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第1話 困ってる世界があったら助けに行く。これギャルの鉄則

 アキナが目を覚ますと目の前に白銀に輝く神々しい女がいた。

 それはもうアキナが見たこともないほど美しく、おまけにフワフワと宙に浮いている。


「私は〝物語〟を司る女神バランタイン・ヘロイン・パナップ・レノアハピネス」

「女神? きゃろらいん・ちゃろん・ぷろっぷ・きゃりーぱみゅぱみゅ的な?」


 何それウケる~とアキナは爆笑するが女神は気にした様子も無く無表情のまま話を続ける。


「ある世界で魔王が勢力を伸ばしている。でもその世界では運悪く勇者が生まれなかった。魔王だけでは物語にはならない。だから貴方に勇者として物語を紡いで欲しい」

「魔王? 勇者? さっきから言ってることマジでイミフなんですけど。なんかウチもアンタも浮いてるし。そもそもココどこだし?」

「ここは世界と世界を結びつけるゲートが集まる合流点コンフルエンス。貴方はあの第300981113429ゲートからやってきた。ゲートは一方通行で逆行は不可能。つまりもう貴方は元の世界に戻ることはできない」


 アキナが見上げるとあらゆる場所に無数の光り輝く穴が口を開けている。

 その中でも一段と明るく輝く大きな穴があった。


「あれは死後の世界へと繋がる最終ゲートでここへ辿り着いた生命体が通ることが出来る唯一のゲートでもある」

「死後の世界? つまりウチ死んだってこと?」

「そう。貴方は死んだ」


 そこでアキナは思い出した……そうだ、自分は濁流となった川に興味本位で近づき足を滑らせて流されてしまった弟を助けるために飛び込んだのだ。

 だが増水した川の流れは凄まじく泳げない弟はあっという間に呑まれてしまい、コナミオープンにも出場したことのあるアキナですら容赦ない水の力の前に溺れてしまったのだった。


「……弟は? 弟はどうなったの?」

「残念ながら貴方と同じく助からなかった」

「……そっか。ウチがちゃんと止めてれば……危ないから川と用水路の様子は絶対に見に行くなって言ったのに」


 シュンと項垂れるアキナに女神はしかし淡々とした口調で話を戻す。


「貴方の選択肢は2つある。1つはあの最終ゲートを通って死後の世界へと旅立つ。もう1つは私の『神による絶対権限バランタイン・オールマイティー』で第60642955ゲートを逆流して先に説明した世界に勇者として転生する」

「だから勇者とか転生とかワケワカメの意味フミ子だし……ん、そう言えば弟が何かそんなヤツ読んでた気がする。アイツ友達いねーから本ばっか読んでたんだ。なんつったっけな……このありふれた世界に転生したら孫だった剣の成り上がり生活と共に……みたいな?」


 アキナは首を捻りながらうろ覚えのタイトルを口にする。

 何時だか風邪をひいたときに弟の部屋から一冊拝借して読んでみたのだがびっしりと文字の並んだページに目がチカチカして三行で断念したのである。

 アキナは超が付く程のバリバリの体育系であった。


「そんなに難しい話ではない。タイトルを付けるなら『jk転生~ウチTUEEE勇者ですが、何か?』といった所」

「はーん……よく分かんないけど要するにその勇者ってのになって魔王とかいうヤツをボコせばいいわけね?」

「そう。刺身の上にタンポポを載せるより簡単なお仕事。未経験者歓迎。アットホームな職場」


 最後の一言に若干不安を感じたがアキナは髪を掻き上げながら頷いた。


「ま、別にいいよ。まだウチ死にたくねーし」

「なら話は決まり。貴方には勇者として物語の主人公になって貰う。主人公は強くなくてはいけない。だから貴方には相応のスキルを与える」


 女神がパチンと指を鳴らすと巨大な本が出現する。更にスマホを操作するかのように虚空で手をスライドさせるとアキナの前に移動した。


「好きなものを選ぶと良い。どれもこれから行く世界においては強力無比なスキル」

「そう言われても……『時間と空間を操ることが出来る時空操作能力』とか『一瞬で相手の周囲の大気ごと氷結させる能力エターナルフォースブリザード』とかマジで超絶意味分かんねーし……」

「どれを選んでも大差ない。まな板の上の鯉を日本刀で切るかウォータージェットカッターで切るか程度の違い」

「いや残忍すぎるっしょそれ……」


 アキナはドン引きしながらパラパラとページを捲っていく。


「ま~どれでも同じってんならこの『手からタピオカミルクティーを出す程度の能力』ってのにしよっかな……」


 そこでアキナは最後のページに〝ここに無い能力もご用意いたします。ご相談下さい〟と書いてあるのに気づいた。


「ねえ、これってどういう意味?」

「そのままの意味」

「マジでなんでも良いの?」

「ご相談下さい」

「じゃあアンタを連れてくってのは?」


 その一言に女神の表情がほんの一瞬だけ揺らいだ気がした。


「ウチこういうゲームみたいなのよく分かんないからアンタみたいになんでも知ってるヤツがいると助かるんだよね。どうよ?」

「……恐らく可能。『神による絶対権限バランタイン・オールマイティー』は我々神々にのみに与えられた力で人間が行使することはできない。だから貴方がそれを望めば結果的に私を連れていけることになるはず」

「ふ~ん、じゃあウチはその『神による絶対権限バランタイン・オールマイティー』ってのを希望しまーす!」

 女神は頷くと「女神バランタイン・ヘロイン・パナップ・レノアハピネスの名においてそれを承認する」と宣言する。するとアキナだけを包むはずだった光が女神をも包み込み、一筋の帯となってゲートの中へと消えていった。

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