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第十二話 ウィザードの視点③

【光魔法陣×1 風魔法陣×2、生成完了】


【所有魔法陣:光×2 風×2 土×1】


【豪天龍アマノサイガがプレイヤー コード・ジークにより討伐されました。以降竜の巣はレッドチームの陣地へと組み込まれます】


【へキム 10000ex獲得】


【レベルアップ レベル6へと到達しました】


【ブースト『アカシックレコード』が解放されました】


 通知欄にジークが期待通りドラゴン討伐を行なってくれたという報告が入る。そしてマップで他のメンバーが既に竜の巣内部へと入っている事を確認し、ヘキムは作戦開始の合図となるその行動を起こした。


「ブースト、起動」


【ブースト アカシックレコード起動。万知億識の真理を授けん】


【光魔法陣×5 風魔法陣×1 土魔法陣×1、生成完了】


【所有魔法陣:光×7 風×3 土×2】


【光魔法陣×1 風魔法陣×3、生成開始】


 これこそ、へキムが何としてでもジークがドラゴン討伐を成功させるまでにレベル5へと到達しておきたかった理由。

 ドラゴンを倒した事によりチームメンバー全員に配られた経験値が彼をレベル6へと引き上げ、ウィザードのブースト『アカシックレコード』が使用可能と成ったのである。

 

 アカシックレコードの効果は好きな魔法陣を7つ即座に生成出来るという、一見他のジョブが持つブーストに比べ派手さを欠いた印象を受ける内容。

 しかし、この魔法陣7つを即座に生成出来るという事がどれ程自らに試合を動かす力を与えるのか、その事をへキムは良く理解していた。


【戦術魔法:ヘブンズウォール発動。消費魔法陣:光×4 土×1】


 ブーストによって一気に所有魔法陣に余裕が生まれたへキムは、直ぐにそれを消費して光の壁を創り出す。

 そしてその壁を引いた位置は、丁度今中立地帯へと攻め込んで来ている三人の敵プレイヤーから竜の巣を遮る様な場所。


 これはメッセージであった、お前達の陣地を攻めに行くぞという脅迫である。


 敵をこれ以上前に進ませたくないのなら、次の中立地帯が確定した時点でその内部に敵を入れない様壁を作れば良い。戦って敵を全滅させたいのなら、中立地帯と敵陣の境界線へ沿う様に壁を作り、敵を自陣へ逃げられない様にすれば良い。

 しかし、今壁が築かれた場所はそのどちらでも無い。唯敵が竜の巣に来るのを邪魔するという意味しか生み出さない位置にヘブンズウォールを展開したのである。


 そしてその目的は敵目線でたった1つしか思い浮かばない筈だ。

 前線に来ている敵を無視してユグドラシルを攻めるので、通り道となる竜の巣に邪魔者が入らない様にしたと。


【ウォーオブアグレッション】


 そんな彼の思考を肯定する様に、敵のウィザードが手を打ってきた。


 ウォーオブアグレッション、敵陣でもデバフを受ける事無く行動出来る様になる魔法だ。

 そしてそれから数秒後、中立地帯に居た敵三名が境界線を割って自陣へと侵入し、態々光壁の外周をぐるりと回るというルートを通ってヘキム達の背後より竜の巣に入ってきた。


【光魔法陣×1 風魔法陣×3、生成完了】


【所有魔法陣:光×4 風×6 土×1】


【風魔法陣×4 生成開始】


 そんな敵の動きを見ながら、へキムは冷静に次の駒を生産していく。

 

 この敵の行動はいわゆる教科書通りな、竜の巣を取られた場合に行なうべき模範的な動きであった。

 バンクエットオブレジェンズではその仕様上、背後からの攻撃が非常に有効となっている。例えば前方からの攻撃であれば後ろの自陣へと逃げる事である程度簡単にやり過ごせるのに対し、背後から攻撃では敵から逃げた先が敵陣と成っている為やり過ごすのが非常に難しい。


 そして現在敵はへキム達が竜の巣の端からユグドラシルへ対する魔法攻撃を狙っていると予測している筈。

 其処で背後に居る三名のプレイヤーによる攻撃と自陣に居るウィザードの魔法攻撃にて山裾に集まった敵を挟み撃ちにし、逆に全滅させようと狙っているのだろう。


【風魔法陣×4 生成完了】


【所有魔法陣:光×4 風×10 土×1】


【風魔法陣×4 生成開始】


 しかし、そんな敵の恐るべき策略を理解した上でへキムは依然顔に焦りの色1つ浮べなかった。魔法陣の生成が完了した事を確認した彼は、業務連絡を行なう様な抑揚の少ない声で仲間達へと指示を出す。


