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第七話 ラージボルテックス③【修正版】

「こいッ、こっちだ!! 早く来い!!」


「ちょッ、ちょっと待って下さい!! えっと、凛堂さんッこれ一体何が起ってッ」


「あ”? お前自分が今どんだけヤバい状況に居るのか分かってねえのかよッ!? とにかく今は後回しだ。お前もアイツらに捕まりたくはねえだろ!」


「は、はいッ!!」  


 疾風は何も理解出来ないまま、しかし自分をあの人壁の中から救い出してくれた優奈の背を信じて追った。

 すると進行方向の先に、黒く巨大な車が見えてくる。そしてその中から大きな体格の男が扉を開けて姿を現し、二人へ向け手招きしながら叫んだ。


「二人共こっち!! 後ろから追ってきてるよ、急いで!!」


 その言葉を聞いて、疾風は後ろを振り返った。

 すると大男の言葉通り、先ほど自分を囲み四方八方から言葉を浴びせ掛けてきた者達が追って来ているのが見える。


「ひいッ!」


「振り返ってんじゃねえ!! 前だけ見て走れッ!!」


 その背後に広がるさながらゾンビ映画が如き光景に、疾風は短い悲鳴を漏らす。しかしそれを聞いた優奈の怒鳴り声に引っ張られ、彼は更に足の回転を加速させる。


 そして何とか、背後の者達に追い付かれる前にその黒い車へと辿り着く事が出来た。

 大男が引っ張り上げてくれて、疾風は車内へと飛び込む。


 しかし、優奈の顔には未だ安堵の表情が浮ばない。


「クソッ、もうかなり近くまで来てやがる。周り囲まれたら車出せねえぞ」


「ど、如何するのッ!? 中で籠城する?」


「決まってんだろ、聡太お前外に出てアイツらの足止めしてこい。前に立ち塞がって体当たりしろ!!」


「はあッ!? んな無茶な」


「つべこべ言わず行けッ!! てめえのそれは何の為の筋肉だッ!!」


ダン”ッ!!


