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第八話 愛の力③

毎日確定1話更新ッ!!

『ブックマーク』『評価』『感想』等々頂けた日は一日2話更新”ッ!!

「ほら疾風、今日の君は主役なんだからドンドン食べていってよ!! 僕の炭火焼きビーフを一切れあげよう!」


「いや悪いって! オレ自分の分有るし、そもそもそんな沢山食べれないし」


「食えないなら、アタシが貰って良いか?」


「……どッ、どうぞ」



「そんな遠慮なんてしなくて良いんだから。若い内は食えるだけ食っとかないと、年取ったら胃が小さくなって脂っこいの食べれなく成るんだよ? ほら俺のポップコーンシュリンプも幾つか分けてあげるよッ」


「あ、ありがとう聡太。でもオレそんな本当元々そんなに食べる方でもないからッ」


「食えないなら、アタシが貰って良いか?」


「……どッ、どうぞ」



「おい疾風、お前遠慮ばっかしてたら上手いもんも不味くなるぞ。仕方ねえアタシが……」


「い、いや本当にそんな気を遣わないでいいッ」


「お前の北海道三種チーズ食って良いか?」


「……………………どッ、どうぞ」

(何の仕方ねえだよ!? てかメチャクチャ食うなこの人ッ!!)



 ピザが届き歓迎会がスタート。

 当然場の中心は本日の主役である疾風であり、海斗と聡太は気を遣って自分が注文した料理を彼へと渡してくれる。そしてそれを本当に胃が小さいのと社交辞令とで疾風が謝辞し、何故か優奈の口の中へとベルトコンベアー式に吸い込まれていった。


 疾風は自己認識として自分は他人と食の席を共にするのが苦手だと思っていた。

 だが今座って居るこの場の居心地は、案外悪くは無かった。


 それは恐らく食卓を共にしている彼ら三人のコミュニケーション能力の高さ故であろう。三人とも新参の疾風へと厭らしくないない程度に気を遣ってくれ、しかしにも関わらずこの短時間でメチャクチャ自然に距離を詰めてきたのだ。

 優奈などもう一切の躊躇すら無く、疾風の皿に置かれた料理を自分の口へと放り込んでいる。


 きっと真のコミュ強とは彼らの様な人間の事を言うのであろう。疾風は今まで自分が持っていた陽キャに対する苦手意識が、唯自分のコミュニケーション料力に自信が無い陰キャの妬みに過ぎなかったのだと悟った。


 見知らぬ場所で見知らぬ人々と食事を取る緊張が疾風の中で少しずつ解けてゆく。

 しかしその緊張が、突如海斗の発した唯一言で限界まで張り詰め彼の顔を緊迫が塗りつぶされたのである。



「よし。じゃあ場も良い感じに暖まってきたし、此処いらで改めて自己紹介をしておこうか!! はいじゃあ先ず疾風からッ」


「えッ………………じ、自己紹介?」


 自己紹介、その響き一つで疾風はまるでアレルギーでも発症したかの如く全身を硬直させた。

 久しく忘れていたその言葉。彼の脳内に未だ真っ当なレールの上を走っていた時代の苦い記憶が一気に蘇ってきた。


「自己紹介って、一体何を言えば良いんだ? ……ちょ、ちょっとッ考えるから一番最後に回して欲しいんだけど」


「ハハハッ、そんな難しい事考えなくて良いよ。じゃあ僕が質問するから疾風は其れに対して返すって形でいこうか」


「いやでも、オレ胸張って言える様な事なんて何も無いんだよ。絶対詰まんないぞ?」


「大丈夫。詰まらないか詰まらなくないかは自己紹介の内容で決まるんじゃない、その人に興味が有るか如何かだ。そして幸い僕達は君にとっても興味がある。…じゃあ最初は名前を名乗って、疾風の趣味と特技を教えてくれるかな?」


 海斗のその返しに対し、疾風は反論の言葉を返す事が出来なかった。少なくとも言葉でこの男に勝てる気は全くしない。

 仕方なく疾風は顔を下へ俯けたまま、その海斗の質問に対する正直な自分の回答を返した。


「オレの名前は、群雲疾風です。趣味は…………ゲームでッ特技も…ゲームです。……………………アハハッ、やっぱりパッとしねえな」


 疾風はそう嘘偽りない自分の趣味と特技を語る。そしてその後のほんの一瞬の沈黙が我慢出来ず、無理に笑ってそう自分を卑下した。


 社会経験が常人の半分もない疾風でも知っている。

 自己紹介で趣味と特技にゲームを上げる人間は無条件でコミュニティーカーストの一番下へ置かれるのだ。やはり嘘を付いてでもスノーボードとかナイトプールとかそんなキラキラした事を言うべきだっただろうか。


