第2話 勇者ヨシヒコは毎週チェックする。これギャルの鉄則
「おお! ついに勇者様がご光臨なさったぞ!」
突如眩い光と共に現れた2つの人影にその場に居た神官や騎士達が歓声を上げた。
しかし彼らにとって予想外な事が1つあった。
「……で、どちらが勇者様でしょうか?」
神官長らしき男が一歩前に出ると恐る恐る尋ねる。
女神は隣に立つアキナを指で示した。
「彼女が勇者。私は只のお供」
その言葉に神官達はやや面食らった様子だった。
お供だという背の低い少女は凄まじいまでの神聖なオーラを放っているのだが対して勇者であるらしい背の高い少女は神殿内をあちこち見回しながら落ち着きなくウロチョロしていたからである。
「え? なにここスゲー! いわゆる神殿ってヤツ? 神を祀っちゃいます的な? うわっ! 超デッケー鏡! え? え? え? コレウチ? いま映ってんのマジでウチなん? 完全にガイジンじゃん! うーっわ! 染めてないのに髪マジ超ブロンドだし! カラコン入れてねーのに目も超青いし! 『マスク』のキャメロン・ディアスみたい! マジパネェ!」
アキナは鏡に映った自分の姿に興奮した様子で奇声を上げていた。
そんなとても勇者とは思えない言動の少女に神官長はやや戸惑いの表情を浮かべながらも気を取り直して質問を再開する。
「あのう……失礼ながらお名前を伺っても宜しいでしょうか?」
「え? 名前? ウチはアキナ。こっちはレノア」
そう紹介された女神もといレノアはアキナの方を振り向いた。
だいぶ略されてしまったのが少々不満なようである。
だがそんな視線をアキナは無視し。
「アッキーナ様にレノア様……ようこそいらっしゃいました。さっそく本題に入らせて頂きますが実は今この世界は大変な災難に見舞われておりまして……」
深刻な顔で神官長はこの世界の現状を語り出した。朝の朝礼で校長先生の話が始まった時のようにアキナは1つ欠伸をするとレノアに耳打ちする。
「……ねぇ、レノアは全部知ってるんでしょ?」
「無論」
「じゃあ別に聞く必要なくね?」
「この世界の説明は彼の役割。対して私は本来ここには存在しない。だから彼の役割が優先されなければならない」
そういうことなのでアキナは仕方なく耳を傾けることにした。
眠気が何度も襲ってきてその度にレノアに小突かれた。
「……そういう訳でこの世界は魔王軍の脅威に晒されているのです。しかし勇者様が降臨された今ならもう恐れる必要はありません。言い伝えでは魔王の復活とほぼ同時に勇者様がご光臨なされるとあったのですが中々いらっしゃらず、今か今かと待ち侘びていたところです。そしてこの時の為に我々はしっかりと準備をしていたのです」
長々とした話が終わると神官長は他の神官達に様々なアイテムを持って来させる。
それは騎士達が各地から集めてきた伝説の武器や防具であった。
「かつて混沌を光と闇とに分けたとされる『聖剣ドーンブリンガー』。
高潔なる愛の女神の瞳の如く一片の曇りも無い『神盾イージス』。
我々の頭上で永遠に燃え続ける天の炎をも耐える『重鎧ギガントアーマー』。
豪腕で知られる精霊ビエラの神速の矢を受けてもヒビ1つ入らなかったという『赤兜カープヘルム』。
全て勇敢な騎士達が命を懸けて手に入れてきた伝説の武具です。さあ、お持ち下さい」
アキナは差し出された武具を前にしかし首を振った。
それで神官長の顔が蒼白となる。
「お気に召さないと……? しかし言い伝えでは勇者様はこれらを身につけて魔王を打ち倒すとあります。まさか……偽物と言う事でしょうか……?」
「いや、伝説だか言い伝えだか知らねーけどぜんっぜんカワイクないし。このヨロイとかマジで何よ? ハガレンのアルじゃねーんだから。つーかさ、そもそもサイズ合ってなくね? こんなん『コナン・ザ・グレート』のシュワちゃんでもねーと着れねーっしょ」