「うわああああああああッ!!」


 追っ手が近くまで来過ぎていて車を発車させる前に囲まれてしまう。そう察した優奈が、躊躇無く大男を車の外へと蹴り出した。

 そして車から強引に降りさせられた大男は、仕方なく迫り来る群衆へ向け一人突進してゆく。


「疾風は乗ったッ?」


 そんな大男の勇姿を見て更にパニックが加速する疾風の鼓膜こまくを、運転席に座るもう一人の男の声が揺らす。


「ああ乗った、問題ねえ。急いで車出してくれッ」


「いや、あのおっきい人は如何するんですかッ!? まさか置いていくなんて」


「追ってきてる連中の狙いはお前だけだ、別に置いてった所で殺されやしねえよ。良いから口閉じてろ出発すんぞッ」


 そう言って優奈は迷い無く車のスライドドアを閉める。そしてそれと殆ど同時にタイヤが悲鳴の様な音を上げ、アスファルトを斬り裂くようにしながら急発進。

 疾風を追ってきた者達と大男の姿が、みるみる小さく遠退いていったのであった。




「いや~危なかったねぇ。正しく危機一髪って感じだ」


「あたしの行動がちょっとでも遅れてたら、疾風おまえ今頃手足引っ張られて八つ裂きにされてたぞ。感謝しろよな?」


 何とか追っ手を巻き発進した車の中で、運転席の男と優奈がようやく緊迫きんぱく剥がれた声を漏らす。

 しかし疾風は依然いぜん混乱の只中で、吐き気も治らない。


「あ、ありがとう…ございます………済みません、袋持ってないですか?」


「袋? 何だお前吐きそうなのかよ。海斗、なんかゲロ袋に使えるやつ有るか?」


「レジ袋は買わない主義なんだよ。仕方ない、緊急事態だ。助手席に聡太のリュックが有るからその中にしよう」


 運転席に座る男がそう言うと、優奈は助手席に置かれている先ほど一人で大群衆に突っ込んで行った大男の物と思しきリュックを掴む。

 そしてそれを渡された疾風は一瞬躊躇したが、問答無用で込み上げてきた吐き気に仕方なくその中へ嘔吐した。


 そして腹の中に入れていた物と一緒に緊張と恐怖も僅かに抜けた疾風は、何よりも先ず第一に聞かねば成らない事を尋ねる。


「あの……さっきの人達なんでオレを追い掛けて来たんですか? しかもッ、あんな必死に…ウエェッ」


 数秒前の光景を思い出した疾風は吐き気がぶり返してきて、再び嘔吐した。

 そしてそんな疾風の背を優奈がさすり、運転席に座った男がその質問に対する端的な回答を寄こしてくれる。


「君が、レッドバロンと戦える男だったからさ」


「オレが……レッドバロンと? それがッ何で」


「その重大さが分からないって事は、どうやら君はこの界隈に入ってきて日が浅いみたいだね。…君を追ってきたあの者達の目的は、自分達のeスポーツチームに優れた才能を持つエースを加入させる事。ウォーリアジョブは才能が九割と言われていてね、努力だけじゃどうにも成らない。しかも試合はエースの優劣で殆ど決まると来ている」


「だからプロ入りを目指すなら、先ず何処も強いエースの獲得を第一に考えるんだよ。そりゃあ最強無敗のレッドバロンに危うく勝ちかけた奴とか、喉から手が出る程欲しいわなッ」


「ああ、欲しいね。とっても」


 優奈と運転席の男はそう含みの有る言葉を言って頷いた。

 そして胃の中に有る全てを出し切り口元をティッシュで拭い、そして何となくリュックのチャックを絞めた疾風を、優奈が首に手を回して自分の方へと引き寄せた。


「全くッお前も教えてくれれば良いのによ、レッドバロンと良い勝負したコード・ジークだってさ」


「えぇ…一応言いましたよね。信じて貰えなかったけど」


「ハハッ、まあ冗談だと思うほどお前のやった事は凄いって事だよ。けどもう文句はねえ」


「…………………はい?」


 その自分の首をガッシリと掴んで乾いた笑いを上げる優奈に、疾風は再び微かな違和感を覚えた。そして彼女から離れようとするが、まるで胸に溺れているかの如く、優奈に頭を抱き抱えられて逃げられない。

 柔らかで官能的な感触に疾風は頭がぼうっとするが、それでも危機感に突き動かされた彼は胸に埋められながらも口を開く。


「あの、もう此処まで来たら充分です。お礼は又後日って事で…降ろして貰って良いですか?」


「いや、それはいけない」


 しかしその疾風の懇願こんがんに、運転席の男は即座にNOを返す。


「今回のイベントで君の顔は全世界に知られてしまった。今間違い無く日本中の人間が個人組織問わず君を狙っている筈。危険なのは幕張近辺だけじゃない。疾風君、今君はこの国の何処に居てもトラブルに巻き込まれるリスクがある。一人に成るのは得策じゃないよ」


「じゃ、じゃあ如何しろと?」


 疾風は何となく自分のその質問に相手が返してくる言葉を察し、ヘッドロックから逃れようと全身に力を入れる。

 しかし、引き籠もり歴三年を超す疾風の力は貧相にも程があった。優奈に更に強く抱き寄せられ、顔全体が彼女の柔らかな感触に覆われる。


「ほとぼりが冷めるまで安全な場所に避難していよう。幸い、とっておきの場所を知っているんだ」


 その言葉を疾風は胸に溺れながら聞き、疑念はかなり確信に近付いた。


(あれ……オレこれ、メチャクチャてい良く拉致されてない?)


 そう声に成らぬ声で呟くも抵抗出来ず、彼は成されるがまま車に揺られ、運ばれていったのであった。

 彼らのアジト、eスポーツチーム『ラージボルテックス』のアジトへと。


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