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出会い

出会い


                   

「確かこの辺の筈だが・・・」

平助は門司駅から歩いてようやく関一家のある町に着いた。

関一家の建物は昔の呉服店の作りをそのまま流用した百年ものの古民家である。

外見からは、それがヤクザの事務所とは誰も気付かないだろう。

玄関の曇りガラスに控えめな『関』の文字があった。

引き戸を開けると、たった今上がりかまちから土間の雪駄に足を下ろした若い男と目が合った。

ほうきを持っているところを見ると、玄関の掃除に来たものと思われる。

「関の親分はおられるか?」

自分とあまり歳の変わらない男に対抗心を燃やしたのか、平助は居丈高に問うた。

「どちらさんで?まずお名前を名乗っていただきやしょう」

「これは失礼した。無門平助というものだが、関の親分に呼ばれて参上した」

その男は平助をぐっと睨みつけて来た。

「ほう、なかなかの面構え、クワバラクワバラ」平助はわざと揶揄からかうように言った。

「なにっ!」

男が箒を構えて平助に詰め寄った時、框の奥から声がかかった。

「待て!テツ、そのまま進むと大怪我をするぞ」

そう言ったのは、関一家の代貸、弁天の常こと、津田常次郎つだつねじろうである。

「代貸!なんでこんな若造に・・・」

「やかましい!俺に口答えをする気かっ!」

男は、常の大喝だいかつで仕方なく引き下がった。

「無門先生、お待ちしておりやした。奥で親分がお待ちです、ささ、お上りなすって下さい」

常は、先に立って平助を奥へといざなった。

平助は、松尾を一顧だにせず、常に従って上がり框から上がった。

「テツ、茶を用意しろ!」

常は、松尾に言い置いて、奥に消えた。

「へい・・・」

男は不承不承、箒を置いて台所へと入っていった。


*******


「無門先生、お呼び立てして申し訳ない」関は、慇懃いんぎんに頭を下げた。

昭和の次郎長と異名を取る関は、そろそろ髪に白髪の混じり始めた、壮年の偉丈夫である。

「なんの、親分のお呼出とあらば万難を排して伺います」平助が答えた。

「ありがたいことです。今回は少しややこしいことになりそうなので」関は、常の方に向き直って訊いた。

「常、若松興業の用心棒はなんという名だったかな?」

「へい、確か久保田清源くぼたせいげんとか言っておりやした」

「ほ、久保田といえば伯耆ほうき流居合の使い手」平助は、その名に聞き覚えがあった。「確か、浅草の見世物小屋に出ていたはずだが・・・」

「当節、見世物に出ただけでは喰っていけないのでしょう」関が言った。

平助は、武術家の実情を顧みて暗澹あんたんたる気持ちになった。


「お茶をお持ちしました」

男が、廊下に手をついて頭を下げる。

「おっ、テツか、ちょうどいい入れ」関は男を促した。

「はい、失礼いたしやす」男は茶の乗った盆を先に入れ、膝でいざって部屋の中に入った。そして三人の前に茶を置き、改めて入り口付近に畏まった。

「テツ、無門平助先生だご挨拶をしろ」関は男に命じた。

「お初にお目にかかります、松尾哲三まつおてつぞうという三下でござんす。以後万端お見知り置きのほどを」

男は平助を睨みつけたままそう言った。

「無門平助です」平助は松尾の視線を逸らすように素っ気ない返事をした。

「先生、こいつは見所のあるおとこなのですが、血の気の多いのが玉に瑕なのですよ」関は松尾を横目で見ながら言った。

「その様ですな、命を縮めなければ良いですが・・・」

「ご忠告、ありがたく・・・」松尾は、唇を血の出るくらいに噛み締めて、廊下へと引き下がっていった。


若かりし頃の平助と、将来博多で大親分となる松尾の、最初の出会いであった。




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