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第21話 ひたすらワーク! ひたすらイート! ひたすらスマイル! これギャルの鉄則

 翌日、アキナ達はお金を受け取るために〝赤の隠れ家〟を訪れた。

 本当は開店と同時に来る予定だったのだが、朝に少しゴタついたせいで一時間ばかり遅れてしまっていた。

 早起きしたアキナとシェーラはお互いの額に書かれた〝肉〟と〝邪眼〟に気付き、貰ってきた水でひたすら洗い続けたのだが、〝神による絶対権限ヴァイス・オールマイティー〟によって刻まれたラクガキはまったく消えず、レノアが起きるまで待つしかなかったのだ。


「アイヤー、昨日はお疲れサマだったネ。コレがそのご褒美ね」


 三人が受け取った額はかなりのものだった。

 これならベラージオホテルも夢ではないだろう。


「もし良かったら、もう一日ウチで稼いで行かないカ? キミ達の評判中々イイヨ!」


 アキナ達は少し迷ったが結局その誘いに乗ることにした。

 払いは悪くなかったし、やはり賭けだの何だのでラクして稼ごうとするより地に足つけてマジメに働く方がずっといい事に気付いたからだ。

 アキナがそう言うとシェーラは嬉しそうに頷いた。


「それじゃ、今日も頑張っておくんさない! 元気なメイドさんに無口なjkさんにドジッ子チャイナ娘さん!」


 その日も店は大繁盛であった。

 新入りの三人のウワサが早くも広まり、常連以外の客も大勢店にやって来たのだ。


「ねー、見て見て! あの和田まんじゅうみたいなお客さん、ちょっとニャンニャンしただけでこんなにくれたし!! もしかしてマジ惚れされちゃってる?? でもウチどっちかと言えば四千頭身の都築とかパーパーのほしのディスコみたいなヒョロガリのが好みなんだよね~」


 手持ち無沙汰にしていたレノアの所へ駆け寄ってきたアキナが両手一杯のチップを見せながらハイテンションで言う。

 店から出る給与も悪い額ではなかったが、やはり稼ぐなら如何にチップを貰うかが重要である。


「レノアちゃん! ご指名だよ!!」


 レノアは頷くと三人組の客のテーブルへと向かう。

 彼らは楽しげに会話をしていたがレノアが席に着くや途端に真剣な表情になってダイスで〝ディメンション・チェス〟の順手を決め始める。

 基本的に客とゲームで遊ぶ場合は相手に合わせて程々に手を抜きながら適当に負けるのが店の方針だったが、一切手加減しないレノアとのゲームは〝遊び〟ではなく〝死合い〟であった。

 その圧倒的強さと容赦の無さから〝ひふみん以来の天才〟とゲーマーの間で話題となり、あらゆるジャンルのガチゲーマーがレノアに挑戦する為に店に押し寄せては敗れ去っていった。


「……お客様、顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」


 カウンターの席でメニューを見ていた一人客にシェーラが心配そうに声を掛ける。

 顔色が悪いどころか死人の様に顔面蒼白なその客はシェーラの事をチラリと見ながら首を振る。


「……大丈夫です。お気遣い有難うございます。この大目玉のパンケーキとコーヒーをブラックで下さい」

「……はい、畏まりました」


 シェーラは注文をメモするとオーダーを伝える為に店に奥へ引っ込む。

 するとナースの格好をした女の子が寄って来てニヤニヤしながらシェーラを小突く。


「あのお客さん、アンタの事気に入ってんじゃない? アンタの事ばっか見てるし、アンタ以外の子が行くとあからさまにガッカリした顔になるし」

「……そ、そうでしょうか?」

「絶対そうだって。まーシェーラはモテるから今更一人増えたとこでって感じかもしれないけど……アイツは何か他の客とは違うものを感じるわけよ、アタシ的には。だって大抵の客はあわよくば一発ヤリたいなーとか思ってるスケベなヤツらじゃん? でもアイツは何つーか、もっと根本的な愛情みたいな気がすんだよねー。だってシェーラの顔ばっか見てるんだよ? 他の客はみんな足とか尻とかムネとかムネとかムネばっか見てるのに。ったく、男ってヤツぁどんな気取ったツラしてようが頭ん中はいっつもそれしかないんだから呆れちゃうわよね」


 まあ、いつもの神官姿よりずっと露出の多い格好をしているので仕方の無い事かもしれないが、神の道をひたすら真面目に歩んで来たシェーラにとって彼女の話は少々刺激的だった。

 何せ自分の周りに居た女の子達と言えば自身と同じくやはり神の信奉者であり、皆済ました顔で音も立てずに食事をしたり春の鳥の様に歌いながら花畑を散歩したりするのだ。

 だからアキナの元気すぎる振舞いや彼女の様なあけっぴろげなガールズトークはシェーラにとって新鮮な経験であった。

 勿論ココでの仕事も、だ。


「……兄様、神から学ぶ事も大事ですが、世から学ぶ事もまた沢山あるようです」


 と、そんな感じで三人はしばらく〝赤の隠れ家〟で働いた。

 アキナは徹底的にバカになってニャンニャンする事で(主に和田まんじゅうから)チップを稼いだ。

 レノアはオーナーが勝手に構築した〝ゲーム神に挑め! 勝てば金貨10枚!〟でゲーマー達から巻き上げた金からキックバックを貰うことで稼いだ。

 シェーラは満遍なく客から人気があったので一番の稼ぎ頭であったが、例の顔色の悪い一人客が「清廉潔白なキミには必要ない物だけれど売ればそこそこになる。ほんの感謝の気持ちだ」とチップの代わりにくれた謎の宝石が特に凄かった。

