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第40話 戦場は地獄。これギャルの鉄則

前回更新分(第39話)で何故か最後の方が切れていたので追加しました

〝……と言う訳で無事に魔王軍に潜り込む事に成功しました。今後は軍内部の情報を逐一集め、適宜ご報告します。

 P.S.これから季節が進み、少しずつ寒くなっていきます。お二方共、風邪など引きません様ご自愛下さい〟


 特にレノアさんは薄着なので……とシェーラは付け足し、ほくそ笑んだ。

 これ位の冗談なら神も許してくれるだろう。

 昔、全く神など信じない俗世の友達と手紙のやり取りをしていた事があるのだが、「アンタの手紙は堅くて説教臭くて退屈だわ」とその子に言われて文通は終了した。

 その時は別に何も思わなかったシェーラだが、最近少しずつ考えが変わってきた。

 アキナやベイガスシティでのアルバイトでの出会いのせいだろうか。


「……あ、時間」


 シェーラはペンを置くと手紙を引き出しにしまい、慌てて身支度を整えると部屋を出る。

 ここは城から猫の手足の様に突き出た別館の一つである右足ウィングで、女子寮として使われている。

 シェーラの実家は魔王城から非常に遠いので寮に入る事になったのだ。


「遅いぞ新入り!」


 集合場所である練兵場に着くなり、怒鳴り声が飛んで来た。

 

「13秒の遅刻だ! 戦場なら死んでるぞ!!」

「も、申し訳ありません……」


 容赦無く怒号を浴びせて来るサングラスを掛けた筋肉質の魔族に、シェーラはペコペコと頭を下げる。

 

「……むっ、お前は確か親衛隊に採用されたシャルル・マテリアか?」

「……は、はい」

「なるほど、お前があの親衛隊の隊長殿を負かしたと言う期待の新人か!」


 サングラスの魔族がそう言うと、周りの若い魔族達が「あの……」と息を呑みながら戦々恐々とした視線をシェーラに送る。


「名高き魔王様の盾である親衛隊員として認められるとは大した奴だ。だが、試用期間中は俺の部下としてミッチリ鍛えてやる」


 最近魔王軍に入った新人達を横一列に並ばせると、サングラスの魔族は銜えたコーンパイプを吹かしながら一同を睥睨した。


「俺はコンクリン軍曹。これから一ヶ月間、全て俺の言う事に従って貰う。例外は無しだ。俺が飯を食えと言ったら何時だろうが飯を食え。俺が脱げと言ったら全て脱げ。俺が死ねと言ったらその場で死ね。いいな!!」

「「「「「「「「「「はいっ!!!!!!」」」」」」」」」」


 手を後ろに組み、声を張り上げながらシェーラはとんでもない所へ来てしまったと既に後悔していた。


「よし、返事だけは中々良いヒヨコ共だ。だが戦場では声の大きさなどクソの役にも立たん。お前達が戦場で何を出来るか、俺に見せてみろ」


 そう言うとコンクリン軍曹は一人の若い魔族を指名した。


「お前の得意な事を言ってみろ」

「はいっ! 私は幼少より柔道と剣道と合気道を習っており、武道では誰にも負けません!!」

「宜しい、では試してみよう」


 ジャラジャラと色んな勲章の付いた上着を脱ぎ捨てると、コンクリン軍曹は来いとばかりに指で若い魔族を招く。


「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」


 獣の様な雄叫びを上げながら飛び掛る若い魔族。

 だがコンクリン軍曹は身を捻って軽々と攻撃をかわすと、若い魔族の両目に指を突き立てた。


「ぎゃぁぁあああああああああああああっ!!!!!」


 悲鳴を上げながら地面で転げ回る若い魔族を尻目にコンクリン軍曹は次にシェーラを指名した。

 他の新入り魔族達がザワつく。


「お前の得意な事を言ってみろ」

「……神に祈りを捧げる事です」

「祈り? そんなもの戦場では必要無い。他には?」

「えっと……」


 シェーラは言葉に詰まる。

 幼少期より、ちゃんとした教育を受けてきた頭脳明晰な彼女は考える。


・「丈夫さには自信があります」→どうせ物凄い呪文やら技やらでサンドバッグにされてボロボロにされるからの「安心して下さい、生きてますよ!」でドン引きされる


・「コスプレ喫茶で接客経験があります」→どうせポリコレ無視でエロいコスプレさせられて読者だけが喜ぶ


・「イルミネートです」→流石に何も起きない。バカにされて終わり


「親衛隊の隊長を一瞬で倒したらしいな?」

「え、い、一応……一瞬かは分かりませんが……」

「それを見せてみろ」


 コンクリン軍曹の提案にシェーラは渋々頷く。

 結局それしか無さそうである。


「……お、お手柔らかにお願いします!!」


 運悪く指名された若い魔族は、シェーラと対峙するなり怯えた様子で空元気な声を張り上げる。

 親衛隊の隊長の強さは魔族の間でも有名なのである。


「遠慮はいらんぞ。そんなもの戦場では命取りだ。敵は容赦無く殲滅しろ!!」


 やたらと戦場について語るコンクリン軍曹の言葉を聞き流しながら、シェーラは小さく溜息をつくと体内の〝霧〟を口内に集め始める。


 ――以下略。


「うむ、お前は戦場で中々役に立ちそうだ。他の者にもこれ位はして欲しい所だな。よし、今日はこれにて解散! 次は明朝4時より訓練を開始する! 新入り共は3時間前には集合し、練兵場の床掃除と窓拭きとトイレ掃除をしておけ!!」

「「「「「「「「「「はいっ!!!!!!」」」」」」」」」」


 コンクリン軍曹がそう宣言すると新兵一同は声を揃えて返事をした。

 この世の終わりを見たような表情のまま気絶した若い魔族を除いて。

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