第16話 仲間のピンチにはハヤテのごとく駆け付ける。これギャルの鉄則
丘を下り切ったアキナはそのままの勢いで速度を緩めることなくスカートを翻しながら森を抜け、川を渡り、草原を突っ切り、時折襲ってくるモンスター達を蹴散らし、一目散にホープタウンを目指した。
「……つーかウチ結局いっつも走ってない!? 普通ドラゴンとかに乗って空を飛んだりするもんじゃねーの!? こんなん全然映えねーし!!!」
天に向かってそう叫びながらも腕をしっかり振って疾走を続けるアキナ。
それはまさに戦場を貫く矢の如き姿だった。
「あ、見えた!」
ようやく視界に町を捉えたアキナは背負った聖剣の柄に手をかけながら最後の力を振り絞って更に足を速める。
町に到着したアキナはその光景にまずはホッとする。
建物は所々崩れるなどしていたが焼け落ちるなどはしておらず、人々も皆無事なようだった。
「シェーラ!? レノア!?」
アキナは落ちた矢や煤けた石畳の道や木にへばりついた血痕などの戦闘の痕跡が残る町中を駆け回りながら仲間の姿を探す。
ミステリアス人形の少女が広場の向こうで銀色のお姉ちゃんを見たと教えてくれたのでアキナは礼を言って広場へと向かう。
「おお、勇者様! ご無事で!!」
広場では激しい戦闘があったらしく地面が抉れたり噴水が崩れていたり教会が半壊したりしていた。
ケガ人も何人かいるようで神父や治療魔法を使えるモンスター達が彼らの傷を癒している。
「貴方がたが敵陣をガタガタにして下さったおかげで我々も善戦していたのですが、一人だけとんでもなく強いヤツがいまして……」
頭に包帯を巻いて斧を手にした鍛冶屋のオヤジがそう説明する。
「アイツが言ってたヤツだ! で、そいつは!?」
「あそこです」
鍛冶屋のオヤジが指差す方を見ると巨大なゴーレムの姿があった。
見るからに強靭な岩の如き肉体を誇っていて背丈も聳える大木のようである。
だが驚くべき事にその巨体は見事なまでに真っ二つに切断されており、均等に分かれた右半身と左半身が横たわっている。
「うわ……確かにヤバそうなヤツ……でも誰が倒したの? 先着したレノア?」
無言で鍛冶屋のオヤジはケガ人に包帯を巻くシェーラの方を見やった。
「シェーラ! 大丈夫?」
アキナが駆け寄っていくとシェーラは顔を上げて「はい、この通り大丈夫です」とニッコリ笑った。
包帯をしっかりと結ぶとシェーラはゆっくりと立ち上がって目元の汗を拭う。
そんなシェーラの肩をアキナはバンバンと叩いた。
「何々、ついにシェーラも覚醒しちゃった? あんな化物倒しちゃうなんてスゲーじゃん! 何か凄い魔法でも覚えたん?」
「いえ……あのモンスターを倒したのはわたくしではありません。わたくしはただ『イルミネート』とこのカルトゥーシュでごまかしながら戦線を何とか保とうとしていただけです」
「ふーん、そうなんだ。じゃあやっぱレノアがやったんだ?」
「私ではない」
何時の間にかアキナの傍らに立ったレノアが即座に否定する。
「私が到着した時には既にあの状態だった。私は念の為に全身の魔力神経を凍結させただけ」
「じゃあ一体誰が……?」
その疑問にシェーラが「それが……」と語り出す。
何でも全身をローブに包んだ正体不明の男(女)が突然乱入してきて暴れ回るゴーレムを一瞬で倒してしまったのだということだった。
「アレは強力な呪印によって莫大な魔力が込められた魔法人形の一種。あのトカゲの比にならない位強い。アレ一体で小さな城程度なら難なく落とせるレベル」
「そんなのを瞬殺とか、そいつメチャクチャ強いって事じゃん! 仲間にしようよ!! どこにいるの??」
男か女どころか人間かも分からない者を仲間に引き入れようと辺りをキョロキョロと見回すアキナだったが、シェーラが首を振る。
「我々が礼を言うと彼(彼女)は僅かに頷いただけで何も言わずに去ってしまいました」
「そっかー、残念。でも何かイコライザーみたいでカッケーし! きっと世の中の悪いヤツらを片っ端から成敗するさすらいの正義の味方なんだよ!!」
それに対してまたレノアが何か言いたそうにしていたが女神もこの町から学んだらしく結局黙っていた。
人には正論より願いの方が大事な時もあるのだ。
「ま、何はともあれ皆さんが無事で何よりです。町は多少のダメージは受けましたが大したことはありません。我々はこういう状況から何度も立ち直ってきました。ささ、温泉にでも浸かってどうか疲れを流して下さい。ついでにお背中でもお流ししましょう。いや別にエロい意味じゃないですよ、ええ」
そんなわけでアキナ達はもう一泊することにした。
アキナ達が勧められた通り温泉でまったりしていると例の骸骨型のモンスターが入ってきてしっかりと背中を流してくれた。
「B、A、Eって所だわね☆」
そんな言葉を残して彼女(信じましょう)は出て行った。
アキナとレノアはしばらくシェーラに沈黙の視線を送っていた。
シェーラは神に祈るふりをしながら頑張ってシカトしていた。
「それで勇者様達はこれから如何なさるつもりで?」
風呂上りにトントロバイソンの濃厚なミルクを振舞われていたアキナはそう尋ねられて首を捻る。
ここまでボールが坂を転げるように慌しくやって来たが改めて問われると一体自分達が何処へ向かっているのかアキナにはさっぱり分からなかった。
「でしたらベイガスシティに行かれては如何でしょう? ここから東に二日程行った所にある大きな町でいわゆる〝都会〟という場所です。世界中から多くの人々が集まるので今までの村のようにのんびり静かにとは行かないでしょうが、きっと大きな体験や教訓を得ることができましょう。勿論多くの人が集まるという事はお金もまた多く集まるという事で治安も決して良いとは言えませんが今の勇者様達なら問題ないでしょう。良ければパンフレットも差し上げます」
そう言って町長は一枚の紙を手渡してくる。
〝夢も希望も何もかもがココにある……来たれ、成功したい者! 勇者は世界を救う。魔王は世界を征服する。キミはそんな世界を超えてもっと大きな物を手にする。我々は待っている〟
そんなギラギラしたチラシを読み上げながらアキナはレノアとシェーラを振り向く。
「どうする?」
「儚いと揶揄される人の夢というものに若干の興味がある。それに都会は映える」
「どんなに苦しくとも希望さえあれば人は生きていけると信じています」
そんなわけで一行の次なる目的地は夢も希望も金も何もかもが叶う大都会ベイガスシティに決まったのであった。
~第二章・お尋ね者は辛いよ編、完~