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第11話 宝とは必ずしも形ある物とは限らない。これギャルの鉄則

 何処までも続く遮る物の無い大平原。

 そこを吹き抜ける風と共に疾走するのは一騎の馬と少女が一人。


「ねえ! ちょっと! ちょっと!! 幾らなんでも速過ぎない!? そっち馬でこっち人間だし!?」


 人間三人(正確には人間二人と神を一柱)を乗せながら軽々と走る馬の横を見事なトム走りで併走するアキナが絶叫する。


「問題ない。人間がついて来れるギリギリの速度」


 馬の背の上からアキナを見下ろしながらにべも無く答えるレノア。

 手綱を握る村人Aが心配そうな顔で振り返る。


「……もう少し速度を落としましょうか?」

「大丈夫。これ以上遅くすると日が暮れる。秋の日は釣瓶落とし」

「今は夏だし! 一番暮れねーし! ウチの体力の方が先に暮れるし!」


 辺りは一面瑞々しい緑で、正に夏真っ盛り。

 燦々と輝く太陽は遥か頭上で、暑さも一段と増していて馬上の三人とは対照的にアキナは汗だくでベチョベチョである。


「大体あのゲームおかしくね!? 終わるまで1ヶ月掛かったし! あんなの人間じゃ無理ゲーっしょ!? そりゃレノアがダントツで1位じゃん!! つーか、シェーラもおかしくね!? バンバンガー5体に囲まれた時ウチは地割れに呑まれて結果的に助かったけど、シェーラはあの状況からどう生還したの!?」

「……まあ、わたくしは一応これでもレベル93ですので。〝イルミネート〟で隙を突きながら何とか倒す事が出来ました」

「ホントに!? ウチあいつ一体倒すのに10時間位掛かったよ!? 伝説の聖剣使ってだよ!?」

「……途中で隕石が落ちてきて何匹か巻き込まれましたし、アキナさんが呑み込まれた地割れからヘンテコな格好をした老人が現れて詠唱無しで攻撃呪文を撃ち出せる魔法の筒で援護してくれましたから。何より神の御加護のお陰です」


 謙遜して言いながらシェーラは前に座るレノアに視線をやる。


「レノアさんこそ、どうやってあのゲームを最速で攻略したのですか? 最短ルートは吸えば0.2秒で死に至る毒ガスが噴出するデスバレーや史上最悪と言われる伝説の悪魔が支配する無限回廊を通り抜けなくてはならないはずですが……」

