第18話 寿司と刺身は日本人のソウル・フード♪ 美味しいよね♡
ここイルモア王国の王都『ヴィラン』は、王国のほぼ中央に位置している。
『ほぼ』と言うのは他でもない。
王国の中心部には大きな湖が在り、その湖の南側にヴィランが在るのだ。
そして、そのヴィランから馬車で川沿いに10日南に下ると、私の住むロザミアが在る。
ロザミアは海に近く、馬車で3時間程南へ進めば『ノルン』という漁村が在る。
馬を駆けさせれば1時間弱の近さだ。
そんなノルンとロザミアは交易が盛んで、ロザミアにはノルンからの新鮮な魚介類が多く入って来る。
ロザミアの商店街で調味料を探していた時に、『キール』と言う名の酢と『シェッティ』と言う名の醤油を発見した私は、ひとつの決意を固めた。
これは寿司を作るしかないだろう!
この世界にも米は在るので材料としては問題無し!
ワサビが無かったのは残念だけど、日本人なら寿司だよね!
勿論、刺身も!
この世界に寿司は無いし、刺身にして魚を生で食べる文化も無い。
魚は煮たり焼いたりして食べるのが一般的だ。
なので、私が作る寿司や刺身はオリジナル料理として披露出来るって事だね♪
セコいって言わないで下さい…
そんなこんなで休日を利用して自宅での夕食に、世話になっている人達を集めての『寿司&刺身パーティー』を開催する事にしたのだった。
当然の事ながら、パーティーに出す料理は内緒にしておいた。
休日が同じミリアさんも準備を手伝ってくれる。
うん、魔法で料理上手になったから安心して任せられるね♪
来てくれる事になったのは、当然の様にギルドマスターのマークさん。
更にはマークさんの奥さんと3人の子供達。
さすがに生まれて半年程の長女は離乳食しか食べられないけど。
ミリアさんの同僚からはモーリィさん。
ギルド以外からは不動産屋のランディさん。
更に数名、ギルドの職員さん達が来てくれる事になり、私を含めて総勢15人のパーティーだ。
ナッシュさんも来たがっていたが、マークさん、ミリアさん、モーリィさんに睨み付けられて、しぶしぶ諦めていた。
いや、そろそろ許してあげようよ…
ナッシュさん、ミリアさんとモーリィさんにシバき倒されてから全く怪我してないんだからさぁ…
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そしてパーティー当日、朝食を済ませた私はミリアさんと商店街の入り口で合流。
食材として数種類の魚と酢や醤油、寿司や刺身に合いそうな数種類のお酒やワインも買って帰った。
昼食の後、私はご飯を炊きながらミリアさんに刺身の切り方を説明する。
厚過ぎず薄過ぎず、大き過ぎず小さ過ぎない一口サイズに切って貰う。
刺身には赤身魚2種類と白身魚3種類の計5種類。
その内の一切れを私はヒョイと摘まみ、軽く醤油を付けて食べてみる。
「ン~♡ やっぱり美味しい♡」
そう言う私をミリアさんは驚いて見つめていた。
どうやらミリアさん、そのまま生で食べるとは思っていなかったらしい。
慌てて大丈夫なのか聞いてきた。
この世界の文化じゃ、魚は煮るか焼くかして食べるのが普通だから驚くのも無理は無い。
勿論、生で食べても何の問題も無い。
寄生虫は魔法で完全に除去してあるし、殺菌消毒も完璧だからね♪
その事を説明し、ミリアさんにも刺身を食べて貰った。
刺身を一切れ摘まみ、恐る恐る醤油を付けて食べるミリアさん。
その表情は、不安な表情から一瞬にして歓喜の表情に変わったのだった。
「何これ、美味しい♡ 食感もコリコリした感じで何とも言えないわ♡」
初めて食べる刺身に感動を隠せないミリアさん。
「他の魚も食べてみると良いですよ? それぞれ違う食感ですから♪」
ミリアさんは5種類全ての刺身を一切れずつ食べ、それぞれの味や食感の違いに感動していた。
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私はと言うと、刺身に感動するミリアさんを横目に炊き上がったご飯を酢飯にしていた。
ご飯に酢を振り掛け、団扇で扇いで冷ましながらシャモジで切る様に掻き回す。
勿論、これだけじゃ足りないだろうから、更にご飯を追加で炊いている。
