必殺技で幕末を生き抜いた忍者は、森の中に住む文学少女と暇つぶしに語らう
なろうラジオ大賞2第二十六弾。今回は『必殺技』『幕末』『忍者』『森の』『文学少女』『暇つぶし』の六点盛り。何と戦っているんだ私は。
投稿期間もあと僅か。悔いの無いよう頑張りましたので、お楽しみ頂けたら有り難いです。
岩を蹴り、木を掴み、夜の森の中を疾る。猿とてここまで自由自在に動けまい。幕府が倒れ隠密のお役目から解かれた俺の身そのものだ。
爺達は「これからどうする」だの「絶望だ」だの途方に暮れていたが、俺達忍者にはこの力がある。好きに生きれば良いのだ。
……灯り? ……庵か? こんな森の中に誰が住んでいるんだ?
面白そうだ。俺は呼吸を整える。息を殺し、足音を殺し、気配を殺す。必殺技と名付けられたこの技を使って、俺は幕末を生き抜いた。
「!?」
行灯の前で書物を読み耽る少女。その白い髪と紅い瞳に、思わず息を呑む。
「……誰?」
顔を上げた少女と目が合う。しまった! だがその奇異な外見から目が離せない。
「今晩は」
「こ、今晩は」
「あの、宜しければ、中へ……」
「えっ、あ、うん……」
気が付けば俺は庵の中にいた。
「こんな夜更けに何の御用でしょう」
「用は無い。只の暇つぶしだ」
「まぁ」
何が可笑しいのか、少女はころころと笑う。
「では私の暇つぶしにお付き合い頂けますか?」
「其方も暇なのか」
「はい。私はこの通り忌み子ですので、ここから出る事が出来ません。出来るのは本を読む事位。お話をお聞かせ願えますか」
お話か。忍者とこれ程相性の悪いものも無いだろう。だが今は何に憚る事も無い。
「黒船の話は知っているか」
「黒、船?」
「そこからか」
「開国、維新、文明開化……。世の中はそんなにも変わったのですね」
どうだ。幕末から明治の世まで生き抜いた忍者の知識は。少女は顔を上気させている。
「其方も此処を出て、世間を自由に見れば良い」
「……それが出来たら素晴らしいですね」
少女の顔が曇る。
「金の髪や青い眼の方が居る異国なら、私も外に出られる、なんて……」
「……」
何だ。何か不愉快だ。何がだ? 少女を忌み子と排する世の中か? 諦めて笑う少女自身か?
「あ、申し訳ありません。私……」
「共に来い」
「え?」
「異国などに行くまでも無い。お前のその身を必要とする者が居る」
「それって……」
少女は再び顔を赤らめる。
「此処に未練は?」
「……ありません」
「ではついて来い」
「はいっ」
「どうだあの歓迎ぶりは。赤目の白蛇を祀るこの村なら其方は立派な神の遣いだ」
「はぁ、ありがとう、ございます」
「どうした。不安か」
「いえ、あの、思っていたのと違いまして……」
「不満なら自ら変えてゆけ。それが自由と言う物だ」
「! そうですね!」
紅い瞳に力強さが戻る。少女の自由と決意に、俺は大いに満足した。
読了ありがとうございました。
前回もう少し楽なのを、とキッパリ言ったばかりなのに…‥ スマンありゃウソだった
でも まあちゃんと作品は書き上げたんだから良しとするって事でさ…… こらえてくれ
必殺技は大分無理しました。任務とはいえ人をばさばさ斬る子にラブコメの主人公は合わないかなと思いまして。
この後少女に猛烈なアタックを受けながらも、修行と任務一筋だった忍者には通じず、悶々とする展開が待ち望まれる訳ですが、誰か書きませんか?
ともあれ次回作もよろしくお願いいたします。