〜ユウドウエンボクの奇跡〜③
本来ならば遊動円木は漕ぐ人以外は座って乗る乗り物で、立って乗る乗り物ではない。理由は、とても危険だからだ。
例えば、掴まる鎖がないブランコで立ち乗りをしたらどうだろうか。いくらバランス感覚に優れている人でも落下するのは目に見えているし、もしかしたら大けがをするかもしれない。
ブランコを縦に長くしたような遊動円木で立ち乗りをするというのはそういう危険を伴うということだった。
ただ僕たちは、安全な座り乗りでは刺激が少なすぎて満足に遊べなかった。
あえて立ち乗りをして遊ぶ小学校三年の僕たちは、自分たちの限界に果敢に挑戦するお年頃だった。
「じゃあいくで。コウキ反対側乗って」ツカサはそう言うと僕とダイ君を背にして鉄の棒の端に立ち、鎖を持って漕ぎ出した。コウキも反対側の端に立ってツカサと息をあわせて漕ぎ出した。
遊動円木が前後に揺れだし、僕とダイ君が中腰になって綱渡りをしているかのような足さばきで膝に手を置き、バランスをとった。
最初は地面すれすれだった遊動円木は、前後の揺れが増すにつれてどんどん地面から離れていった。
「おい、ツカサ。なんか今日ペース早いで。もっとゆっくり漕いでや」と言った僕から見えるツカサは、両手で持った鎖を揺れにあわせて引くと同時にカラダを前に倒して必死に漕いでいた。その後ろ姿は頑として人の意見を受けつけない職人の雰囲気を醸し出していた。
遊動円木はどんどんスピードを増していった。
その時、ツカサがなにかをブツブツ唱え始めた。
「・・・ろ」
え、ツカサなんて言ってるん。ってかめっちゃ早い。
遊動円木はどんどん高さも増した。
「・・・ちろ」
あかん、早すぎる、高すぎる。危ない、落ち・・・
「落ちろー! ぎゃははは。お前ら落ちろ、落ちさらせー!」
く、狂っとる。ツカサは狂喜乱舞した。
「お、落ちるかあー」
ドスッ。
ダイ君はそう叫んで、落ちた。
「ダイ君、大丈夫か」僕は遊動円木から飛び降りて、横向きに倒れてクテッとなっているダイ君のそばに駆け寄った。
④に続く