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三上

三上



翌日、随意運動の時間に籠球をしていると、三上の使いだという三年の生徒が平助を呼びに来た。

「三上が待っている、柔道場へ来い!」そう言って使いは、さっさと柔道場の方へ行ってしまった。

「おい無門、何だか険悪な雰囲気だったが大丈夫なのか?」今岡が心配そうに訊いた。

「大丈夫さ」

「行くのか?」

「ああ・・・」

「一緒に行くぞ!」籠球をやっていた十人ほどの生徒が口々に言った。

「ダメだ、俺一人で行く!」平助は強く言って生徒たちを睨み据えた。

平助の気迫に押されて生徒たちが黙る。

平助は生徒たちを残して柔道場に向かって歩き出した。


柔道場に入ると、三年生がずらりと壁際に並んでおり、三上が道場の中央に仁王立ちで立っていた。館山の姿はなかった。

「よく来た!」

三上は平助に向かって言うと、三年生に向き直った。

「今から俺は、この一年坊に私的制裁を加える。ただしこれは、上級生の威厳を笠に着て行うものではない。対等の勝負だ。皆は証人になってくれれば良い、手出しは無用に願う!」

三年は皆黙って頷いた。

やはり付いて来たのだろう、武者窓からは今岡たちが心配そうに覗いている。

平助は更衣室で柔道着を身にまとうと三上の前に進み出た。

「お願いします」静かに頭を下げる。

「よし、こい!」三上が両腕を持ち上げた。

すぐに二人はがっぷりと組んだ。互いに前襟を取り右袖を掴む。

体格に勝る三上の力は凄まじい、襟元から筋肉の盛り上がったたくましい胸が覗く。

三上は力任せに平助を引き回すと強引に平助を引きつけ背負い投げに来た。

平助は逆らわずにその動きに従い、三上の投げより一瞬早く、自分から前に飛んだ。

肩すかしを食った上に、平助の体重と勢いを腕で支えようとした三上は、耐えきれず前に飛んだ。

「小癪な!」

三上は受け身を取って素早く起き上がるとすぐに組み直し、今度は自ら後退した。

途端に三上が消えた!自ら後方に倒れ込む捨て身の巴投げで、平助を宙高く放り上げる。

平助は空中で一回転し、猫のように畳の上に着地した。

見ていた生徒達から驚きの声が上がる。

三上は舌打ちをして右手を平助の襟に伸ばす。

平助はそれを嫌って左手で払った。

その瞬間三上の左手が平助の右袖を掴んだ。

尋常の握力ではない、平助がもがく程引き寄せられて行く。

三上の右手が、平助の右奥襟に滑り込む。同時に左の奥襟も取られた。

逆十字絞めが完璧に決まると一瞬三上が北叟笑ほくそえんだ。

次第に平助の意識が薄れて行く。

三上は自分から尻餅をつき両足で平助の胴体を締め上げていった。

もう、どうする事も出来なかった。

『負けた・・・』

平助がそう思った時、三上の声が聞こえた。

「こんな時柔術ならどうする?」

平助はいきなり土井の顔に指を這わせた

「ど、どうするつもりだ?」三上は焦った。

「眼球を潰す・・・」掠れ声で平助が言った。

「待て!・・・手を離すから、待て!」

三上は平助の奥襟から手を抜いてバンザイをした。

平助もゆっくりと三上の顔から手を放す。

「恐ろしい奴・・・」土井が平助を呆れた顔で見遣った。

「館山の気持ちが分かったよ。俺たちは試合に勝って、殺し合いに負けたのだな」


この事があってから、平助は二人の最上級生に可愛がられるようになった。

同級生からは、稚児ちごどんと言って揶揄からかわれたが、平助は気にしなかった。

体制に迎合せず潔く生きる館山の生き方に共感できたからである。















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