確かにアキナの言う通り剣はともかく防具はどれも女が身に着けられるような代物では無かった。
その事実に神殿内には困惑が広がる。
「神官長、それはつまり彼女が勇者では無いと言う事に他ならないのでは?」
その空気を破ったのは1人の騎士だった。
皆の顔が一斉にそちらを向く。
ここにいる騎士達の中でも彼は特に大柄であった。
「神託である言い伝えがウソでないのであればそういう事になりましょう。それに供を連れて現れる勇者など聞いたことがありませぬ」
「しかし、バーナム隊長……」
「そもそも私には彼女がとても強いようには見えません」
そんなバーナムの一言に一同はざわつく。何を馬鹿な事をとばかりに神官達はバーナムに非難の視線を送る。だが騎士達は内心そう思っていたようで賛同するように皆頷く。
「もし彼女が本当の勇者であるというのなら是非それを示して頂きたい」
「バーナム隊長、なんという無礼を! 勇者様を試すなど……」
しかし神官達とは対照的に騎士達は騒ぎ始める。
こうなってしまうと神殿を統括する神官長でも収拾をつけるのは難しそうであった。
「……レノア、どうすんのコレ?」
「どうするもこうするも貴方が勇者として認められない事には物語が始まらない。だからあの騎士風情が言うように勇者であることを示せばいい」
「示すったってどうすんのさ? 勇者ヨシヒコの山田孝之の物真似でもすればいいの?」
そこでバーナムが神官達を掻き分けてアキナ達の前に歩み出た。
「勇者殿、それならば私との一騎討ちによってそれを示されよ」
「……バ、バーナム隊長?」
慌てて神官長はそれを止めようとするがバーナムは構わず剣を引き抜く。
聖剣程ではないが磨き抜かれた立派な大剣であった。
「アンタとウチが? つーか女相手にそんな剣持って容赦なさすぎっしょ……」
「戦場では女も子供も関係ない。強い者だけが生き残るのだ。それに本当に勇者ならば一介の騎士でしかない私程度など恐れる事もあるまい?」
「……レノア、マジヤベーんだけどアイツ?」
「別にヤバくない。彼が言うように所詮はNPC。只の雑魚」
「でもウチ剣とか振ったことねーし……面が超クセーからいつも剣道サボってたんよね」
「問題無い。貴方の武器は剣ではない。貴方が選んだのは『神による絶対権限』。つまり私」
そう言うのと同時にレノアの体が輝き出す。
そして光のシルエットが女神の姿からナイフの形に変化するとアキナの手に収まった。
「え? え? 何? 何々? 何コレ?」
(この物語の主人公はあくまで貴方。私が大っぴらに戦う訳には行かない。だからこうする)
突然レノアの声が頭の中に響いてきたのでアキナはビックリ仰天する。
どうやらナイフに姿を変えたレノアが直接アキナに語りかけてきているようだ。
「イヤイヤ! だってナイフじゃんコレ! リンゴ切るんじゃねーんだから! 向こうは『ロード・オブ・ザ・リング』みたいなガチなヤツだし!」
(心配無用。今貴方は私の庇護下にある。NPC如きに遅れを取る事は無い。例えこの場にいる騎士達が束になって掛かって来たとしても負けることは絶対に無い)
ふむ。
言われてみると確かに体が凄く軽くなったような気がする。
試しにナイフを適当に振ってみるとヒュンヒュンと風を切る小気味よい音がした。
「なるほど、人の姿を取る武器か。噂に聞いた事はあるが実際に見るのは初めてだ。だが些か頼り無いように私には思えるが?」
そう挑発してくるバーナムにアキナも負けじと言い返す。
「えぬぴーしーのアンタにはこれで十分だってさ。ま、言うてウチ勇者だし?」
えぬぴーしーの意味は言ったアキナは勿論バーナムにも分からなかったがコケにされていることは理解できた。バーナムの表情が険しくなる。
「では遠慮なく行かせて貰おう……勇者殿!」
「来いし!」
その言葉通りバーナムは剣を振り上げながらアキナの方に駆け出した。