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第5話 装備は実用性よりカワイさ重視。これギャルの鉄則

 とりあえずアキナ達は装備を揃えることにした。

 伝説の防具は貰わなかったので今のアキナは初期装備である〝ぬののふく〟と〝ただのさんだる〟だけだったからだ。


「いらっしゃい!」


 店に入ると威勢のいい店主が迎えてくれた。

 ここ〝メルドー親父の何でも屋〟は武器や防具など旅人に必要な物から主婦に嬉しい食料品や日用品まで様々なものがお手頃な値段で揃った万屋である。

 正直言ってお金はたんまりあるのでもっと高価な武具を扱う専門店に行っても良かったのだがドン・キホーテが大好きなアキナの希望でやってきたのだ。


「お嬢ちゃん達、何かお探しかい? お菓子ならあっちだぜ?」

「旅に必要な装備を買いに来た」

「へえ、このご時勢に女二人で旅とは勇ましいこった。お、中々良さそうな剣を持ってるじゃねえか」

 

 アキナが背負った剣をチラリと見て店主は感嘆の声を漏らす。

 流石に聖剣とは見抜けなかったようだが店主の目利きは確かなようである。


「残念だがうちにはそれ以上の剣は置いてないな。となると、あとは防具か……こいつなんてどうだ? そこまで重くないし防御力もそこそこあるぜ?」


 アキナは渡された鎖帷子を見て眉を潜める。


「全然カワイクない……」


 攻撃を防ぐ為の物であるのでそりゃそうなのだがアキナは鎖帷子を店主に突き返す。

 しかし店主はめげずに次なる商品を持ち出してくる。


「ならこいつはどうだい? ちょっと値は張るが特殊な魔法が掛けられていて見た目よりずっと防御力もある。うちの女用の物では一番いいヤツだぜ?」


 そんな触れ込みのワンピースを両手でヒラヒラさせながらアキナはやはり渋い顔。

 なんだか母親が授業参観の時に着てくる服みたいだった。


「もういい! 自分で探す!」


 アキナは店主を無視して商品が雑多に並べられた店内をドタドタと歩き回る。 

 その中からアキナはとある物を見つけた。


「あ! コレ超カワイイ! コレにする!」


 果たしてアキナが手にしたのはいわゆるメイド服だった。

 アルパカのウールを使った黒いワンピースにフリルやレースで飾られたモスリン地の白い薄手のエプロンと極めてオーソドックスな物である。


「ウチ、メイド喫茶で働いてみたかったんだけどウチの学校バイト禁止だったから、こういうのに憧れてたんだ!」

「お嬢ちゃん、そりゃメイドが着るもんだぜ……? 旅にはとてもじゃねえが向かねえと思うが……」

「別に大丈夫っしょ! ねえ、レノア?」


 天井でクルクル回るワイバーンの玩具を眺めていたレノアはアキナに視線を戻すと頷いた。


「その鞘と私がいれば防御は十分。何なら裸でも問題ない」

「いや、問題大アリっしょ! 超絶イケメンな男子がウチのこと見て鼻血ブーしたらどうするし?」

「その方がアニメ化した時に映える」

「映えるとか以前に放送禁止でしょ……」


 とにかくアキナはもう絶対に譲らんとばかりにメイド服をギュッと抱き締めて離さない。

 もう好きにしてくれと店主は呆れたようにヒラヒラと手を振る。


「でも、コレちょっとモッサリしてんなあ。外メッチャ暑いのに長袖だし……あ、そうだ! おっちゃん! ミシンとかない? なければ針と糸だけでもいいんだけど」

「……ああ、裁縫道具なら一式揃ってるが」

「やった! じゃあちょっと借りるわ!」


 店主に裏にある裁縫部屋に案内してもらうとアキナは早速メイド服を改造し始めた。

 その鮮やかな手付きを見て店主は感心する。

「お嬢ちゃん、洋裁店の娘か何かか?」

「ううん、ウチのパパは山荘軒って所で麦酒クレンザーを作ってる人だよ。でもウチよくパパのスーツとか弟の制服とか直してたから裁縫得意なんだ」


 そう言った通り、アキナはあっという間に自己流メイド服を仕上げてしまった。

