第九話 練習④
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ダッ ドオォン”ッ!!!!
先手必勝と言わんばかりに疾風はその突進の速度纏ったまま空中で半身を作り、敵のパラディンへと跳び蹴りを放つ。
だが敵も初手の虚を突かれ倒れてくれる程生易しい相手では無かった。左手に握った盾で素早く防御を作り、ジークの蹴りを受けても数歩後退るのみで耐え凌ぐ。
その素早い敵の反応に関心しつつ、ジークは攻め手を緩めず更なる猛撃でパラディンの硬い防御を突き崩しに掛かる。
ズオォンッ
しかし、そんな彼を一つの風切り音が後退させた。
仲間が攻撃されたのを受けバンディットが空かさずカバーに入り、ジーク目掛け手に持った大鉈を振り下ろしたのだ。
ステータスの低いギルドクラスからの攻撃だろうと、最低の体力値を誇るアサシンからすれば容易く致命傷に成り得る。ジークは側方より襲ったその大鉈をバックステップで回避。
だがその隙にパラディンが体勢を立て直し、間髪入れず斬り込んで来た。
「うぉ………ッ!」
ズオォッ、ブンッ ズザァン″ッ!!
その想定外な敵の立ち直り早さにジークは面食らい、ギリギリで体を躱し致命傷を免れる。そして斬撃二発を更に肌で風圧感じる程の距離で回避した後遂に体勢が崩れた。
動き繋げず無防備を晒したジークの身体へパラディンの白刃が迫る。
ッキィン!!
だが、其処で仲間の援護に救われた。エイナがパラディンへと矢を放ち、それを盾でガードさせる事により攻撃が中断されたのだ。
……ドオォンッ!!
エイナの矢により窮地を脱したジークは、其処で安堵するのではなく一転攻撃へ切り替える。
弓撃を防御する為に構えられた盾へと自ら突進し、渾身のタックルにてパラディンを前方に吹き飛ばした。レッドバロンのオマージュである。
そしてそのアクションを行なえば、間髪入れずカバーが入る事は一度見て知っている。
それ故パラディンを弾き飛ばしたジークはそのまま敵を追撃するのではなく、滑らかに動きを繋いでもう一人の敵へと正面を向けた。
ズォ…ッキィィィィィィン″!!!!
予想通り振り下ろされたバンディットの大鉈。それを流し受けにて側方へと誘導し、敵の隙をこじ開ける。
ドゴォ”ッ!!
そうして開かれたバイタルポイント、ジークは考えるより速く拳を振り抜きバンディットを殴り飛ばした。
狙い違わず顎に命中した拳は敵に決着のスタンを刻み込む。
更に場の頭数を先ずは一つ減らすため転倒したバンディットへと馬乗りに成り、両手で短刀の柄を握り、その首へと全体重と共に振り下ろした。
ッガアァン”″!!!!
しかし、まるで衝撃が跳ね戻って来たかの如く今度はジークが強い衝撃を側方に受る。そして情けもなく弾き飛ばされる事となった。
先ほど体当たりで遠ざけた筈のパラディンがもう体勢を立て直し、盾で彼を殴り付けたのである。
しかも、その衝撃は不公平にもジークに抗いきれぬ体勢の崩れを引き起こし、スタンを受け這いつくばるそのアサシンへトドメを刺さんとパラディンは剣を振り上げ向かって来る。
ッヒュン………キインッ!!
だが、パラディンの歩みを又もエイナが放った白銀の矢が食い止めた。その一瞬でジークは敵の腹を下から蹴り抜き、その隙に起き上がって後ろへ飛ぶ。
そして二つの陣営間に、偶発的な睨み合いが生まれる事となった。
「ありがとうエイナ、助かった。やっば2人相手はキツイなッ」
「おいジーク、お前今何レベだ?」
「…………………3レベ」
「やっぱりかッ、馬鹿が。向こうのパラディンは少なくとも5は有るぞ、バンディットもだいたい3レベくらい。流石のお前でもこれは物理的に無理だろ」
始めの内は気付かなかったが、今の殴り飛ばされている姿を見てエイナは気付いたのである。レベルが、ステータスが余りにもジークと敵との間で乖離しているという事に。
間違い無く、現在ジークは攻撃力・防御力・スピードあらゆる要素で敵のパラディンに劣っている。
攻撃は全て対応されて盾に阻まれ、蹴りや体当たりを放っても全て受け止められ、しまいにはたった一発の反撃を受けてジークは派手に吹き飛び致命的な隙を晒す事となった。
まるで大人が子供の相手をしているように、一挙手一投足全てで敵に軍配が上がっている。寧ろ逆に良くこのステータス差で、しかもバンディットの相手までしながら此処まで対等に戦えるものだと関心すら覚えた。
だがしかし、このままの状況を維持し続けても勝機が見えてくる気がしないのもまた事実。
「無理かどうかは死んでから考えるさ。とりあえず今は只管ぶつかりまくって攻略の糸口探すしかねえだろッ、もっかい突っ込むわ」
「おい馬鹿待て! んな無鉄砲に特攻してもまた同じ結果に成るだけだ、少し時間を稼ぐぞッ」
「時間稼いで何に成るってんだよ。レベリングする隙なんて無いんだ。今オレがアイツら倒せたら勝ち、倒せなかったら負け、それだけの話だろうが」
「んな単純な訳あるかッ。一人で全部やろうとしてんじゃねえ、このチームに一体何人居ると思ってんだ!!」
「だったらお前が精々後ろからオレを援護してくれよ。この試合に負けたくなかったらさッ」
「だからちょっと話聞けって!!」
圧倒的なレベル差のある状況を引っ繰り返す策もなく、取り敢えず再び一人で敵の懐へと突っ込んでいこうとするジークの手を、エイナが掴み引いた。
そして真面目な口調で、新メンバーにこう語りかけた。
「アタシが言いたいのはなッ、仲間を待てって事だ”! アイツらがこの状況で何も動いて無い筈がねえだろうがッ!!!!」
カアァンッ、カラ……ッドオ”オ”オ”オ”オ”オ”オ″オ″オ″オ″オ″オ”ンッ!!!!