出来上がった酢飯を少し手に取って食べる。
うん、丁度良い仕上がりだ。
ミリアさんも同じ様に手に取って食べ、また感動していた。
「これで寿司を握ります」
「スシ? 握る?」
ミリアさんは意味が解らず首を傾げている。
「こうするんですよ」
私は魔法で手の消毒をしてから水で濡らし、包丁で魚をサッと切る。
切り身の右から左へと垂直に包丁を入れて切っていく刺身とは違い、切り身の左から右へ斜めに包丁を入れて切っていく。
右手で切り出したネタを取りながら、左手で酢飯を一掴み。
ササッと左手で酢飯をシャリの形に調えながら右手に持ったネタに乗せて、もう一握り。
お皿の上に乗せて出来上がり。
一連の動きを唖然として見ていたミリアさん。
「これが寿司… 『握り寿司』です。そのまま食べても良いですし、刺身みたいに醤油を付けて食べても美味しいですよ♪」
握り寿司を食べて感動したミリアさんも握り寿司作りに挑戦したのだが、シャリが大き過ぎたり握りが硬過ぎたりして断念したのは別の話だ。
ちなみに寿司を握る為に使う魚は刺身に使う魚と同じだが、更に白身魚を2種類追加している。
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そんなこんなで18時半になると、19時からのパーティーに出席する人達が治療院の勝手口に集合する。
中へと案内し、2階のリビングへ。
私が簡単に挨拶を済ませると、マークさんが自分も少しだけと話し出す。
「今回のパーティーはエリカちゃんの主催だが、エリカちゃんがロザミアに来てからもうすぐ1年になる。そっちの記念も兼ねたパーティーだな」
そうか、私が転生してから1年近くなるんだな。
マークさんはワインの入ったグラスを手に取り言う。
「だから少し早いが、エリカちゃんのロザミア来訪1周年を祝って乾杯!」
「「「かんぱ~い!!!!」」」
他の皆さんも手に手にグラスを掲げて、私の少し早めのロザミア来訪1周年を祝ってくれた。
そんな中、ミリアさんとモーリィさん、更に3人のギルド職員の女性が寿司と刺身の乗った大皿を持ってキッチンから入って来る。
寿司は3皿、刺身は2皿だ。
全ての皿は、寿司や刺身が美味しく食べられる様に、弱冷気の魔法でヒンヤリ冷やしてある。
持って来るミリアさんと他の4人の表情は対照的だ。
試食して寿司や刺身の美味しさを知っているミリアさんはニコニコと、他の4人は訝しげな表情だ。
勿論、運ばれて来た寿司や刺身を見たパーティー参加者の表情も訝しげに曇っている。
初めて見たんだから仕方無いよね。
集まってくれたお礼を述べ、寿司と刺身の食べ方を説明しながら小皿に醤油を入れていく。
「それでは皆さん、どうぞ好きなだけ召し上がって下さい♪」
そう言って促すが、なかなか誰も手を出さない。
そんな中、ミリアさんだけが…
「じゃ、いただきま~す♡」
と、嬉しそうに寿司や刺身を食べる。
ただ、フォークで寿司や刺身を食べるのは違和感があるな…
まぁ、この世界と言うか、この国には箸の文化が無いから仕方無いと言えば仕方無いんだけど…
「う~ん、やっぱり美味しい♡」
次々と寿司や刺身を食べるミリアさんを見て、他の皆さんも恐る恐る寿司や刺身を口に運び…
ワインや酒を飲むのも忘れて食べ続けた。
こりゃ、追加で用意しなけりゃ足りなくなる勢いだな…
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結局、全ての皿はアッと言う間に空になり、私は寿司を、ミリアさんは刺身を、予備に買っておいた食材が無くなるまで追加で用意し続けたのだった。
結局、私とミリアさんは寿司も刺身も殆ど食べる事が出来ず、後日2人だけで寿司&刺身パーティーを催したのだった。
~追記~
マークさん達パーティーに参加したギルド職員達は、皆に睨まれてパーティー参加を断念したナッシュさんから1ヶ月程の間、恨みの籠った眼で睨み続けられたらしい。
食べ物の恨みが怖いってのは、この世界でも同じなんだなぁ…
今回の話は解説も入っているので多少長くなりました。
世界観の違いを書くのは説明が必要なので難しいですね。