「狙い通り敵が釣れたよ。攻撃の合図を出すまで物陰に潜んでいて」


『『『了解』』』


 そう仲間に計画通り物事が運んでいると伝えた彼は、脳内で綿密に練られたその計画に従い魔法を発動する。


【戦術魔法:アウェイキングブロー発動。消費魔法陣:光×1 風×5】


 発動した魔法は『アウェイキングブロー』。敵に掛かったバフ効果を消滅させる風を一定範囲内に吹かせる戦術魔法だ。

 そしてそのバフ無効化の風に吹かれた敵三名は、敵陣で自由に活動する為受けていたウォーオブアグレッションのバフ効果を奪い去られる。


【ウォーオブアグレッション】


 しかし、その彼のアクションに対し敵ウィザードも即座に対応。再びウォーオブアグレッションを掛け直し、敵陣デバフから仲間を守る。


 だが敵ウィザードがその様な反応を示す事は分かりきっていた。そして当然、その上で相手を崩す手段もヘキムは用意している。


【戦術魔法:アウェイキングブロー発動。消費魔法陣:光×1 風×5】


 敵の又掛けしたウォーオブアグレッションを再度打ち消し、現在自陣に侵攻してきている三名の敵プレイヤーに敵陣デバフを背負わせる。


 唯々同じ事を繰り返す展開。しかし敵ウィザードとしても凄まじい能力ダウンを背負わせた状態で味方を敵陣に放置する訳にはいかず、三度同じアクションを行なざるを得ない。


【ウォーオブアグレッション】


 敵ウィザードが、3度目の同じ魔法を仲間達に使用する。そしてこれは、ヘキムにとっても少し予想外であった。


 ウォーオブアグレッションは1度の使用で光の魔法陣×1・火の魔法陣×2・土の魔法陣×2を必要とする戦術魔法だ。これを3度連続で使用したと成ると光×3 火×6 土×6という合計15もの魔法陣を消費したという事に成る。

 敵のウィザードはへキムに比べドラゴン討伐で得た経験値も無く、陣地面積も狭い事から恐らくレベルは4程度しか無いだろう。それがこれ程蓄えているとは流石に考えていなかったのである。


 しかし其れにより、今度はこのチキンレースをふっかけた側であるへキムの方が魔法陣の不足に直面する事と成ってしまった。これでは自陣の優位を充分に活かせぬまま敵とぶつかる事となってしまう。

 だが、そんな想定外を前にしてもへキムは冷静であった。こんな時の為に用意していたアイテムを取り出し、躊躇無くそれを使用する。


「ブックオブノウン、起動」


 彼がそう宣言すると掌の中に古めかしい本が出現。そして開かれたそのページから選択を行なうと、その選んだ魔法陣がページの中より飛び出しへキムの中へと吸込まれた。


【風魔法陣×2 生成完了】


【所有魔法陣:光×2 風×2 土×1】


 そしてその魔法陣が彼の体内へと蓄えられ、風の魔法陣2つが彼の所有魔法陣に加わる。

 今使用したアイテムは『ブックオブノウン』。通常の魔法陣生成とは異なり瞬間的に魔法陣を2つ生み出す事が出来る、マジッククラスのプレイヤーであれば必須クラスのアイテムだ。


【風魔法陣×4 生成完了】


【所有魔法陣:光×2 風×6 土×1】


 更にブックオブノウンによる魔法陣獲得の直後、予め生成を行なっていた風の魔法陣4個が生成完了する。これによって三発目を放つ準備が整ったへキムは即座にその魔法を敵へと叩きつけた。


【戦術魔法:アウェイキングブロー発動。消費魔法陣:光×1 風×5】





 アウェーキングブロー発動から数秒経過。敵から4発目のウォーオブアグレッションは飛んでこない。

 そしてへキムは確信する、遂に敵ウィザードの魔法陣が尽きたのだと。勝負有りである。


「OK、準備完了だッ。皆試合を終わらせてくれ」


 そうへキムが指示を出すと同時に、竜の巣の中程で身を潜めていたジーク・エイナ・ドンファンの三名が一斉に敵へと襲い掛かった。


 そのこんな場所に留まっている筈のない敵の襲撃に、ナイトとアーチャー二名は敵陣デバフを受けている事も有り、一時後退して体制を立て直そうとする。

 しかし、敵を背後から襲おうとしていた彼らの背には敵陣しか有りはしなかった。敵陣デバフから逃れられない彼らは出口のない袋小路で逃げ惑い、一人また一人と追い詰められていったのである。


 竜の巣を取った相手に対する模範的な行動、それを逆手に取ったへキムの策略に彼らはまんまと嵌ったのだ。


 敵を自陣との間で挟もうとする時、自らもまた敵陣と敵に挟まれる事と成る。そしてどちらが追い詰める側に回れるのかという事は、ウィザードの頭脳と保有している魔法陣の数に依存するとへキムは知っていたのだ。


【キルログ コード・ジーク→ベンゼマ✖】


【キルログ エイナ→バルベルデ✖】


【キルログ コード・ジーク→ヴィニシウス✖】


 直ぐに敵三名のキルログがへキムの元へと届けられた。盤面さえ作れてしまえば早い物である。

 敵陣デバフによるステータス低下、前線有利とドラゴン討伐によるレベル差。これだけの勝利要因が揃っていたなら勝率は99,9%を軽く越えていたであろう。間違い無く勝つべくして勝った試合である。


 ヘキムは他のメンバー達が身を置いている戦いの熱狂から遠く離れたスタート地点にて、一人静かに無機質な通知を眺めガッツポーズを作った。

 自分の凡常ぼんじょうな力が、才能溢れる仲間達の勝利に役立ったのかも知れない。それが言い用のない程嬉しかったのである。


 そしてそれから1分もせず、敵ウィザードがリタイアを選択してラージボルテックスの勝利が確定した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] これだけアクの強いメンツの手綱を握って盤面操作できるだけで、凡常ではないと思うけど慢心しないのは評価点。
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