 見た事もない真っ黒な石は禍々しい程の不気味な輝きを放っており、シェーラは一応手元に取っておいたのだがだんだん気味悪くなってきたのでアキナとレノアに相談した末に売り払う事にしたのだが、それがまたとんでもない額になったのだ。


「スゲーじゃん! これでこの町でスッた分取り戻したし!!」

「でも、こんなに高価な物を頂いてしまって良かったのでしょうか……?」

「ヘーキヘーキ。メチャクチャ金持ちの石油王とかなんでしょ、きっと。砂漠と言えば油田みたいなとこあるし」

「失った物が返って来ただけ。沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり」


 すっかり小金持ちになった三人はようやっとベラージオホテルのスイートに泊まる事ができた。

 昨日まで泊まっていたボロ宿とは天と地どころかあの世とこの世位の差があった。

 部屋は三人で使うには余りに広く、雲の様のフワフワなベッドは6つもあり、窓はちゃんと開き、熱いお湯の出るプールみたいな風呂もある。

 併設されたレストランに行くと世界中から集めた様々な食材がズラリと並んでいた。

 アキナがトントロバイソンはないかと聞くと勿論1頭丸々あったのでステーキや牛カツや肉寿司にして貰った。

 どれも凄まじく美味しかったが、あの村で食べた丸焼きには及ばなかった。

 あの脂まみれの下品さが足りなかったのだ。

 ここの料理は何でも一流の食材を使っていて、味付けも申し分なかったがアキナにとっては少々上品過ぎた。

 一方で新鮮な野菜や果物も充実していたので菜食のシェーラは非常に満足した様子で終始上機嫌であった。

 レノアは調理用の魚やエビなどが泳ぐ水槽をずっと眺めていた。


「おいすー」


 せっかくなので屋上にある天空温泉まで足を運んですっかりリラックスした三人が部屋に戻って来ると、エリーが待ち構えていた。

 テーブルの上にはルームサービスで頼んだらしき高そうな酒瓶やつまみが並んでおり、どうやら一人で酒盛りをしていたらしくほろ酔い状態である。

 格好は相変わらずの水着姿で、この人……いや、この神はこのまま町を出歩いているのだろうかとアキナはちょっとだけ引いた。


「いやー、幾ら大きな町とは言え一人じゃやっぱ退屈でな。こないだの墓場みてーな宿に行ったらもういないっつーんで、仕方なくバランタインの匂いを追ってやっとここを探し出した訳だ。おいおい、そんな顔すんなって。すぐ帰るよ」


 ラクガキの件もあったのでアキナはブスッとした表情でエリーを睨むが、当の本人は毒気の無い顔でパタパタと手を振りながら一枚の用紙を取り出して見せる。

 果たして、それは〝第4回ベイガス・トーナメント〟の参加権利証だった。


「せっかくこっちに来たんだから暇潰しに出ようと思ってたんだけどよ、よくよく考えたら只の人間やそれに毛の生えた程度のバケモノを倒したって何も面白くねー事に気付いてな。バランタインが出るなら少しは楽しめるかと思ったけど残念ながらコイツは一枚しかない。だからお前にやるよ」


 参加権利証を受け取るレノア。

 だが秒でそれを横のアキナによこしたのでエリーは傷ついた顔になる。


「おいおい、そりゃないぜバランタイン? アンタが何秒で参加者全員ハッ倒すのか賭けをして、他のヤツらから金を巻き上げようと思ってたのに」

「何も面白くないのは私も同じ」

「ま、確かに。何ならアタシよりアンタの方が純粋な戦闘力は上だからな。何秒どころか一瞬で終わっちまうわな」


 やれやれとエリーは諦めた様子で今度はアキナを勧誘し始める。


「と言う訳でどうよ、メイドのお嬢ちゃん?」

「どうよっつわれても……」


 参加権利証を眺めながらアキナは困惑する。まあ種目が何であれ大会に出ること自体は好きなのだが。


「勝ったらなんか貰えんの?」

「勿論ですとも、お嬢さま。優勝賞品は何と『何でも願いを叶える幸運のツボ』! アタシは別に叶えたい願いなんてねーからいらねーけど、人間にとってはこれ以上ない賞品だろ?」

「何でも?」


 アキナは胡散臭げにエリーを見やる。


「うむ。七つ集めなきゃダメだとか同じ願いはダメだとか可能な限りだとか、そんなケチくせえことは言わねえ。アタシらのボスは太っ腹だからな。ギャルのパンティーだろうがアタシのパンティーだろうがクレオパトラのパンティーだろうがどんと来いよ!」


