第九話 練習③
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「…………おいへキム。自陣への帰還は絶望的だッ、悪いが死に方の指示をくれ」
『起ってしまった事は仕方ない。せめて少しでも時間を稼いでから死んでくれ』
「了解、後は頼んだ。じゃあ遺言終わり」
敵陣とヘブンズウォールの間に挟まれた逃げ場のない狭いスペース。
その中でボロボロに成ったエイナは自らの死を避けられぬ物と認識し、リーダーの相模海斗、元いプレイヤーネーム『へキム』へと最後の通話を繋いだ。
退路をヘブンズウォールで断たれた後。狙い澄ました様にパラディンとバンディットが敵陣側より現われ、壁を背にしながらの戦闘と成った。
エイナはプレイヤーキルで得たレベルアップのアドバンテージも有り、多少の抵抗はしたものの流石に二対一では分が悪い。
勝ち目が無いと悟りアイテム『エルメスシューズ』を使用した為、今は一時的に敵との間に距離が出来ている。しかしそれでも自陣へ戻るには至らず、今もこうして光壁と敵陣に挟まれたままだ。
恐らくもう直敵が追い付いてきて、自分はキルされるであろう。
ガサガサッ
言っている傍から、藪が踏み分けられる音が聞こえてきた。
(チッ、自分勝手にやった行動が裏目に出ちまった。このままじゃ恥ずかしくて帰れねえ、せめて最後ぐらいチームの為みっともなく足掻くとするか…)
その気配の接近に、エイナは一秒でも足掻いて敵の時間を消費し味方にレベリングの時間を齎そうと背から矢を取り出す。
そしてハンターセンスでぼんやりと見えるその人影が姿を現した瞬間、先制攻撃を仕掛けようと弓弦を引き絞った。
「…………………………………………………はッ?」
しかし、実際その人影が飛び出して来た時、エイナが放ったのは矢では無く全くもって想定外の物を見た驚愕の音だったのである。
「あ、いた。おーい助けに来てやったぞ~ッ!!」
現われたのは敵よりもよっぽど心臓に悪い驚きを与えてくる存在。
何故か、今はまだ自陣中盤でレベリングを行なっている筈の我らが新エース、群雲疾風元いプレイヤーネーム『コード・ジーク』が藪を掻き分け姿を現したのである。
そしてエイナは数秒ポカンとそのニコニコしながら手を振っている男を眺めた後、声帯が許す限りの大声で叫んだ。
「なッ……何”で”お”前”が”此”処”に”居”る”ん”だ”よ”ッ!! ジークてめえッ、未だレベリング中の筈だろうが!!」
「えぇ、なんでそんな怒ってんのッ? 態々レベリング中断してまで助けにきてやったに決まってんだろうが」
「馬鹿かッ!! さっき海斗に教わったばかりだろ、命を大切にしろって言われたのもう忘れたのか鳥頭ッ!!」
「とッ、鳥頭!? オレは3つ歩いてもちゃんと物を覚えてるよッ。寧ろ覚えてたから助けに来てやったんだろうが!」
「大切にすんのは手前の命だけで良いんだよ! お前自分の立場分かってんのかッ、ウォーリアクラスのプレイヤーが落とされたら詰みなんだぞ。それがこんな危ねえ場所に態々突っ込んでくる馬鹿があるか、今すぐ引きかッ………」
ガシャッ、ガシャッ、ガシャッ ガシャンッ
突然姿を現したジークにエイナは何故こんな場所に居るのかと怒鳴り声を上げるが、彼自身は何を怒られているのか理解していない様子。
そんなエースを彼女は今すぐ自陣へ引き帰させようとするが、既に事態は取り返しの付かない所まで進んでしまっていた。
今度は勘違いではない。歩みと共に甲冑の擦れ合う音を響かせながら、敵のパラディンとバンディットが等々追い付いてきたのである。
「クソッ、もう手遅れか。精々敵の足引っ張って死ぬつもりだったのに、何でこんな所で最終決戦しなきゃならねえんだよ!!」
奇妙な事に今この瞬間、まだ試合も序盤という所で両陣営のエースが揃い2対2の決戦が行われようとしていた。
この戦いで敗れた側は、ウォーリアジョブのプレイヤーと頭数の半分を失う事に成る。つまりこの一戦で殆ど勝敗が決すると言っても過言ではない。
「なんだ、良かったじゃねえか。残った敵はウィザード除けばあの二人だけなんだろ? 此処で二人共倒せばこっちの勝ち、探す手間が省けて良かった」
「それはアタシらも同じだろうがッ!! けどもう仕方ねえ……やってやるよ」
「良いね、そう来ねえと。オレもちょっと楽しく成って来たッ」
敵を目前に捉え、エイナはもう此処からジークを逃すのは不可能であると悟らずにはいられなかった。そして仕方なくこの予期せぬ決戦に挑む覚悟を決める。
しかし一方のジークは此処まで来ても全く状況の深刻さを理解していない。ニヤニヤしながらその現われた二つの敵影を眺める。
そして軽い足取りで平然と突進し、開戦の火蓋を切った。




