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第4話 異世界ファンタジーに親を連れて行ってはいけない。これギャルの鉄則

「勇者様、こちらは旅の資金にお役立て下さい」


 神官長が何やら重そうな袋を差し出してくる。

 アキナはそれを受け取って中身を見てみると大量の金貨が入っていた。


「あ! 弟にちょっとだけドラクエやらせてもらった時に見たことある! 最初に王様がくれるヤツっしょ? コレで武器屋とか行ってこんぼうとかやくそう買え的な?」


 アキナは楽しそうに言いながら袋をレノアに渡す。

 レノアは中を確認すると神官長のほうを怪訝そうに見やった。


「……こんぼうどころか一個中隊の装備を揃えられる金額」

「それってスゲー大金ってこと?」

「スゲーどころかメッチャ大金。ちょっとした人の人生を狂わせるレベル」

「マジ? それは流石にヤバイっしょ……」


 アキナは袋を取り戻すと神官長に返そうとする。

 しかし神官長は首を振ってそれを拒否する。


「これは平和を望む国民たちが教会に寄付してくれた物。勇者様のお役に立ってこそ意味があるのです。兜や鎧と違ってお金にサイズは関係ありません。どうぞご遠慮なさらずに」

「んーじゃあ貰ってくけど……余ったらちゃんと返すからね!」


 聖剣に金貨まで貰ってしまって何だか悪いなあと思うアキナだったが神官長は更に一人の神官を連れて来て申し出る。


「この者はこの神殿……いえ、この国で最も優秀な神官です。彼は厳しい修行の末に様々な神聖魔法を極めております。必ずや勇者様の助けになる事でしょう。出来るなら私がお供したいところではありますが過酷な旅をするには歳を取り過ぎました。どうか彼を」


 またもやの展開にアキナはしかし今度はブンブンと首を振って完全なる拒絶を表した。


「ダメ! 絶対それだけはムリ! その人にはホントにゴメンだけど!」

「……勇者様! 私のどこに問題があるのでしょうか!?」


 即否定されてしまった神官はたまらず聞く。

 アキナは本当に申し訳ないという感じで頭を下げる。


「その人ウチのパパに似過ぎててムリ。マジゴメン」


 当の神官と神官長はポカンとした表情でお互い顔を見合わせる。

 何とも奇妙な理由であった。

 と言うか神の使いたる勇者に親がいるのだろうか?


「……ま、まあそういうことなら仕方ありませんな」

「そうそう。そいじゃウチらはこれで」


 アキナは手を振るとそそくさと退散しようとする。

 このままだと久々に祖父母の家に帰ってきた時のように色んな物を押し付けてきそうだったからである。

 しかし手遅れだった。


「お待ちください勇者様! ならば神殿でナンバーツーの私をお連れ下さい! 次期神官長候補であるカエサル様のようにありとあらゆる術とまではいきませんがきっとお役に立てるはず!」


 すかさず若い神官がアキナの前に出てきてアピールする。

 それを皮切りに次々と神官達が殺到する。


「勇者様! この聖なる法衣をお持ち下さい! 歩く度に体力が回復します!」

「勇者様! 天使様の落としていった羽根で作ったペンを是非! 縁起物ですよ!」

「勇者様! 私の家で採れた果物の盛り合わせです! ジューシーで美味しいですよ!」

「勇者様! 私の祈りを! 私にどうかご無事を祈らせて下さい!」


 エライことになってきたのでアキナは慌ててレノアに視線を送る。


「もうムリ! 逃げよっ!」

「折角のアイテム大量ゲットのチャンス」

「もう十分だし! 足るを知るって老子も言ってたし!」

「了解」


 レノアがパンと手を叩くと騒然としていた神殿内に静寂が訪れた。

 見ると神官たちは身じろぎ一つせずに動きを止めている。

 神官だけでなく騎士たちや神殿を流れる噴水の水すらも微動だにしない。

 神殿内全ての時をレノアは止めたのだった。


「スッゲー! さすがは神ぃ~! ウチはてっきり飛んだりして逃げるのかと思ったわ!」

「主人公である貴方が逃げる必要はない。正面から堂々と出て行く」


 神殿を出るとアキナはその光景に目を奪われる。

 大きく立派な城を中心に広がる町並みはアキナが住んでいた日本とは明らかに異なっていた。


「うわっ! ナルニア国物語みたい! 馬車とか初めて見たし! うわっ! 降りてきた人超マリー・アントワネットみたいだし! マジアントワネット!」


 はしゃぎ回るアキナをレノアはしばらくほっといたが、やがて疲れた様子でアキナが戻って来るとレノアは聞いた。


「お父さんとは仲良くなかったの?」

「パパと? ううん、メッチャ仲良しだったよ。仕事の日でもライン送りまくってくるし、ウチの好きなビアードパパのクッキーシューよく買ってきてくれたし、休みの日は一緒にイオンとかネカフェ行ってごはん食べたりカラオケとかダーツとかして遊んだし」

「なら何で彼を連れて行くことを拒否したの?」

「……だって毎日パパの事思い出しちゃうじゃん? もう会えないのに。ウチも悲しいけど多分パパはもっと悲しいよね。普通は親が先に死ぬはずなのに先に娘が死んじゃったんだから」


 さっきとは打って変わってアキナはしんみりした表情で静かにそう話す。

 レノアは風に髪を靡かせながら黙って聞いていた。

 

「ウチ、ママとはあんま仲良くなかったんだ。もっと勉強しろとか化粧が濃すぎるとかエロい格好すんなとか毎日うるさくてさ。でもパパはいつもウチの味方だった。いつも優しかった。ウチが小さい頃マフィン作ったんだけど塩と砂糖間違えちゃって超しょっぱくて失敗しちゃったんだ。それでもパパは美味しいって全部食べてくれた。オレは甘いのよりしょっぱいほうが好きなんだって言って。だからウチそれを真に受けてクッキーでもドーナッツでも何でも塩を入れてパパに食べさせたの。おかげでパパ高血圧になっちゃってさ(笑)。今でも悪い事しちゃったな~って思ってるんだ」


 アキナはそう言いながら少しだけ笑う。

 涙は流れない。

 でもレノアにはわかった。

 その声音に込められた悲しみと後悔が。


「……湿っぽい話しちゃったね。でも自分で言うのも何だけどいい話っぽいっしょ?」

「私にはよくわからない」

「え~、それヒドくない?」

「神は自身の行いを悔いたり嘆いたりはしない。でも貴方は神ではない。その後悔も悲しみも貴方のもの。大切に」


 噛み締めるようにアキナはゆっくりと頷いた。


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