 なにがどんと来いなのかまったく意味不明だったが、アキナはふと思いつく。


「じゃあ、これで魔王を倒してくれって願えば一件落着のめでたしめでたしってやつじゃね?」

「ドラクエ6のデス○○ーア感あるがそれも可」


 レノアの同意にアキナはならばと参加権利証を頂く事にした。


「健闘を祈るぜ……ん? その剣……ちょっと貸してみ?」


 そう言われ、アキナは壁に立て掛けてった聖剣を手に取るとエリーに差し出す。


「コレは〝真実〟を司る神ファルスの加護だな。しかし……時の経過による封印ロックが掛かってるな。これじゃ単なるナマクラだ。おい、バランタイン。お前ならそれに気付かないわけがないし、解除だってできるはずだろ?」


 それに対してレノアは口を閉ざしていた。

 エリーはやれやれと肩を竦める。


「そういや忘れてたぜ、お前とファルスは犬猿の仲って事を。でも、そんなくだらねー事で大事な大事な娘が死んじまったらどうする? 神だからってそれもまた運命とか寝言をほざいて受け入れる気か? そうならアタシはお前をやはりぶん殴るぜ」


 レノアに向かって少々強い口調でそう咎めたエリーは剣に視線を戻すと何やら呪文を唱え始める。

 すると、それに呼応するように聖剣が輝き出し、一瞬の後に爆発的な光を発し、再び収束した。


「うむ、これでコイツは真の力を取り戻した。ほらよ、勇者様」


 エリーが雑に放り投げた聖剣をアキナはあっとっとっと何とか受け取る。

 そして鞘から引き抜いてみるのだが、特段変わった所は見受けられない。


「言っとくが今までとは比べ物にならねー位強力になってるから気をつけろよ?」

「そーなん? 別に今までも十分強かったと思うけどなぁ……」

「おいおい、知ってると思うがそりゃ紛う事無く伝説の聖なる剣だぜ? さっきまでのチンケな魔力の搾りかす程度じゃスライムを10匹纏めて倒すのが精々ってとこだ。いいか、新米勇者さん。伝説の剣ってのはな、本来は旅の終盤も終盤で手に入る様な、それはもうスゲー武器なんだよ。まあ、最近はそいつを手に入れる頃にはもっと強い魔法だとか技だとか覚えちまってて有り難味が薄れちまってるのも事実だけどな。とにかく、こんな序盤に一桁レベルのアンタが持ってる様なシロモノじゃねーんだよ、普通は。でもアンタがそうである様に昨今は初めからチートだの何だので無双するのがトレンドだからな。かくいうアタシも強いヤツが活躍する話は大好きだよ。セガール、スタローン、ステイサム、ヴァンダム、シュワルツェネッガー、ザ・ロック、チャック・ノリス、リー・リンチェイ、ジェームズ・ボンド、サイタマ、キリト、司波達也、ジークフリート、ヤマトタケルノミコト……だからアンタも気にせず好き放題するがいいさ」


 アキナは曖昧に頷きながらもエリーに感謝する。

 エリーは大人が子供に対するように声のトーンを落として続ける。


「いいか、アタシら神だって万能じゃねえ。アタシは半熟のオムレツが何度やっても作れねーし、バランタインはウィンクができない。それに務めをミスって主神に呼び出される事もあれば、休暇を取ってベガスにバカンスに行く事だってある。何が言いたいかっつーとな、神の加護はいつでもあるわけじゃねえって事だ。そうでなきゃ、誰もが天寿を全うするはずだろ? だが現実は戦争で死ぬヤツもいれば病に侵されて死ぬヤツもいるし、キッチンで足を滑らせて後頭部に包丁が突き刺さって死ぬヤツだっている。神は何時でも何処だって見てるわけじゃねえんだ。当然バランタインだって、それは同じ事。アンタもそれだけは肝に銘じておけ」


 一方的に述べるだけ述べたてると、エリーは残った酒瓶を一口で飲み干してしまった。

 そして用は済んだとばかりに立ち上がり、アキナの頭をガシガシと撫でると「ジャマしたな」とエリーは去って行った。


「あの方は一体何者なんでしょうか……?」


 不思議そうに首を傾げるシェーラにアキナは髪を撫で付けながら「さあ」と肩を竦めるのであった。


「願いを何でも……か」




・和田まんじゅう

 常連序列第三位。メイドとネコ耳と貧乳が好き。とある勇者に最も近いと目される男の率いるパーティに所属しているらしい(自称)。


・苦リムジン

 常連序列第二位。その時の流行を追うニワカ。今の推しは勿論シェーラでいずれシェーラハードを描きたいと思っている。中堅の同人ゴロで即売会の時以外は実家の防具屋で買取のバイトをしている。


・大御所

 常連序列第一位。開店当初より9年間毎日欠かさず通う謎の老紳士。デビュー時からずっとミキちゃんを推していたが、一昨年寿退社したので今はめろりん一筋。年に一度女の子達がチップの獲得額を競う〝党大会〟では事実上キングメーカー。オーナーとは古い付き合いらしい。







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