第九話 練習⑤
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ッドオオン”!! ガッシャァァン!!!!
爆煙の薄膜を貫き、突如見違える程の速度を纏い突っ込んで来たジークの蹴りがパラディンの構える盾へと命中。
しかも此れまでと違ってパラディンは車に追突されたかの如く派手に吹っ飛び、地面と鎧がかち合う耳障りな音を上げたのだった。
その余りに急激なサイドチェンジに、敵陣営へと衝撃が走ったのを凍り付いた辺りの空気が知らせる。
しかし其れでも敵バンディットは優秀であった。余程繰り返して身体に染み込ませたのか、この思考停止してもおかしくない状況下で即座味方のカバーに入る。
恐ろしい滞空時間で蹴りを叩き込み着地したばかりのジークへと、バンディットの大鉈が振り上げられた。
スゥオンッ!!
だが、その攻撃はジークの後方より飛び出てきた横槍によって中断させられる。ドンファンがアイテム『スロウナイフ』をバンディット目掛け投擲したのだ。
バンディットは攻撃を止め、慌てて仰け反った事でギリギリ直撃を免れたる。しかし彼へと入れられる横槍はそれだけでは終わらない。
ッヒュオン! スゥオンッ! ズォンッ!!
彼の鼓膜を、幾つもの鋭利な風切り音が揺した。
ドンファンの投擲へ更にエイナの弓撃が加わり、敵の意識がジークへと向かぬよう隙間無く遠距離攻撃がバンディットへと飛来。
そしてその幾つかは致命傷とは成り得ぬものの彼の身体へと突き刺さり、その体力をジリリと削る。
こう成ってくれば流石にもう無視し続ける事など出来ない。バンディットはこれ以上体力を削られぬ様ナイフと矢の雨から逃れて木陰に身を隠し、其処でアイテム『グリーンポーション』での回復を行なう。
更にこの状況では味方の援護も満足に出来ぬと、煩い遠距離攻撃を放ってくる2匹の蝿を叩くのが先決と判断させた。
エイナとドンファンは狙い通り、敵のバンディットをジークから引き剥がす事に成功したのである。
そうして仲間達の協力もあり生み出された、ジークとパラディンの1on1。
しかし2人がバンディットの注意を自らへ引き付ける事に成功した頃、ジークは敵に起った嬉しく無い変化を感知し、追撃を躊躇していた。
蹴り飛ばしたパラディンの身体が、現在彼の身体を覆っている物と全く同じオーラを纏い始めたのである。
【強化魔法:バーラーオブマーズ】
【強化魔法:ゲールオブマーキュリー】
【強化魔法:オーダーオブジュピター】
如何やら敵も考える事は同じらしい。
この地での戦いを制した方が試合に勝利すると踏んだ敵ウィザードが、残った全ての力を注いでパラディンにバフを掛けてきたのだ。
そしてその事により、一時的にジークがへキムの力で埋め更に上回った筈のステータスが再び逆転。
パラディンは敵のアサシンをあらゆるステータスで凌駕したその上で起き上がり、数値の暴力で磨り潰さんと真正面から向かい来た。
ダンッ″! ザァッ、ズウォンッ!!
ッキィィィィィン”!!!!
しかし先ほど同様払われる圧倒的ステータス差を叩き付ける様なパラディンの剣技が、今回はいとも容易くジークに躱され、更に流された。
ドオオン″″ッ!!
その上ジークは反撃まで滑らかに繋ぎ、握らぬ左手での掌底打ちを敵の盾へ叩き込む。
そのインパクト音はさながら爆発でも起ったかの如くで、軽く2メートルも敵の身体を吹き飛ばした。
しかしそれでも盾越しである以上ダメージは通らない。パラディンはシールドを一層高く構え、再び何の変化もなく直線を描いてジークへと突っ込んで行く。
そして右手に握った剣を、身体の纏った速度と共にズンッと突き出した。
ズウォオ………
だが、その攻撃もアサシンの身体を捉えるどころか後退させる事さえ出来なかった。虚しい空の裂ける音のみが互いの鼓膜を揺らす。
ッダア″ァ″ァ″ァ″ン!!!!
