第八話 愛の力⑦
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「実は、前からオレ達は別々に生活した方が良いんじゃ無いかって考えててさ。それで実は今日出会った此処に住んでる奴等がeスポーツチームを組んでて、オレの才能を見込んで一緒に住み込みで練習しないかって誘ってくれたんだ。だから、良い機会だと思ったんだよ。これからは互いの人生に少し距離を置いてさ、自分が幸せに成れる様にッ……」
「嫌だ」
まるで既に決まった事であるかの様に引っ越しの話をする疾風を、それまで黙っていた凪咲が突然遮った。
その18年の付き合いでも初めて聞いた妹の冷たい声に、兄は一瞬自分の耳を疑う。
「いッ、嫌だって……確かに最初は寂しいかも知れないけどお前の為にもッ」
「嫌、絶対に嫌ッ″!! 何で私が疾風と離れなきゃいけないの? 訳分かんないッ、eスポーツだか何だか知らないけど急に変な事言わないでよ!!」
「別に変な事じゃ無いだろ? 大人に成った兄妹が別々の場所で生活する、どこの家でも当たり前の普通の話だって」
「普通なんて知らないもん!! 私は疾風と一緒の所に住みたい、それ以外考えらんないッ!」
「今はそう思ってるかも知んないけど、こんな生活何年も続けてたら後々に成って絶対後悔する。オレの世話なんかしてちゃお前の人生が勿体ないぜ?」
「勿体なく何かない、私は疾風のお世話がやりたい事だもん!」
「オレのお世話がやりたい事って……もっと他に有るだろ? 仕事で態々日帰りする必要も無くなるし。友達と遊んだりとか恋人を作ったりとかさ、そういうのオレが家に居たらやり辛いだろ?」
その兄の言葉を聞いた凪咲は、一瞬凍り付いたかの如く動きが固まる。
そして疾風は、妹が顔を埋めている胸の辺りがジットリ生暖かく湿ってくるのを、更に彼女が背中にぐるりと回した腕の締め付けが強くなるのを感じた。
「他にやりたい事なんて無い。友達も恋人も要らない、疾風が居るから要らないもん。お仕事だってッ疾風がお帰りって言ってくれるから頑張れるの……其れなのにッ、其れなのに疾風と離れたら私何の為に生きてるのか分かんなく成っちゃうよ!!」
「いッ、痛いって凪咲ッ。ちょっと抱き付く力が……」
「絶対離れないからね、私を捨てたら絶対に許さないからッ!! 私、しッ死ぬからね!!」
「捨てるって…別に会えなくなる訳じゃないんだぜ? 週に何回でも会えば良いだろ?」
「うるさいッ!! もうこれ以上喋んないでよッ、私は今より一秒だって一緒に居られる時間を短くする気はないの!!」
「なあ凪咲、分かってくれ。兄ちゃんはもう此処に引っ越すって決めたんだよ。これがお前にとって一番ッ……」
「嫌ッ嫌ッ嫌ッ!! 絶対に嫌だッ!!!!」
凪咲は余程疾風からの提案が気に食わなかったのか、話をする事さえ拒否して塞ぎ込んでしまった。
こんな妹の姿を見たのは何年ぶりであろうか。一度こうなると耳を塞いで何も聞いてくれなく成るのでやりようが無い。
まさかこれ程の拒否反応を見せられるとは思っていなかった疾風は、如何したら良いのか分からず途方に暮れてしまう。
凪咲は兄を放さぬよう力の限りに抱き付き、胸に顔を埋め泣き続ける。疾風は妹を泣かせてしまった罪悪感を顔に浮かべながらその背を摩り、しかし彼女の人生の為絶対に曲げる訳にはいかない。
互いに互いが折れるのを無言で待つ、そんな時間が数秒流れた。
「ちょっと良いかな?」
しかしそんな停滞した空間を、少し離れた位置から二人を見ていた海斗が、明らかに空気の読めない声色で破った。
「何ですか″ッ、部外者が口挟まないで下さい。……そもそも、貴方達が変な事吹き込んだから疾風がこんな事言い出したんですよね? 覚えてて下さいねッ絶対許しませんから」
その空気が読めない部外者の声に凪咲は兄の胸から片目だけを出し、隠す気もない殺意を視線に乗せて送った。
それは直接向けられている訳ではない疾風ですら背筋が冷たく成る鬼の形相。
しかし、海斗は余程肝が据わっているのか、若しくは余程女に睨まれ慣れているのか、飄々とした態度を崩さずに言葉を続ける。
「アハハハッ早速嫌われちゃったかな? じゃあ部外者らしく空気の読めない事言わせて貰うんだけど……妹さんも此処に住めば良いんじゃないかな??」
「・・・・は?」
「・・・・え?」
その海斗が発した想像の斜め上を行く提案に、疾風と凪咲は一気に詰めていた気が抜けた様な声を漏らした。




