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第五話 最強の敵⑦

今日も『ブックマーク』『評価』『感想』を多数頂けましたので一日2話更新です。

反応を下さった皆様、有難う御座いました。

 腹に受けた蹴りの衝撃に吹き飛ばされながら、ジークは漠然ばくぜんとした事実に襲われていた。


 正面からでは崩すどころか前に出る事さえ出来なかった。初手の不意を突き懐に飛び込んでも刃を掠らせる事すら出来ず弾き出された。流し受けで体重の乗った斬撃を流しても容易く対処されてしまった。


ドサッ………


 それら一つ一つが何の差により生み出されているのかは、まだ経験の浅いジークには分からない。どの程度の差が有るのかも今の彼には推し量れない。


 ただ一つだけ確かなのは、今のジークよりもレッドバロンの方が強いという事だ。


「………………チッ、嘗めやがって」


 100%攻めへと意識を向けていた状態で不意の衝撃を腹に受けたジークは、これ以上ない程派手に体勢を崩しながら吹き飛ばされた。

 そして否定のしようもない程理解させられた力の差に放心状態と成り、数秒蹲ったまま動けなく成ってしまったのである。


 だが、そんな所へ突如背に白刃を押し付けられたかの如き悪寒を覚る。

 ジークは慌てて跳ね起き武器を構え直した、がしかし実際顔を上げ瞳に飛び込んできた視界は変化無し。レッドバロンはつい数秒前彼を蹴り飛ばしたそのままの立ち位置から唯此方を伺っているのみであった。


 恐らくあの距離からレッドバロンは殺気を飛ばしてきたのだろう。今自分はお前を容易く殺す事が出来たぞという挑発代わりに。

 その事実が、先ほど受けた蹴り以上に深くジークの腹へと沈み込んできた。そして沸々と悔しさを湧き上がらせたのである。


「良いぜ、今殺さなかった事を後悔させてやるッ」


 だが同時に、まだ悔しいという感情を味わわせてくれる存在がこの世に居たのだと嬉しくもあったのだ。悔しさや怒りはまさしく自分がこの世界に没入しているからこその賜物である。


ダァンッ”!!


 そしてその己が力を一切余す事無くぶつける事を許された強者へと、ジークは挑戦者らしい無鉄砲な突進にて挑みかかった。



(無計画な特攻か、若しくは何かを隠すカモフラージュか。どちらにしろッ嫌いじゃないよ!)


……ガギィンッ!!


 直線軌道を描き突っ込んできたジークが振り下ろした短刀を、レッドバロンは剣の柄上直ぐの部分で受け止めた。鋭く打ち合わされたエネルギーが互いの間で火花散らす。

 そして一瞬その状態での鍔迫り合いとなるが、其処からレッドバロンは更なる実力差を示す様にあの技術で膠着を破ったのである。


ッキィィン”!!   


 ジークの短刀に込めていたエネルギーが予期せず左下へと流れた。使われるのは初めてだが直ぐに分かる、レッドバロンが流し受けを使ったのだ。

 そして彼は刃を押し流し自分とアサシンの間に生まれた空白に身体を入れ、再びタックルにてジークを弾き飛ばしたのである。


ドォンッ!!!!


(……クソッ、まただ!! なんであの距離でこんな馬鹿みたいな力が出せる!?)


 このナイトに現在ジークが苦戦を強いられている最大の理由。それは接近戦で自らが優勢を取れていない所にあった。

 スピードと取り回しに優れる武器を持つ彼が間違いなく有利な筈なのに、何故か懐へ飛び込んでも良い様にやられ間合いの外へと弾き出されてしまう。


 そしてその諸悪の根源は奴が使ってくる、合気道が柔術かは判然としないがとにかくゼロレンジで絶大な力を発する格闘術。

 ジークは敵の長剣の有利を消滅させられる至近距離で戦いたい。しかし彼が得意とする殴りや蹴り等々の打撃攻撃は十分な威力を乗せる為にそれでも僅かな距離が必要なのだ。

 にも拘らずその距離へ入れば何時の間にか絶妙な体捌きで距離をゼロへと変えられ、謎のとんでも威力の体当たりによって弾き出されてしまう。


 あそこまで詰められれば打撃には充分な威力が乗らずスピードも生かし辛い。

 初めて遭遇する自分よりも接近戦が上手い相手に、ジークは苦戦を強いられていた。


(確かに君は強い、でも対人戦の経験値が余りにも足りていないみたいだね。それじゃオレに攻撃を当てる事は出来ないよ)