 地面を引き摺るほど長かったスカートはヒザ上まで短くなり、袖も涼しげな半袖に変更されている。

 これに長めの絹の靴下を履いて頭に白のブリムを装着すれば憧れの現代風メイドの出来上がりである。


「どうよ? この完璧なる〝カワイイ〟の感想は?」


 クルクルと回りながらポーズを決めるアキナにレノアと店主は何とも言えない表情でそれぞれ口を開く。


「……どことなくバカっぽいけど映えるから良し」

「……娘がそんな格好してたら俺りゃ卒倒しちまうな」


 だがアキナは既に聞いておらず、満面の笑みでポンと手を叩く。


「せっかくだから剣ももっとカワイクしちゃおっ!」


 アキナは懲りずに店内から掻き集めてきた宝石っぽい石ころや銀の小物などで聖剣の柄の部分や鞘をゴテゴテと飾り付ける。

 鞘のデコレーションに夢中なアキナの足元に無造作に放置された聖剣をまじまじと見た店主の顔色が変わる。


「お、おい……これってまさか……?」

「それ? 何とかって言うスゲー剣らしいよ。ウチはいらないって言ったんだけど神殿のおっちゃんがどうしてもって言うから仕方なく貰ったんだ。何? もしかしてそれ欲しいの? ならこのメイド服と交換でいいけど?」


 本気で提案するアキナに店主はもはや言葉を失くし、聖剣がどんどんデコられていく様子を呆然と眺めていた。


「よし! コレで装備は完璧! そなえよつねにってね!」



 華やかな見た目となったデコ剣を背負い、最後に特売コーナーに転がっていた3D赤青メガネをかけるとアキナは三本の指を額に当てながらキメ顔で言った。

 他にもス○イムのピアスやどう見ても呪われていそうなドクロの腕輪など冒険には殆ど役に立たなそうなアクセサリーも身に付けている。

 レノアは待ち兼ねたとばかりに読んでいた〝未解明の世界の九つの不思議に迫る!〟を閉じると勘定を済ませる。


「あれ? レノアは何も買わないの? お金なら無限にあるのに」

「必要ない。私が着ている羽衣は私の存在点をこの世界の存在軸よりほんの僅かにずらしている。つまり私は厳密に言うとこの世界には存在していない。よって私はこの世界からのあらゆる干渉を受けない」

「……よくわかんないけど、レノアは無敵だから何もいらないってこと?」

「そう」

「んー、でもレノアってちょっと神々しすぎるんだよね~。いや髪はピカピカでキレイだし、服も上品な感じでキマッてるんだけど、なんつーかもうちょい親しみがあるともっといい感じになるとウチは思うわけ」


 レノアはどうでも良さそうだったがアキナは口に手を当ててうーんと悩みながら真剣に店内を物色する。

 やがて地味な色合いの革製のガーターを二つ持ってアキナは戻ってきた。


「ホントはもっとカワイイのが良かったんだけど、これしかなかったからしゃーなし。何かイギリスのメッチャ偉い人がこういうのつけるんだって。男は足で女は腕につけるらしいんだけどウチは気にしないから足につけちゃお!」


 ちゃんと見えるようにアキナは絶対領域にガーターを巻くと満足そうに頷く。

 それからレノアの腕にもガーターを巻き付ける。


「はい、これでウチとオソロだよ! カワイイでしょ?」


 為すがままに巻き付けられたガーターをしばらく見つめていたレノアはおもむろにそれを外した。


「……気に入らなかった?」


 アキナの表情が暗くなる。

 だがレノアは外したガーターを自らの首に巻いた。


「こっちの方がいい」

「確かに! チョーカーにしてもカワイイ!」


 こうしてアキナとレノアの間にささやかな絆のようなものが生まれたのだった。





〝アキナ・ミヤシロ〟


Eせいけんモンスクリーブ

Eメイドふく(かい)

Eホワイトブリム

Eとびだすあかあおメガネ

Eスラ○ムピアス

E◎ヴェヘルザードのうでわ

Eガーターベルト



〝バランタイン・ヘロイン・パナップ・レノアハピネス〟


Eせかいをてらすじゆうのはごろも

Eガーターベルト



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