第14話 どうしようも無い事ってあるよね!
魔法に頼らずミリアさんの料理の腕を半年で上達させる事に協力を宣言し、激しく後悔してから早くも5ヶ月が過ぎた。
私は普段、ギルド内の治療所で患者を治す日々を送りつつ、休日はミリアさんの自宅で料理特訓に付き合っている。
ミリアさん自身は休日の特訓に加え、毎日の夕食を自炊して頑張っている。
同僚のモーリィさんは、ミリアさんを応援するだけに留めている。
うん、私も応援だけに留めたかったよ。
でも、それは後の祭り。
後悔先に立たずとも言う。
協力すると宣言した以上、料理を指導したり試食するのは絶対の義務だ。
拒否するのは許されない。
出来れば許して欲しいけど…
この5ヶ月間で試食した料理は数知れず。
勿論、意識が飛んだ回数も数知れず。
ちなみにミリアさんは私以上に意識を飛ばしている。
私は10日に1日だけ意識を飛ばしているが、当のミリアさん本人は休日以外も毎日の夕食で意識を飛ばしている。
何故こんなにも料理が上達しないのか不思議で仕方無いのだが、ミリアさんは私以上に悩んでいる。
「どうなってるんでしょうねぇ? 普通、これだけ練習すれば少しは上達してもおかしくないんですけど…」
素直に疑問を口にする。
「私にも何がなんだか…」
ミリアさんも同様の疑問を抱いている様だ。
「なぁに? ミリアの料理、まだダメなの?」
モーリィさんは呆れた様に呟く。
「手順には何も問題は無いんですけどねぇ…」
私はミリアさんの作業工程に何も問題が無いのに、出来上がった料理が壊滅的である事に対する解決策を思い付かない事に悩んでいた。
勿論、当のミリアさんも同様である。
「私も、作った料理を食べたら意識が飛ぶ理由が分からないのよ…」
モーリィさんも不思議に思ってる様で
「ミリアの母さんの料理は食堂のメニューに出しても良いレベルなのにねぇ…」
と、呟く。
それが不思議なんだよなぁ…
いや、親が料理上手だからって子供も料理上手だと限らないのは理解してる。
前世でも、有名なプロスポーツ選手の息子が同じプロスポーツの選手になったけど、活躍の度合いが全く違ってたってのは知ってるからな…
誰とは言わんけど。
いや、ディスってるワケじゃないよ?
飽くまでも一例だから。
ちなみにミリアさんが料理を作るのは夕食に限定しているそうだ。
ギルドに就職したばかりの頃、朝食で意識を飛ばして数時間も遅刻した事があったらしく、朝食と昼食はギルドの食堂で食べる事にしてるんだって。
普通に市販のパンでバタートーストを作っただけらしいんだが…
ミリアさんの料理の腕前は、最早特訓してどうにかなるレベルでは無いのかも知れない。
半分… いや、99%以上諦めながらも残り1ヶ月の特訓期間での劇的な進歩に期待しよう。
無駄かも知れんけど。
「とにかく、まだ残り1ヶ月もあります! 諦めずに特訓を続けましょう! 希望を捨ててはいけません!」
私は無駄だと思いつつもミリアさんを励ます。
「そうよね! 諦めなければ人は成長する筈だもんね! エリカちゃんの励ましに、絶対に応えてみせるわ!」
ミリアさんも一念発起して決意を固める。
「そうよ! ミリアなら出来るって! 私もミリアの美味しい料理を食べるのを楽しみにしてるから!」
3人で決意を新たにし、残り1ヶ月間の特訓に意欲を燃やすのだった。
~追記~
結局、ミリアさんの料理の腕前が改善する事は無く、泣く泣く魔法で料理下手を治す事にしたのだった。
ちなみに最終日は私とミリアさん、更には興味本意で食べに来たギルドマスターのマークさんとモーリィさんを含めた4人がミリアさんの料理で意識が飛んだ事を明記しておく。
ミリアの料理はエリカの魔法に頼らざるを得なかった様です。
それにしても、バタートーストを作っただけで意識が飛ぶってどうなってるんでしょうね?
自分で書いておきながら、不思議で仕方無いミリアの腕前でした。