第六話 イベント⑤
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『ゲームセェェットッ!! 片時も戦いのペース譲らぬ圧巻の試合運びでミミック選手が驚異の36連勝!! それによりこの勝ち残りタイマンバトル歴代最多連勝数に並びッ、記録更新の歴史的瞬間がもう残すところ一勝にまで迫って参りました!!』
実況が発した場の熱気を扇動する様な声を聞き流し、先程まで対戦していた相手が離席するのを横目に見ながら、その男は血走った目でゼリー飲料を喉へと流し込む。
プレイヤーネーム ミミック、本名『石渡雄馬』は自らの目的達成まであと一勝という所まで迫っていた。あと一勝で、全ての努力が報われる筈なのである。
石渡は言うまでも無くプロリーグ参戦を目指すガチ勢プレイヤーの1人。
数ヶ月前まで、アマチュア大会でそこそこの結果を残してきたチームのエースを務めていた男だ。
(ふんッ、白けた面しやがって。負けて涙一つ流せねえ野郎にこのオレが倒せる訳ねえだろうが。全く、目線の低い一般人はこれだから嫌なんだッ)
しかし彼は現在その組んでいたチームを解散させ、4人1組でプレイするゲームのプロをソロプレイヤーとして目指すという奇妙な状態と成っていた。
そしてその原因は、意識の低い連中に足を引っ張られるのに疲れた、というのが彼の言い分である。
石渡が所属していたチームは大会に参加すれば準優勝や三位、入賞などそこそこの結果を残す。だがしかし如何しても優勝が取れないチームであった。
それ故いまいちアピールが足りず、メンバーの全員がセミプロとして燻り続ける日々を送っていたのである。
その現状に危機感を覚えた石渡は、練習量の少なさと遠征などを行わずオンラインの大会のみに参加して場数を踏んでいない事が原因だと分析。
そしてある日、それらの不足を埋める為練習量と遠征回数をもっと増やすべきだとチームメンバーの前で提案したのであった。
しかし、仲間達から返ってきたのは、『そこまでマジに成り過ぎなくても良いんじゃ無い?』という余りに消極的な言葉だったのである。
メンバーは、奴等は今の中途半端な結果しか残せていない状況にあろう事か満足していたのである。
これまでもずっと、石渡は仲間と自分との間に目線の違いを感じていたのだ。
大会の決勝で惜敗し自分が涙に暮れている時、奴等は準優勝だって充分凄いじゃないかとヘラヘラ笑っていた。自主練の時間も、奴等は気分転換と称してあろう事か自分の担当クラスじゃないジョブを選択して遊んでいる。集合時間には何時も決まって一人は遅れてきた。更に信じられない事に、大会前日に呑み会へ行き二日酔い状態で現われる事もあったのだ。
何かがおかしい、そうずっと思っていた。
しかしそれでも皆本心ではプロへ行きたいと、その為なら如何なる努力も厭わないと思ってくれていると信じていたのだ。
だがこの一言で、その信頼は完全に崩壊した。
これにマジに成らないで、何に対してマジに成るというのか。大会で目立った成績を残しプロリーグへ行く、それがこのチームを作った時皆で決めた目標だったじゃないか。その目標の為全てを捧げる事に、一体何の躊躇が必要だと言うのだ。
現に自分はこのチームを勝たせる為に全てを捧げてやって来た。
他の仲間が寝ている時間も、休日に指定した日も、大会終わりで奴等が呑み会に行っている時もオレは練習を続けていた。
全てはエースとしてこのチームを勝たせる為にだ。
しかしそんなオレに、お前達が、マジに成り過ぎるなと良く言えた物だな。
お前達の実力が足りない分を何時も俺の努力がカバーしていたんだ。お前達が前線を維持出来ないから何時もレベルは相手のエースより低かった、だが其れでも俺は勝ってきた。このチームが大会で成績を残せたのは全て俺のお陰だ。
俺以外のメンバーなんて、唯お零れにありつき良い気持ちに成っていただけじゃないか。
もう無理だと思った。こんな目線の低い人間とはこれ以上関係を続けられない、自分のモチベーションまで落ちてしまう。
だから石渡はチームを解散させ、たった一人でプロ入りへの夢を目指す事に決めたのだ。
しかし、たった一人でプロ入りを目指すのはそう簡単な事ではない。実力を示そうにも殆どの大会はチーム単位でのエントリーとなっているからだ。
だがそれでも往生際悪く夢を諦めきれない男が目を付けたのが、此処だったのである。
このコーナー、勝ち残りタイマンバトルなら一人でもエントリーする事が出来た。そしてBFFではゲームの最新情報の発表も行われる為、ネットの生中継も含め多くの注目がこの場に集まっている。
それ故そんな中歴代最多の連勝回数を叩き出す事が出来れば、確実に関係者の目に留まる筈だと考えたのだ。
連勝回数更新で注目を集め、チーム側からのスカウトを誘い込み、堂々プロデビューを果たす。それが彼の思い描いた夢が実現するまでの道筋であった。
(その為にも、次の一戦は絶対に負けられない。何としてでも記録を更新して俺の名を全世界へ轟かせてやるッ!! そしてプロに成るんだ…ッ)
そう頭の中で叫びながら、石渡はとても食事中の表情とは思えぬ血走った目でカロリーメイトに喰らい付く。
そして味など如何でも良いかの如く、ペットボトルの水で流し込んだ。
するとそんな彼の隣に、次なる対戦相手がスタッフに誘導されやってきたのである。
「此方の椅子に座って、ヘッドセットを予め付けた状態でお待ちください」
「オレは何かやる事あるんですか?」
「機器の操作は全て此方から行いますので、任せて頂ければ」
「分かりました。何かッ、緊張してきたな………」
隣にやってきた奴の様子を見て、石渡は自分の記録更新を確信する。
その言動から察するに、恐らくあの男はこのコーナーに参加するのが始めてなのだろう。そして更に忙しなくキョロキョロと辺りを見回す様子から、恐らく大規模なオフラインイベントも始めてなのだろうと推測できる。
自分に負ける要素が無い、そう彼は強く胸の中で呟いた。
あんな目の下に隈すら無い奴に、白目が血走っていない奴に、戦い前に武者震いで手がブルブルと震えない軽い気持ちでこの場に居る人間に、自分が負けて良い訳が無いのだ。
俺が一体何時間寿命を捧げ、どれだけの物を失って今此処に居ると思っている。
そう自分がこの戦いに勝利しオファーを掴む理由を挙げ精神に安定を取り戻した石渡は、ヘッドセットを被る。
37勝目を、プロリーグへの切符を取りに行こう。
『それではコレよりッ、BFF勝ち残りタイマンバトル第37試合目を開始します!! 挑戦者はコード・ジーク選手、迎え撃つは現在破竹の36連勝中ミミック選手! 其れではァ、ゲ~ムッスターート!!!!』