「ゲームは得意。それに私には神の加護どころではないもっと大きな後ろ盾がある」


 レノアが女神である事を知らないシェーラにレノアは言葉を濁しながら返答する。

 いつか盛大にバラしてやろうと心に誓いながらアキナは置いて行かれないように必死に走り続ける。

 時折呟くようなレノアの回復魔法や聖歌隊に所属していたシェーラの荘厳なコラールの様な応援歌に支えられながら、何とかアキナはハラミ洞窟まで完走する事が出来た。


「…………クッソあちーし! クッソ疲れたし! クッソ腹減ったし!」

「お疲れ様でした。アキナさん」


 仰向けにブッ倒れて空に向かって愚痴を叫ぶアキナを法衣の裾の部分でパタパタと扇ぎながらシェーラが労う。

 村人Aも近くの川から汲んで来た水をパシャパシャとアキナの顔に掛けながら心配そうに首を振る。


「……勇者様がこんな状態で果たして四天王に勝てるんでしょうか……?」

「余裕。夜にはもう村に戻ってご馳走が用意されるのを待ち侘びながら一風呂浴びている筈」


 その言葉にアキナはガバッと身を起こすとシャンと直立して手を握り締める。


「そうそう! もうチャッチャと四天王だかイカ天大王だかを倒して風呂入ってメシ食って寝る! 行くよ! レノア! シェーラ!」


 息を吹き返したアキナを先頭に勇者一行は村人Aを外に残して不気味に口を開けた洞窟へと入っていく。

 中は薄暗く、シェーラが〝イルミネート〟を唱えようとするがレノアがそれを止める。


「一応相手は四天王。なるべく気付かれない様に進む」


 アキナとシェーラは頷くと目を凝らしながら足音を立てないように慎重に奥へと進んでいく。

 敵の気配はまったくない。

 恐らく洞窟の主が四天王のヴォイドになった事で以前ここに住み着いていたモンスター達は逃げ出してしまったのだと推測された。

 途中、無防備に放置された宝箱の中身を回収しながらアキナ達は難なく最深部までやって来た。

 三人が岩の陰に身を隠しながらチラリと奥を見ると闇に包まれた巨大な空間が広がっている。


「恐らく、この奥にヤツが居ると思われる。油断は禁物」

「作戦は? とりあえずウチがバーッて行ってバンしてから二人が更にドンって感じで行く?」

「四天王以外にも配下の敵が居るかもしれません。数が不明な以上、ここは一つ慎重に行くべきかと」


 小声で作戦会議をする三人はあれやこれやと意見を交し合う。

 やがてレノアがそれらを纏める。


「まずシェーラの範囲を絞った全力の〝イルミネート〟で先制を取る。敵がうろたえている内にアキナが飛び込んで四天王と思われるヤツを仕留める。ザコは無視」

「おk」

「了解しました」


 いつもより光を抑えながらジャマダハルに姿を変えたレノアをアキナは右手に装着する。

 切るのでは無く、突く事に特化したドラ○ンキラーの様な武器である(Wikipediaより)。

 その光景にシェーラは少々驚いた様子だったが、それでも冷静に段取りをイメージしながら小声で詠唱を始める。

 アキナは例によって赤青3Dメガネを掛けて戦闘に備える。


「イルミネート!」


 シェーラの力強い言葉と同時に奥の空間で閃光が炸裂する。

 ほぼ真っ暗な状態でこれをまともに見た敵の目は間違いなく灼かれただろう。

 右手に握った刃を構えながら視界良好のアキナは奥へと飛び込んだ。


「ぐわーーっっ!! 目が! 目があ~!!」


 湿った洞窟の床をゴロゴロと転げながら悲鳴を上げる獣人の様なモンスターを前にアキナはジャマダハルを構えたまま固まってしまう。

 他に敵らしき姿は見えない。

 と言う事は……


「……え? どういう事? レノア?」

(……………………)


 とりあえず合流したシェーラがホワイト赤マンポシェット(最初の町の魔法道具屋で買った幾らでも荷物が入る不思議なポシェット)から取り出したロープで転がる獣人を縛り上げる。

 やがて視力が回復した獣人は自分を見下ろす三人に気付き、次いで縛られて身動きが取れない事に気付く。


「あ、アンタ等は……?」

「ウチら? 見ての通り勇者御一行だけど?」

「ゆ、勇者だって!?」


 獣人は怯えた様子で三人を見上げる。


「……じょ、冗談じゃねえよ! まさか勇者が来るなんて聞いてねえぜ!?」

「お前がヴォイド?」


 元の姿に戻ったレノアの問いにヴォイドと思われた獣人はふるふると何度も首を振る。


「ちげえよ! オレはヴォイド様じゃねえ!! ただヴォイド様を騙ってここに居ろって命令されただけなんだ!!」


 三人は揃って怪訝そうに眉を潜める。

 レノアが更に問い質す。


「誰に命令された?」

「び、ビター・キルズ様だ! ビター・キルズ様の手下じゃヴォイド様にはとても見えねーっつう事でオレにお声が掛かったって訳だ! オレは見ての通りヴォイド様率いる〝大地を踏み鳴らす猛獣達ストンピング・レギオン〟の所属だからな!」


 アキナはレノアを見る。

「つまりコイツは四天王ってヤツじゃないって事?」

「そう。コイツは只のザコ」

「おいおい、俺はコレでも〝大地を踏み鳴らす猛獣達ストンピング・レギオン〟ではNo.3の実力で只のザコってこたあ……ああ、いや、まあ、確かにアンタ等からしたらザコにちげえねえかもしれねえが……」


 獣人は口ごもりながらも魔王軍の一員としての矜持を何とか保とうとする。

 だが座り込んだ獣人と同じ目線のレノアは冷たい表情で詰め寄る。


「なら伝えて。必ずお前達の命は貰い受ける。せいぜい震えながら首を洗って待っていろ、と」

「レノア……それ完全に悪役のセリフだよ……」


 縄を解いてやると獣人は一目散に逃げてしまった。

 やれやれとアキナは鬱陶しげに髪を掻き上げる。


「はー……まったく時間のムダだったし。骨折り損の何とやらってヤツ?」

「そんな事も無い」


 一番奥に鎮座する宝箱をレノアが示す。

 近づいてみると今までの宝箱とは違って仰々しい雰囲気があった。

 期待しながらアキナは宝箱を開ける。

 しかし中身は空っぽで一枚の紙切れが底に落ちているだけだった。


「……残念ながら儲かったのは疲労だけの様ですね」

「いや……案外そうでもないんじゃない?」

 

 アキナは拾い上げた紙を広げながら肩を竦めた。




〝初のダンジョン攻略おめでとう。君達の勇気を讃えよう――初代勇者より〟





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