丁度エイナの言葉尻へ被さるように、ジーク達とパラディン達の丁度中間へなにか円形の物体が放り込まれる。そしてその物体が数秒もせず爆発し、爆風と黒煙が二つの陣営を遮るように広がった。
【強化魔法:バーラーオブマーズ】
【強化魔法:ゲールオブマーキュリー】
【強化魔法:オーダーオブジュピター】
そしてその突然の爆発に驚くジークの元へと三つの魔法発動通知が届き、彼の身体を血を思わせる赤色、旋風を思わせる蒼色、夜天空の星々を思わせる七色のエフェクトが包んだ。
すると急に身体に感じるエネルギーが桁幾つも跳ね上がり、まるでこの世界の支配者と成ったが如き限りない全能感が胸に注がれたのである。
それは、彼一人では決して手に入らない力の感覚。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ……何とか間に合った~ッ!」
『当初の計画は見る影も無くなっちゃったけど、此処まで来ればもう仕方が無い。この場所で勝利しそのまま試合へケリを付けようじゃないかッ』
息も絶え絶えに成ってこの場所に到着した水瀬聡太ことプレイヤーネーム『ドンファン』と、ボイスチャット越しにリーダーであるへキムの声が聞こた。
どうやら今突然起った現象は、この二人が起こした物らしい。
「遅えよ、何処で油売ってた」
「それノンストップでステージ半周して此処まで来た人間に言うッ!? まあ良いや、とにかくッ……2人共これ使って!」
エイナの冷たい、しかし少し安心したような言葉に裏返った声を返しドンファンは2つのアイテムを実体化させる。そしてエイナに緑色のアンプル、ジークに赤色のアンプルを放って渡した。
マーチャントである彼は固有の能力として、アイテムを仲間に分け与える事が出来るのだ。
そしてジークが受け取ったのはレッドポーション、一定時間攻撃力が1.5倍に成るアイテム。そのガラス状のアンプルを握り砕くと、それまでの全能感に重ね塗りして力が漲ってくるのを感じられた。
『やあジーク、聞こえるかい?』
「なッ、何だいリーダー?」
『何で指定した持ち場を離れて、そんな危ない場所に居るのかな~? きっと納得のいく説明を用意してるんだろうね?』
ボイスチャット越しにリーダーからの声を聞いたジークは、ギクッという擬音が目に見えそうな程大きく身体を震わした。
お説教モードである。へキムはジークが勝手に持ち場を離れ前線に出てきた事を怒っているのだ。
「いやッ、その……仲間が孤立してたら助けに行くのがッ」
『レベリングに飽きたからだろ?』
「ッ!?」
ジークは再びギクッという擬音が目で見えそうな程大きく肩を跳ねさせた。完全に動機を見透かされている。
分かってるなら態々聞かなくても良いだろ、と内心に思った事を口にする程彼も馬鹿ではない。
『まあ良い、お説教は練習が終わった後だ。良いかいジーク、今君には僕に残ってた全ての魔方陣を消費して強化魔法を掛けた。つまりもうこれ以降壁を作ったり、味方を逃がす為に霧を張ったり、再度攻め込むために改めて魔法を掛ける事は出来ない。この意味が分かるね?』
「この魔法が切れるまでにオレがあのパラディンを倒せなかったら、負けって事だろ?」
『何か問題有る?』
「いいや無いねッ。精々一人ぼっちで通知タブでも眺めてな、直ぐにパラディンとバンディットぶち殺したキルログ送ってやるからよ!!」
『ハハッ、じゃあ信頼だけはしておくよ』
「………………おう、任せとけ」
何とも自然に信頼という言葉を吐く海斗に微かなむず痒さを覚えるも、ジークはそう迷いなく言い切ってみせる。
そして爆煙が流れ再び姿を現した敵へと、三人分の力が乗った身体を動かし突っ込んでいったのであった。




