第十三話 優奈との外出
「何やってんだお前?」
3回目の練習を終えて全員で夕食を取り、皆が寝静まったものと思っていた深夜1時過ぎ。
一階のリビングに明りが付いてたので気に成って中を覗いた優奈は、ソファーに座ってテレビショッピングを無表情に眺め続ける疾風を発見し思わずそう漏らした。
「あ、優奈起きてたのか」
「お前こそ起きてたのかよ。てか、何見てんだよ……こんな高枝切りバサミなんて欲しいのか?」
「いや、眠れないから時間つぶしに流してるだけ。眠れないのにずっとベッドで横に成ってたら気が狂いそうになってさ、海斗が怒るからゲームも出来ないしッ」
「ふ~ん、まあ此処へ来たからってそう簡単に生活リズムなんて変わらないわな。さっさとシコって寝ろ」
「女の子がそんな下品な言葉使っちゃいけませんッ!! ママ貴方をそんな子に育てた覚えは無いわよッ」
「てめえに育てられた覚えもねえよ」
そう言っていつの間にかアメリカ人がハイテンションに包丁の切れ味を紹介する番組にマイナーチェンジしていた画面から疾風が目線を移すと、優奈が何やら厚着をしている事に気付く。
「あれ? 優奈どっか行くのか?」
「ん? ああ、ちょっと外に出てくる」
「アメスピ?」
「タバコが切れたんじゃねえよッ!! 海斗と聡太の真似してんじゃねえ、アタシは非喫煙者だッ」
「ああ、アイコスね」
「電子タバコはタバコじゃねえ論者でもねえよ! 頼むから深夜にイライラさせないくれ」
「へー、離脱症状ってそんなに酷いんだな」
「……もう、何も反応しねえからなッ」
彼女の言う何もかもが喫煙者フィルターの様な物で別の意味に変換されているらしい疾風との会話に、優奈は頭を抱える。
此処の家は何か女性に対するデリカシーを消すウィルスにでも汚染されているのだろうか。
海斗と聡太に加えて疾風までもが最近当たり前の様に自分を半グレ弄りしてくる様に成ったという事実に、凪咲はそんな突拍子も無い想像をしてしまう。
「じゃあタバコじゃ無いなら何処へ行くんだ?」
しかしそんな彼女の気など知りもせず、疾風は更にグイグイと質問をしてくる。多分夜中に一人で暇だったのだろう。
「何処って、それは………………そうだッ」
そしてそんな疾風の質問を受けた優奈は一瞬何やら口籠もり、それから突然妙案思い付きたりという表情となる。
「疾風、お前眠れねえんだろ?」
「え、なに、子守歌でも歌ってくれッ」
「じゃあちょっと1、2時間付き合え。良かったな、こんな可愛い女子と夜の時間を共有出来る何て男冥利に尽きるだろ?」
「……おな、ご? 何処??」
「3分以内にできる限り厚着して玄関先に来い。来なかったら今の発言の責任を取らせて手前を殴り殺す」
「やっぱ半グレじゃん…………」
「何か言ったか″?」
「いえッ、何でもございませんッ!!」
とてもカタギの人間が発する物とは思えぬ言葉と威圧を向けられた疾風は、拒否権など有る訳も無く一目散に自分の部屋へと飛び込んでいく。そして当の優奈は、疾風より一足先に家の外へと出ていった。
そんな二人の眠くなる所かどんどんと覚めていく瞳には、この先に待ち受けている身の毛も弥立つ様な恐怖など、今はまだ知る由も無かったのである。