「確かに……世間一般的に見れば詰まらない自己紹介だね」


 疾風が恐れていた全くその通りの反応を、海斗が返す。

 そして余りの恥ずかしさに顔を俯けた疾風へと、ラージボルテックスのリーダーは言葉を続ける。


「恐らく普通のコミュニティーで趣味はゲームで特技もゲームなんて言ったら、何だこの魅力の欠片もないクソ地味陰キャは面白くねえな、と思われるだろう。普通の場所だったら、自己紹介で趣味と特技に同じ事を言うなんてもっての外だ。例え嘘であってもビリヤードとかインドアクライミングとかそんな特徴に成る事を言うべきだったね」


「…………………………」


「でも生憎ッ此処は普通の場所じゃないんだ」


「……ッ?」


 疾風は、下げていた顔を僅かに上げた。


「此処は世間一般から漏れた病的なまでのゲーマーが集まっているコミュニティー。社会の常識なんてこの家じゃ通用しない。そしてその異常なコミュニティーの中で、疾風君の自己紹介は百点満点だ。趣味がゲーム、特技がゲーム、良いじゃないか最高だよ! これ以上無い程この場に求められている君の個性だッ」


「……本当、か?」


「ああ。君のような人間をこのチームに迎えられて、僕達はとっても頼もしく感じているよ。なあッ、そうだろ皆!!」


 その海斗の質問に、聡太と優奈が当然の如く首を縦に振る。

 それが疾風にとっては天地が引っ繰りかえる程の衝撃であった。ゲームしかない自分を肯定してくれるなど、自分の呪われた個性を肯定して貰えるなど、現実世界では始めての経験であったから。



「じゃあ他は~、好きな食べ物と嫌いな食べ物は?」


「好きな食べ物は…妹の作ってくれた料理なら何でもかな。嫌いな食べ物はキノコ」


「あ、妹さんが居るんだね。じゃあ生まれ変わりたい生き物は?」


「う、生まれ変わりたい生き物!? ……クラゲ」


「なる程。じゃあ最後に、お風呂で一番最初に洗う部位はッ!」


「………ヘソ?」


「コングラッジュレーションッ、ミッションコンプリ-トゥ!! 皆拍手ッ!!」



パチパチパチパチパチパチパチッ!!!!



 唯自己紹介をしただけにも関わらず、まるで大仕事を終えたかの如く賞賛されて疾風は照れる様な恥ずかしい様な感慨に成る。

 海斗と聡太だけでなく、クールなイメージの優奈までもが拍手してくれたのが少し意外だった。


 そして今度は他のメンバーの番である。



「じゃあ次はこっちの番だね。僕の名前は相模海斗、趣味はゲームで特技もゲーム! 好きな食べ物はピザで嫌いな食べ物は冷や奴。生まれ変わりたい生き物は鷹。お風呂で一番最初に洗う部位は首。宜しく!!」


「次は俺か。俺の名前は水瀬聡太、趣味はゲームで特技もゲーム。好きな食べ物は鶏胸肉で嫌いな食べ物はバター風マーガリン! 生まれ変わりたい生き物はタコ。お風呂で一番最初に洗う部位は胸。宜しく!!」


「アタシの名前は凛堂優奈、趣味はゲームで特技もゲーム。好きな食べ物は焼き鳥、嫌いな食べ物はアボカド。生まれ変わりたい生き物は猫。風呂で一番最初に洗う部位は、セクハラなので答えません。宜しくッ」


 疾風が行った自己紹介に習い、チームの全員がノーストップで自己紹介をしてゆく。

 海斗は嫌いな物で冷や奴を上げる奴は珍しいなと思った。聡太の自己紹介に関しては好きな食べ物だけ言う前から分かっていた。優奈はセクハラだから身体を最初に洗う部位は言いたくないらしい。


 そして、その優奈の点が引っ掛かったのは疾風以外も同じであった様だ。



「HEYトニー教えてくれよ~、如何やったらウルトラチーズピザとポテトフライとポップコーンシュリンプとシェイクを一人で平らげるガールの身体を洗う部位で興奮出来るんだい?」


「全くだぜジョ~ジ! オレぁまだバービー人形の3サイズの方が興味有るぜッ。せめてサラダを頼む位の慎ましさをッ……ブッフェッ”!!」


「とッ、トニィーーッ!? ゴッフェッ”!!」


 アメリカンなノリで優奈の発言を透かさず弄りにいった海斗と聡太の顔面に、拳が飛んだ。


「……チッ、馬鹿男共が。おい疾風、お前は此奴らみたいなデリカシー無しに成るんじゃねえぞ」


「うん、分かった。で身体はどの部位なから洗うんだ? 尻? …ビュッフェ””!!!!」


 デリカシー云々所の話では無い質問をした疾風の顔面に、優奈の拳が突き刺さった。


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