第44話 コンクリートの様な日々にこそ休息は大事。これギャルの鉄則
終わらせる・・・第四章を
〝お久しぶりです、アキナさん、レノアさん。
暫くお手紙を出せず申し訳ありません。
新しい環境に慣れると言うのは中々に大変な事ですね。
さて、御二人の事ですから相も変わらず元気にやっている事と思います。
勿論、わたくしも元気です。
コンクリン・ブートキャンプ(例の訓練)にもようやく慣れてきたようで、何とか脱落せずに頑張っております。
コンクリン軍曹の鬼シゴキは相変わらずですが笑(彼については以前の手紙に書きましたね)。
最近は塹壕の掘り方を教わりました。
スコップを地面に突き立てるのではなく、抉り出すように掘るのがコツです。
先日皆で掘った塹壕で一夜を過ごしましたが、思ったより快適で星空が綺麗でした。
雨が降ると大変らしいですが……
そうそう、新しいお友達が出来ました。
同じ女子寮に住む方で、何とわたくしと同じ神官です。
まさかこんな場所で同業の方に出会えるなんて驚きです。
しかし、ココは邪悪なる者達の中枢たる魔王城、信仰するのは神ではなく……悪魔なのです!
しかも恐ろしい棘棘の付いた巨大なメイス(一振りで1トンも有るそう!)を片手で軽々と振り回すのです。
わたくしも軽く素振りをさせて貰いましたが、翌日腕が上がらなくなりました笑。
やはり魔王軍に入られる方は皆凄いですね。
更に即死魔法や蘇生魔法も使えると言うのだから感服です。
イルミネートだけで旅をしているわたくしとは大違いです笑。
さて、まだまだ書きたい事は山程ありますが、キリがないので今日はこの辺で筆を置くことにします。それではまた。〟
シェーラがペンを置くと同時にドアがノックされた。
「はぁい」
シェーラがドアを開けると、まるで鏡に映したかのような女神官が立っていた。
ただ違うのは頭から二本の角が生え、信仰する悪魔の描かれたローブを纏っている点だ。
「ねぇ、ランチでも行かない?」
彼女がそう言うと、シェーラは部屋の時計を見やる。
もうそんな時間か。
「いいですよ。今支度しますね」
テキパキと身支度を整えると二人は連れ立って女子寮を出た。
こうして誰かと出掛けるのはやはり良いものだ。
「それで今日は何処へ行くんですか、ミナさん?」
「久々の休日だからね。ちょっと遠出してパーッといいもん食べよ!」
そう言ってミナは日頃の鬱憤を晴らすように拳を突き上げる。
彼女もまたコンクリン軍曹のシゴキの被害者なのであった。
「それにしてもスゲー城だね。流石は魔族の親玉、ウチの実家とは大違い」
城の中枢である本丸を貫く大廊下を歩きながら、ミナはしげしげと壁の装飾や天井から垂れ下がるシャンデリアを見渡す。
そんなミナを見やりながら、シェーラは少し可笑しくなる。
「何?」
「いえ、だって毎日ここを通っているじゃないですか」
「あぁ、普段は気にしたことなかったからな。それにやっとココに慣れてきたってのもあるかも」
シェーラも頷く。
ココに来た当初はずっと緊張しっぱなしで、城の内装を眺める余裕など無かった。
「こっちですよ、ミナさん」
男子寮の方へ行こうとするミナをシェーラが引き止めると、彼女は「そうだった」と恥ずかしそうにはにかんだ。
「この城はどうも広すぎる。地図の一枚でも用意して欲しい位だ」
「それでは城の意味がありませんよ。元々は侵入者を迷わせる為の構造なのですから」
「確かに」
ミナは頷きながら、また城内に目線を戻してキョロキョロする。
よっぽど豪奢な装飾が気に入ったのだろう。
シェーラは彼女が躓かないように気を払いながら、後をついていく。
「ところで新しい魔王様には会ったことある?」
「ええ、面接の時に。ミナさんも会ったのでは?」
「アタシの時はたまたま居なかったみたいなの。だから顔も知らない」
ミナは溜息をつきながら肩を竦める。
「でも、それって失礼よね。ちょっと挨拶くらいしていこうかな?」
「今は不在ですよ。何でも新魔王軍に相応しい人材をスカウトしに行っているとか」
「それは残念」
また肩を竦めながら、ミナはシェーラを振り返る。
「アナタもその相応しい人材ってことよね?」
「……え、えぇ、一応は」
目線を逸らしながら、シェーラは曖昧に答える。
ミナはシェーラより後に入軍したので、シェーラの正体(霧とか)は知らないのだ。
「一見して人間にしか見えないけど。実は物凄い魔法を使えるとか?」
「いえ、魔法はあまり……。ど、どちらかと言えば体力に多少自信アリ……みたいな?」
「ふぅん、そう見えて打たれ強いんだ?」
シェーラはまた曖昧に頷く。
それにしても今日のミナは真面目な話題ばかりだ。
何時もなら最近買った服とか好みの魔族とか(ここのところは門番の左を担当しているリウスがお気に入りだ)の話が延々と続くのに。
「そう言えば、手編みのマフラーは完成したのですか?」
「あぁ、もうちょいで出来る。楽しみにしてなよ」
「リウスさんにプレゼントするのでは?」
「ん、そうだった。でも気が変わった、アンタにやるよ」
はぁ、とシェーラはポカンとなる。
もう熱が冷めてしまったのだろうか?
彼女の恋は熱しやすく冷めやすいのも特徴だ。
「早く魔王様に謁見したいな。それで顔を覚えて貰うんだ」
「ミナさんは美人ですから、すぐに覚えられますよ」
シェーラがそう言うと、ミナは「どうかな?」と不敵な笑いを浮かべた。