読んでたんだよ。
歴史小説や純文学なんかも好きだったけど、現実逃避にはファンタジー小説・ラノベだよな。
人によるとは思うが。
まさか自分が当事者になるとは思ってもみなかったけど…
「随分とアッサリしてますね…」
半ば呆れた様に、うっすらと光る女性が呟いた。
「まぁ、現実は全部受け入れる性格なんですよね。子供の頃から運が悪かったですし」
何故か光る女性はこめかみの辺りを押さえて眉間にシワを寄せる。
「普通はそんな反応しませんけどね…」
「でしょうね。友人達からも『お前の反応は理解出来ない』って何度も言われてましたし」
「でも、これを聞いたら少しは違う反応をすると思いますよ?」
「何でしょう?」
「貴方だけなんです」
「何がですか?」
「あの居酒屋の爆発で死んだ人です」
どうやら居酒屋の爆発に巻き込まれて死んだのは俺だけらしい。
他の客や友人達は、怪我こそしたものの命に別状は無かったそうだ。
一番の重症で骨折、軽傷でヤケド。
死者は俺一人。
うん、やっぱり俺は運が悪いんだな。
「あぁ、そうなんですか。他に死んだ人が居なくて良かったです」
「え~っと……… それだけですか?」
ひきつった笑顔で聞いてくる光る女性。
いや、他に何を言えと?
死者が俺しか居なかったんだから、不幸中の幸いだろう。
大勢死ぬより余程良い結果だと思うが。
ん?
俺の感覚が変なのか?
でも、昔から俺はこんな感覚だからなぁ。
そう言えば、両親からも『お前の感覚は解らない』って言われてたっけ。
何事にも全く慌てず、ノホホンとしてたからなぁ。
「俺の運が悪いのは諦めてますから」
「はぁ………」
「そんな事より聞きたい事があります」
「そんな事って…」
「過ぎた事だから『そんな事』で良いんです」
「はぁ… 分かりました… 貴方の性格・感覚がなんとなく理解出来た気がします」
「それは良かったです」
俺は軽く微笑みながら応える。
「理解したくありませんでしたけど………」
視線を逸らしてボソッと呟く光る女性。
いや、聞こえてるんですけど…
「で… 聞きたい事とは…?」
何故か疲れた様に聞いてくる光る女性。
「貴女は誰なんですか?」
まぁ、ファンタジー小説やラノベの感覚で考えれば女神様ってのが妥当なんだろうけど、一応聞いてみる。
「多分、貴方が思ってる通りですよ?」
「て事は、やっぱり女神様とか?」
「貴方達の感覚で言えば、そうなりますね」
やっぱりか。
て事は、転生とかさせてくれるのかな?
それならチート能力も貰えるかな?
「貴方の人生があまりにも不幸だったので、来世で幸福に生きられる様にして差し上げに来ました」
おぉ、正に希望通りの展開♪
ファンタジー小説やラノベを読みまくってたからな、欲しい能力は決まってるんだよ♪
でも、一応念の為に確認しておく。
「それって転生させてくれるって事ですかね? 特別な能力付きで…?」
「そう言う事です。何か希望があれば仰って下さい。出来るだけ希望に添う形で叶えますよ?」
おぉ、ラッキー♪
ならば……
「そうですね、転生先は魔法の存在する世界が良いです。そして俺の能力として『どんな魔法でも無制限に使える能力』にして下さい。それだけで良いです」
女神様は目をパチクリさせながら…
「それだけですか…?」
と聞いてきた。
いや、これだけで充分だよ。
どんな魔法でも無制限に使える能力だぜ?
この魔法を使えば、不老不死にだって成れるだろ♪
男で生きるのにも飽きたから、女として生きても面白そうだ。
美少女なんかになったら、いろいろ得しそうだしな♪
「分かりました。では、その能力を与え、魔法の存在する世界に転生して頂きましょう。では、今度こそ良い人生を」
そう言って女神様は輝きを増していき…
気が付くと、俺は森の中に1人で立っていた。
女神様も呆れる程にノホホンとした主人公。
男で生きるのに飽きたからと女(しかも美少女?)として生きてみようと思った主人公。
確かに美少女なら得かも知れないけど、大丈夫か?