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第10話 トンカツはヒレよりロース、焼肉はハラミよりカルビ。これギャルの鉄則

「これはこれは大変失礼を致しました……! まさか勇者様がメイド服を着ているなど露にも思いませんでしたもので……」


 宴の席で三人の向かいに座った村長は深々と頭を下げる。

 だが村長の言う事にも一理ある……どころか、まったくもってド正論だったので誰も何も言わなかった。

 三人の前には豪華な料理が沢山並んでいる。

 フワフワの大きなパンに木の実のジャムにチーズに分厚いハムに野菜の煮込みに果物の盛り合わせに川魚の塩焼きにぶどう酒まであった。

 更にメインとなるのはど真ん中に鎮座した村の名産であるトントロバイソンの丸焼きである。

 いやブタじゃないんかーいと心の中で突っ込むアキナだったが、とにかく美味しそうなので気にせず頂くことにする。


「何コレ超ウマッ! マジ半端なくジューシーだし! ウチのパパは脂っこいって胃もたれしそうだけど、やっぱウチはコレだね! 脂最高!!」


 村のおばちゃんが切り分けてくれた肉の塊にかぶりつきながら感動するアキナに村長は満足げに頷く。

 レノアは疑わしげに川魚の塩焼きを一頻り眺めた後、恐る恐る頭の部分を齧る。

 シェーラはパンにジャムを塗りながら隣でどんどん料理を平らげていくアキナの食欲に目を丸くしていた。


「……それで今日はここに泊まるとして、明日はあの洞窟に行けばいい感じ?」


 パンを頬張りながら尋ねるアキナに、しかし村長の表情は暗いものになる。


「……本来であればそうなります。あの洞窟の宝箱にはこれから旅で必要となるであろう物が一通り揃っております。また一番奥にはちょっとしたモンスターが待ち構えていて、倒せば相応のアイテムも手に入ります」

「へー、何かそれっぽくなってきたじゃん!」

「しかし今回はこの村である程度準備をされたら洞窟へは寄らず、次の町へと向かって頂きたい次第です」


 そう提案する村長に三人の視線が集まる。

 村長は神妙な面持ちでその理由を告げる。


「実は今あの洞窟の主は先程申しましたモンスターではなく……かの悪名高い魔王軍の四天王が一角ヴォイドなのです」

「え? それって魔王の次位に強い人とかじゃなかったっけ?」

「その通りです。魔王軍は四つの軍団から成りますが、その一つである〝大地を踏み鳴らす猛獣達ストンピング・レギオン〟を率いるのがヴォイドです。ヤツは2週間程前にそれまで主だったモンスターを倒して洞窟に住み着きました。本来この様な序盤のダンジョンに居る様なヤツではないのですが……」

「そうそう。レノアももっと後に出てくるヤツだって言ってたし?」

「勇者と魔王の戦いはもう何度も繰り返されている。向こうも学んだと言う事。私が話したのはあくまで正規チャート。そして正規チャート通りでは勝ち目が無い事を向こうも理解している」

「……でも行くんでしょ?」

「当然。面倒な手順を省ける。好都合」


 その会話を聞いていた村長はうろたえた表情になる。


「し、しかし……! ヤツは四天王の中でも最も残忍で血も涙も無いと同族からも恐れられる暴君ヴォイド! 幾ら勇者様でも今の状態ではとても敵うとは……」

「こちらもバカじゃない。もうちまちま敵を倒しながら少しずつ強くなっていく時代は終わり。いきなりクライマックス」


 ぶどう酒を飲み干しながら力強く言うレノア。

 パン、チーズ、ハム、チーズ、トントロバイソンの肉、チーズ、パンと挟んだ迫力のスペシャルバーガーをモグモグ食べながらアキナもうんうんと頷く。

 皮を剥いたグミグミブドウを一口しながらシェーラがそこで初めて口を開く。


「……まあ四天王の方は良いとして、洞窟まではどれ位かかるのでしょうか?」


 夏の日差しを浴びて傍若無人に伸び放題の草原や湿気の多い林の悪路には流石に参ってしまっていた様子でシェーラが不安そうに村長に問う。


「そうですな……ここから徒歩で半日と言った所でしょうか」

「は~? 何それメッチャ歩くじゃん……四天王とバトる前に暑さにやられるっつーの!」


 うんざりした様に言うアキナはそこで何か思いついた様にパチンと指を鳴らす。


「そうだ! 馬車で行こうよ! こないだ町で見たディズニーランドみたいなヤツ! ウチあれ乗ってみたかったんだよね!」


 これは名案だとばかりに高らかに声を上げるアキナだったが、村長曰くトントロ村には馬車が無いとの事で一瞬でテンション↓↓になってしまう。

 それを見た村長が代案を提示する。


「馬車とは行きませんが馬でしたら1頭ご用意出来ます。とても利口で大人しい馬ですが脚力は中々のものです。どなたか乗馬経験のある方は?」


 三人は一斉に首を振る。

 うーむと村長は困った顔になる。


「そうなりますと村の者を一人お供させる事になりますが、あの馬に乗れるのはせいぜい大人の男が二人と言った所。手綱は村の者が取るとすると乗れるのは身軽そうな貴方がたでも二人が限度でしょう」


 村長はそれ以上言わなかったが、アキナ達はその意味する所をしっかり理解する。

 三人はお互いの顔を見ながら大きく頷く。


「ジャンケンでどう?」

「命を懸けたルール無用のデスマッチを提案する」

「神への感謝を兼ねて賛美歌対決などは如何でしょうか?」


 じっと睨み合いながらお互いに譲る気のない三人。

 そこで村長が気を利かせて一つの古びた木の箱を持ってきた。


「これは村に代々伝わる双六と言う架空の動物世界をテーマにしたゲームですじゃ。なに、ルールは簡単。自分の番が来たら賽と呼ばれる六面体を2つ振って出た目の数だけマスを進み、中央にあるゴールに着いたら勝ちです。同じ数字が出たらもう一度賽を振ることが出来ます。きっと盛り上がる事請け合いですじゃ」


 アキナが箱を開けるとマスや動物の描かれた盤と幾つかの賽と動物を模した4つの駒が入っていた。

 動物はどれもアキナが見た事の無い姿をしている。


「ははぁ~、要は人生ゲームみたいな感じ? ウチこれ超得意なんだよねー!!」


 これは貰ったとばかりにニンマリしながらアキナは駒を適当に選び出す。


「じゃあウチはこのベルフェゴールみたいな角の生えた六本足のヤツにするー!」

「私はアモンチバックラベン」

「ではわたくしはシロロススロロースにしましょう」


 それぞれ駒を手にした三人は残った最後の駒と村長の顔を交互に見る。


「村長さんもやろうよ! 折角4人用なんだし!!」

「……わ、私は遠慮しておきますじゃ」


 何かに怯える様な表情で村長はブンブンと顔を振る。

 アキナはその場に居た他の村人も誘ってみたが皆一様に首を横に振るだけだった。

 仕方ないので三人だけでゲームを始めることにする。


「そいじゃビリの人が馬に乗れないって事でおk?」

「おk」

「はい」

「んじゃウチからサイコロ振るよ~! ほい!!」


 かくて賽は投げられた。

 何処からともなく太鼓の音が聞こえてきた。


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