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第十三話 優奈との外出⑦(おまけ)

「疾風と優奈さん今日は随分とゆっくりなお帰りでしたね。二人一緒に仲良く朝帰りなんて私憧れちゃうな~、のろけ話の1つでも聞かせて下さいよッ」


 何時もは騒がしい海斗や聡太が押し黙って食事を取る中、リビングに凪咲の何時もよりハキハキとした声が響く。

 しかし親切に兄の茹で卵の殻を剥いてくれるその妹の目は、全く笑ってなどいなかった。


 まさか帰るまでこんなに時間が掛かるとは思わず、朝日を浴びながら高速を飛ばし帰って来た疾風と優奈は玄関を開けた瞬間待ち構えていた凪咲に迎えられたのだ。

 そしてニコニコとしながら「朝食はもう出来てますよ」という彼女の言葉に従ってテーブルに着き、ブレークファストという名の尋問が始まったのである。


「いッ、いや別にのろけ話とかそういうアレじゃないから。唯優奈のバイクの後ろに乗せられてツーリングしてたら…思いの他帰りが遅くなったみたいな、なッ優奈!!」


 手元に視線を落さず卵の殻を取り外し、冷たい炎を称えた瞳で此方を見てくる凪咲を前に疾風は自分一人じゃ太刀打ち出来ないと悟る。そして助太刀を求め、彼は優奈へと話を振ったのであった。


 今回はちゃんと取引をして有るのだ。ちゃんと最後まで彼女の前を歩き、しかも最後は外まで背負って運んでやった。

 間違い無く恩を売る事には成功している筈。優奈が何も無かったと言ってくれるだけで丸く収まる筈なのだ。


 そして疾風の助けを求める視線を感じた優奈は首を縦に振り、任せろという様に親指を立てて口を開いた。


「凪咲ッ…………ホテルでの事は何も言うなと疾風に止められてるんだ」


 しかし彼女が発したのは疾風への擁護ではなく、背後から崖に突き落とす様な事態を急激に悪化させる一言であった。

 そしてその余りに語弊を呼び過ぎる内容に疾風が絶句していると、凪咲が恐れた通りの反応を示す。


「ほッ、ホテル!? 疾風まさか又優奈さんをホテルに連れ込んだの!!」


「…ち、違う! 誤解だ誤解ッ! てか又って何だッ、ホテルに行ったのは今日が始めてだ!」


「始めてって事はやっぱりホテルには行ったんじゃないの!! 疾風の変態ッ、浮気者、この節操なしッ!!」


「いやッだから誤解だって!! ホテルはホテルでも廃ホテル! 其処にアイツの写真を撮りに行ったんだよ!!」


「写真を撮るって、疾風そんな趣味だったの!? 何に使うの、その写真何に使うのか言いなさいよッ」


「使うって何ッ!? 凪咲誤解だ、お前の兄にはそんな如何わしい趣味何て無い! なあ優奈、お前からも言ってくれ! オレ何もしてないよな!!」


「ああ、何もしていない。疾風は唯寝ただけだ」


「寝たぁッ”!? なにが何もしてないよ疾風ッ、何もかもをしてるじゃないの!! 逆に何をしてないのか教えて欲しッ……え、何もしてないってそういう事ッ? 何をせずに寝たって事!? 疾風ッ経済力も無いのにそんな事する何て無責任だよ!!」


「優奈てめえッ!! お前絶対わざとだろ、わざとオレを貶めようとッ…ゴボォッ!?」


 優奈の聞き用によっては無限に解釈の余地が有る発言のせいで、恐れていた通り凪咲がとんでもない方向へと誤解した。そしてその誤解を彼女の中でさらに拡大解釈していき、妹の表情に兄に対して若干引いている様な色すら滲み始める。


 そしてそんな妹の止まらない誤解の原因である優奈へと疾風が怒りを爆発させた瞬間、彼の口を何か白くてツルツルした物が塞いだ。

 それはつい今まで凪咲が剥いていた朝食のゆで卵。


「疾風……もうこれ以上人様の前で醜態を晒さないで。今日の朝ご飯はそれでお終いッ、後の言い訳は私の部屋で貞操観念を叩き直しながら聞かせて頂きます」


 丸々一個茹で卵を口に放り込んで喋れない様にするという中々とんでもない事をサラッと行い、凪咲は顔が青褪めていく兄の服を掴んだ。

 そして椅子から引き摺り下ろし、疾風を自分の部屋へと引っ張って行く。


「ゴボゴォッ!! ゴッゴボッゴゴゴンゴー!!(優奈てめえふざけんなよッ!! 何時かぜってえ復讐してやるからなー!!)」


 口をゆで卵に塞がれながらも優奈に対する最大限の怨嗟を叫ぶ疾風の声が、扉の向こうから聞こえ続けた。その様はまるで絞首台に嵌められる死刑囚が最後の悪足掻きをしているよう。

 そして凪咲の部屋のドアが閉まる音が聞こえてから一瞬静かに成り、それから何かドタバタという音が鳴った後、こんな声が聞こえて来た。




「ぎぃやあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!」




「アハハッ、やっぱり食卓は賑やかな方が良いね。朝食が今までの二倍は美味しい気がするッ」


「疾風はやっぱり大物だな、まさか加わって一週間もせずにチームメンバーに手を出すなんて。いやッ、初めて会った時からもう手を出してたんだっけ?」


「おい聡太、疾風の分の朝食取ってくれ。捨てるの勿体ないからアタシが食う」


 優奈の部屋は一階の部屋の中で最もリビングから離れた廊下の突き当たりに位置している。

 しかしその距離と二枚の扉を隔ててもありありと聞こえて来る絶叫を聞きながら、残ったメンバーはショーが終わったと言わんばかりに口を開き会話を始めた。


 海斗はこの断末魔が如き仲間の声を聞きながら食事が二倍美味しくなったと言い、聡太はあくまで疾風がやったという前提で会話を続け、優奈に至っては自らのせいで現在妹による貞操観念矯正を受けている男の朝食を食べ始めた。

 このラージボルテックスというチームは狂人でなければ入れないという規定でも有るのだろうか。まるで我こそがこの世界で一番のイカレ野郎だと競い合っているかの様である。


 そしてそんな中、海斗は食卓に残ったもう一人である久美さんが何やら携帯を弄りネット通販で買い物をしている事に気が付いた。


「あれ? 姉さん突然何の買い物してるの??」


「ん~? 疾風君と優奈ちゃんに何かお祝いのプレゼントをあげようと思って…ダブルベッドを注文したのッ」


 そう言って、久美さんは笑顔で既に注文を確定させたスマホ画面を見せて来た。

 その瞬間室内に居た全員が悟る。この狂人万博が如き家の中で、最もぶっ飛んでいるのが久美さんであると。


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