身体をスピンさせるのみでその突きを回避してみせたジークは、更にパラディンの盾へと蹴りを入れ、今度は3メートル近くもその身体を弾き飛ばした。
最早流し受けやスキルを使用する必要さえ無い、完全に敵の動きを見切り放たれたカウンター。
「……………………ッ”?」
この瞬間命中した余りにも綺麗なその反撃が、等々敵に気付かせた。
まるで歯車が狂ったかの如く突然思い通りにいかなく成った現状に、パラディンの顔へと困惑の色が滲み始めたのだ。
そんな敵の予想通りな反応に、ジークは内心でこう答えを返したのである。
(幾らステータスが上がってもその力に振り回されてたら意味がねえ。数値が増えれば増えるほど、其れを如何扱うかって事の比重が大きく成るのさッ)
この瞬間、ジークとパラディンの間に有る数値上の差は爆煙に遮られる前と変わっていない。
しかし変わったのはその数値の総量。そして、可視化困難な、その数値を実際に引き出せている割合であった。
歩きや早歩きでタイムを競った場合、恐らく足が長く歩幅の大きな者が勝つであろう。
しかし、これが全力疾走に成れば多少話は変わってくる。まだこれでも足の速く身長の有る者は有利だろうが、スタートダッシュやコーナリング、更には運動神経も重要な要素の一つと成ってくる。
更にもっと話を広げて、レーシングカーで競うとしよう。この場合もうどれくらい優れたマシンに乗るかという事以上に、コーナリングやギア操作などの技術の方が重要に成ってくる。
そして恐らく、一般人ではレーシングカーに乗るよりも普通の乗用車に乗った方が良いタイムを出せる。
つまり、与えられたステータス数値が低い時点では、力の制御という要素は殆ど重要には成らなかった。
しかし、ステータスが上がれば上がる程、如何にその数値を制御出来るのかという点の比重が大きく成っていったのである。
これが突如、ステータスにバフが付いた瞬間ジークが有利に成った原因。
巨大な数値の半分も満足に制御できず動きが単調に成っている男と、この程度のステータスなら平常時の九割近い動きが出来る男。
その二人の間には、多少の数値差など容易く逆転出来てしまう制御の差があった。
「……………ッ”!!」
しかし、其れを理解出来ないパラディンは再び武器を構え直し、まるでハンドルが付いていないかの如く一直線に突っ込んで来る。
ブォンッ!! ズオッ!! ザァンッ!! ブンッ!!
そしてまるで濁流の中溺れ藻掻いているかの如く、一心不乱に剣を振り回した。
ッガ″″アン!!!! カランッ、カラッ………
しかしその放たれた無数の斬撃は一つとして目標を捉える事無く、敵を追い払う事さえも出来ず、突っ込んで来たジークの空へかち上げる様なアッパーを受けパラディンは盾を弾き飛ばされた。
宙を舞い地面へ落下した盾が虚しく鳴く。
ジークは、この為に只管盾へ攻撃し続けていたのだ。
このゲームにおける盾とは、武器による攻撃には滅法強く、斬撃を受け止めれば一方的に相手へ硬直を与える事が出来る。
しかし打撃攻撃には故意に弱く設定されおり、盾越しであろうとスタン値は貫通蓄積されていくのだ。
恐らく今パラディンの盾を握っていた左腕は、スタン値が貯まり殆ど動かぬほどの痺れに襲われているだろう。
ガシャッ……………………
ジークの思った通り、パラディンは左腕をだらんと垂れ下げたまま右手のみで剣を握っていた。しかしそんな状態でも、彼は勝負を投げる事はせず切っ先は真っ直ぐにジークへと向いていたのである。
未だ心は折れていないと、その鈍い銀照が示す。
その気概を買い、ジークも又最後まで手を抜かず全力で殺し合おうと構えた短刀で伝える。
ダンッ
ダンッ
30分にも満たぬ時間。だが刃と刃の濃密なコミュニケーションで結ばれた二人は、示し合わせたかの如く同時に地を蹴った。
…………………ッキィィィィィィン、ザクゥッ″
そして、振り下ろされたパラディンの剣をジークが流し受けにて払い、返しの凶刃が首へと突き刺さった。
側から見れば呆気ない幕切なのかも知れない。
しかし、ジークにはこれまでパラディンより放たれた如何なる攻撃よりも、この瞬間この一太刀が手強く喉元に迫る物だと感じられた。
【キルログ コード・ジーク→デッモーレ✖】
【キルログ エイナ→リッシュモン✖】
ジークがパラディンを倒したのと殆ど同じタイミングで、エイナがバンディットを倒したという通知が届く。ドンファンと協力し、足止めどころか軽く倒してしまったらしい。
そしてその結果、自分以外の仲間が全滅してしまった敵ウィザードがリタイアを選択。
この戦いは、我らがラージボルテックスの勝利で幕を閉じる事と成った。