 レッドバロンはこの長くはない立ち合いの中で、ジークが対人戦がメインではないゲームから来ている事すらも見抜いていた。


ズゥオンッ! ッキィィン!! ズゥンッ、ズォオッ!!    ドゥン”ッ!! 


 ジークはこれまで自分より桁違いに巨大なモンスターを相手にしか戦ってこなかった為、対人戦における間合い管理とフェイントの重要性を理解していなかった。


 今も優れた反射神経で攻撃を躱し、流し受けで凌ぎチャンスをうかがっている。

 しかしその動きは明らかに無駄が多く、必要以上に前後左右へ動き過ぎている様に見えた。人間同士の戦闘では数センチ数ミリ単位の微調整が生死に直結するというのに。


 更にフェイントに対する耐性も低い。反射神経の良さも相まってか、チャンスが目に見えれば考える間もなく飛び付いてしまっている。

 そしてその結果今、体重の乗った斬撃を放つフリというフェイントにまんまと掛かり、流し受けの構えを取っていた所へ蹴りを叩き込まれてしまった。



 対人戦のミソとも呼べる駆け引きのステータスが余りに足りていない。

 100を出し続けるだけでは駄目なのだ。90や80,30や20を挟むからこそ、此処ぞという所で叩き込む100が活きるのである。



(その事を、この敗北から君には学び取って欲しいな……)


 胸の中でそう呟き、レッドバロンは蹴りを受けてから心が折れてしまったかの如く足を止めたアサシンへと剣を振りかぶった。


 才能は間違いなく自分と同等の物を持っている、今回の敗北は単に経験値が不足していたが故だ。

 だからこそこの敗北から多くを学び取り、沢山の経験をして、才能の上へプラスアルファを積み重ねていって欲しい。そして何時かこのゲームの頂点で相まみえられる事を心から望んでいた。


ズバアァァン”ッ!!!!


 最上段よりレッドバロンの長剣が振り下ろされ、流し受けにより軌道が曲がる事もなくアサシンの身体へと吸い寄せられていく。

 そして、狂いなく確かにジークの肩から心臓を通り脇下へと出る直線を、剣は斬り裂いた。アサシンの体力で耐えられる訳もない致命傷である。


 レッドバロンの数百数千数万のつわもの達と戦って来た経験が告げた、戦いに勝利したと。









ズオォ”ッ!!


 敵が知らない事を知っていた、それがレッドバロンをこの戦いの中において有利にさせた事は間違いない。

 だがであれば同時に、ジークのみが知っていた事がこの戦いの中において彼を有利にさせるのも、また当然の道理であったという訳だ。


 彼は90も80も30も20も知らない、だが100と0だけは知っていたのである。細かい事を一々考えるのは苦手だが、誰も持ちえない発想をゼロより生み出す才能にもこの男は恵まれていたのだ。



 身を真っ二つに両断された筈のコード・ジークが、まるで死者が蘇ったかの如く平然と動き、その突き出した凶刃がレッドバロンの首筋を斬り裂いたのである。




【後書きに書くネタ募集!!】


前々回の後書きでゲームに関する説明を終え、書く事が無くなりました。そこで読者の皆様にネタを提供して頂きたいです!


ゲームの仕様に関する質問、キャラに対する質問、小説に関する質問、作者に関する質問(多分、きっと需要有るよなッ!)には此処で応えさせて頂きます。質問は感想に書き込んで頂けると嬉しいです。


また質問以外でも、今後予定している『ゲームのアップデート』に関する提案や『こんな魔法があったら面白い!』という提案があれば小説内に採用させて頂くかも知れません。大喜利のお題が届いても、作者が泣きながら回答します。


皆様からの投稿、心からお待ちしております。

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