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第29話 大事な事は何時も後で思い出す。これギャルの鉄則

「勇者って結局何なの?」


 そんな姉の問いに弟は振り向きもせずゲーム画面に没頭している。


「おい無視すんなし」

「そっちこそ邪魔すんなよ」


 だがベッドに腰掛けた姉が背中を蹴り出したので弟は仕方なくセーブして振り返る。


「何だよ」

「だから勇者って何なん?」


 勇者になんなんもゆんゆんもないだろうがと弟は思うのだが姉の馬鹿さ加減には慣れているので適当にあしらう。


「何でも人に聞く前にまず自分で考えろよ」


 なるほど一理ある、と姉は素直に聞き入れうーんと考える。


「主人公?」

「とは限らん。ドラクエ5とかは主人公の子供が勇者だからな」

「え、じゃあヨシヒコは勇者じゃないん?」

「あれはドラクエ5の格好してるだけだろ。オレは見たこと無いから勇者かどうかは知らん」

「じゃあ魔王を倒す人?」

「とも限らん。佐藤和真は盗賊だし、魔王ギリを倒したのはさすらいの踊り子だぜ」

「ほいじゃ概念になるとか?」

「概念になる位なら魔法少女でも出来る」


 それでお手上げとばかりに姉は肩を竦めた。


「勇者ってのは俺らとそんなに歳は変わらないんだ。なのに〝お前は勇者の子孫なのだ。だから世界の為に今から魔王を倒してこい〟とかいきなり言われて薬草と端金だけ渡されて旅に出るんだ。おかしな話だろ? 姉貴だって親父に〝お前は俺の娘なんだから東大出て立派な研究者になるんだぞ〟って言われたって無理だろ?」

「ウチのことナチュラルに馬鹿にしてんの?」

「でも無理だろ?」

「……無理です」

「でも勇者は〝はい分かりました〟って快く引き受けるんだ。そいで色んなとこに行っては色んな厄介事に巻き込まれる。さっさと魔王のとこに向かえばいいのに困ってる人がいたら助けずにはいられない。頼られたらノーとは言えない。敵に何度やられようと勇者は何度でも立ち上がって挑んでいく。で、なんだかんだで最後には結局世界を救っちまう。何でだと思う?」

「何でって……セーブ出来るから?」

「そういう事じゃない。もっと本質的な話をしてんだよ」


 本質的とか父親みたいなことを言う弟に姉は苦虫を噛み潰したような顔になる。


「じゃあ何で?」

「姉貴と同じだよ」

「ウチと?」


 ポカンとなる姉を尻目に弟はまたゲームを再開する。

 退屈なゲームだった。

 敵は弱いし味方はチートクラスに強い。

 更にチャートは単純でおまけにヒロインはまったく可愛くなかった。


「もしこのゲームに転生したとしたら勇者になるのは俺じゃなくて姉貴だろうさ」


 唐突にそんな事を言い出す弟に姉はやはり首を傾げるのであった。




〝勇者ってのはとてつもないお人良し(バカ)なんだ。

 損得関係なく誰でも助けようとする。

 目につく全員を救おうとする。

 後先考えずに行動しちゃうんだ。

 勝てる勝てないなんて二の次で。

 だから世界を救えるんだよ〟

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