第22話 戦う者は紳士的行為を遵守し、不正は決して許さない。これギャルの鉄則
で、ベイガス・トーナメント当日。
アキナ達は体調万全の準備万端で大闘技場へとやって来た。
「はえ~、ほぼコロッセオじゃん。行った事ないけど」
せっかく人前に出るのだからと買ったドゥークー伯爵の様なマントを翻しながらアキナは逆光の中にそびえる巨大なコロシアムを見上げる。
巨万の資本が投下されたベイガス・シティの中でも随一の建造物である〝大闘技場〟は観光資源としても大勢の人々を集めているが、何と言っても一年に一度開催される〝ベイガス・トーナメント~最強はどいつだ?~〟は別格で、数々のイベントが催されているこの町でも一番の盛り上がりを見せるのである。
期間中はサイドイベントとして魔法のみで戦う〝マジカル頭脳パワー〟や子供限定の〝わんぱくコロシアム〟やクイズで勝敗を競う〝インテリさんいらっしゃい!〟など様々なレギュレーションが用意されており、ちょっとした田舎の村ほどもある広大な大闘技場のあちこちで人々は思い思いのイベントに参加したり観戦したりするのだ。
そして最終日に場内全てを使って行われる本戦は尋常でない数の人々が押し寄せ、参加するのも観戦するのも大変難しい。
何せ、本戦は事実上何でもアリの無制限レギュレーションであり、百戦錬磨のツワモノ達同士の真剣勝負が見られるのだ。
その上、今回優勝商品として用意されたのは〝奇跡を起こす唯一無二の宝石〟との触れ込みの魔法アイテムで、更に副賞として金貨5000枚が与えられるとあって参加者も過去最高の質と数を誇っていた。
「ようこそ! 第4回ベイガス・トーナメント受付はこちらとなっております! 参加権利証のご提示をお願い致します」
エリーから譲り受けた参加権利証をシェーラが差し出すと、受付のお姉さんは本物である事を確かめてから判子を押してまたシェーラに返した。
「有難うございます。ではチーム登録を致しますのでチーム名をお願いします」
「チーム名?」
「はい、今大会は3人一チームでご参加頂くチーム戦となっております。参加権利証を発行する際に説明があったと思いますが」
そんな話は聞いていなかったアキナ達はエリーの事を恨めしく思いながらも顔を突き合わせ、慌ててチーム名を考える。
すったもんだの末に決まったチーム名をアキナが代表者としてお姉さんに告げる。
「〝世界を大いに救う為の宮代暁菜の団〟で!」
「〝世界を大いに救う為の宮代暁菜の団〟……でございますね。では、もう少し致しますと参加者向けにルールや注意事項についてなどの説明がございますので、しばらくお待ち下さいませ」
そう言う事なのでアキナ達は闘技場内をしばし見学する事にする。
先程見た外観の通り、場内は多くの参加者で溢れ返っていたがそれでもなお非常に広かった。
その中央には巨大な石造りのリングが鎮座しており、恐らくあれが本戦の舞台となるのだろう。
周りをぐるりと取り囲んだ観客席は既に運の良い観客達でほぼ埋め尽くされていて、最高のショーが始まるのを今か今かと待ち侘びている。
そんな非日常的な光景を前にアキナはマントを買っておいて良かったと心底思うのであった。
「では参加者の皆様、こちらの方へお集まり下さい!」
その呼び掛けにアキナ達を含む参加者達がぞろぞろと移動する。
主催側の人間は皆黒いシャツに黒いズボンと言う暑苦しい出で立ちで、一人マイクを持った男だけが臙脂色のシャツを着ていた。
その男が一歩前に出て来て、口を開く。
「皆様、改めて〝第4回ベイガス・トーナメント〟にご参加頂き誠に有難うございます。私は今大会のヘッドジャッジ……つまり大会を円滑に進める為に集ってくれた後ろのジャッジ諸君を纏める者で、また大会の最高責任者でもあります。大会中は基本的に私の判断及び裁定に従って頂きます。さて、早速ですがルールの説明に移りたいと思います。まず一つ目は〝参加者の身にいかなる事が起きようと主催側及び運営は一切の責任を負わない〟……これはまあ皆様ご承知の事かと思いますが一応私の方からきちんと明言させて頂きます」
これにはアキナ達も他の参加者達も異論は無く、ただ頷く。
「二つ目は〝当大会は参加権利証を持つ者であればいかなる者も参加可能である〟……これもこの町においでの方々ならご理解頂けているかと存じます」
これにも参加者達は一様に頷く。
要するに人でなくとも参加できると言う事だ。
当然、人間に不利なルールではあるが皆そんな事は知った上で参加しているのだ。
「三つ目は〝誰が戦うかは運営側によって無作為に選ばれる〟……今大会はこれまたご存知の通り3人一チームによるチーム戦となっておりますが、近年いわゆる〝お飾り〟のメンバーを雇って参加するチームが後を絶ちません。これはチームの結束力を問う当大会の理念に反します。よって前大会より戦う順番はランダムとさせて頂いております。去年もご参加なされた方はご存知かと思いますが、今年が初参加の方は是非ご留意頂きたいと思います」
これには参加者の間から戸惑いが如実に覗えた。
アキナもその一人で、咄嗟に手を挙げる。
「はい! 質問!」
「どうぞ」
「降参はアリですか?」
その問いに何人かの参加者から失笑が漏れる。
だがヘッドジャッジはどこまでも真剣な顔付きで真面目に答える。
「はい、勿論自分の意思による投了は認められています。戦う前、戦いの最中、戦いの後、その他どんなタイミングでも近くのジャッジにその旨をお伝え下さい。相手の強さ、己の未熟さを認める事も大事です」
ヘッドジャッジは他に質問は無いかと一同を見渡してから、一つ頷いた。
「では最後に四つ目は〝行き過ぎた戦闘行為だとジャッジが判断した場合、即座にその戦闘は終了し、ジャッジに従って裁定を待つ〟……これは全ての参加者に必ず守って貰わなくてはならない大事な点です。当大会は参加者である皆様が居てこそ成立しております。主催者であるベイガス・シティ首長が大勢の観客に観せたいと望んでいるのは最高峰の〝闘い〟であり、決して残虐な〝殺し〟ではありません。幸い、前回前々回と死者は出ておりませんがジャッジが〝行き過ぎた戦闘行為〟と判断したケースは幾つか見受けられました。参加者の皆様、どうかこれだけは忘れないで頂きたい。対戦相手あっての大会です。対戦相手には敬意を払い、快く戦える様な心掛け及びルールの遵守をお願い致します」
後はスケジュールの進行予定や賭博行為の注意点やトイレの場所などの細かい話があった。
そして質疑応答まで終わるとヘッドジャッジは最後を締めくくる。
「それでは〝第4回ベイガス・トーナメント~最強はどいつだ~〟の開催をここに宣言します! 皆様ご健闘を!」
かくて戦いは始まった……




