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〜豚汁姫と半紙王子〜【下】

僕の頭の中で完全に、豚汁界のお姫さまとインプットされ、


昼休みに男女一緒にドッジボールをするときも、敵になった豚汁界のお姫さまには当たらんように投げたり、味方になってお姫さまが敵に当てられたら全力で当てたヤツに一番当たったらくやしい足を狙って仕返ししたりした。



僕の田舎には顔面セーフというルールがあったから、顔面に当たったらセーフ。やから足を狙った。





そして豚汁界のお姫さまと出会ってから二ヶ月後・・・・・・・・・事件勃発。



場所:学校の教室。



被害者:Ⅹ



加害者:学校一の悪者セイタ。



ヒーロー?:僕。




その時間はちょうど書道の時間だった。



「はい、みんな習字セットもってきた?わすれた子いてへん?わすれたら手あげなさいね。ここにあと3つあるから」と先生が言った。



こういう時必ず一人は手をあげる。みんな習字セットは置いていってるはずやのに。なんで家に持って帰るん?といつも思う。



先生は忘れてきた子に「今度はちゃんと持ってきいや」と、予備の習字セットを渡し、




「はい、これで全員持っとるね。習字の教科書の10ページ目開いて」




「教科書わすれてきた子はとなりの人に見せてもらいや」




ギギギーっと机を動かしてくっつける子が何人かいた。オレの横のツカサも「なぁ、見せてやー」と机を動かした一人。



僕は机の横に下げていた体育シューズが入ってる袋を反対側にまわし「いいでー」と机をくっつけた。




「じゃあ、今日はここに書いてある『平和』という字を書きます。書き順気をつけやー。跳ねるところはしっかり跳ねるんやで!せんせい回って行くからね。はい、みんな始めて」




先生の合図で、習字セットからスズリ、墨、下地、ブンチン、水が入ったプラスティックボトル、墨汁を取り出し、半紙をセットした。




「あー半紙もうないわ。一枚ちょうだい」とツカサ。




僕は「いいで」と言って半紙を何枚か渡し、スズリに水を入れた。




「どっちが早よ墨、擦れるか勝しよや!」とツカサが言ったから「おう!」と返事をして勝負開始。




アホやな。ツカサよ。オレは小学校入った時から習字、習ってんねんで。オレに勝負うったのがまちが・・・




「擦れた!」とツカサ。





うそやん!めっちゃ早い!そんなんありえへん!!




パッと横向いたら、ツカサが半紙に細い筆で『おれのかち』と書いてるとこ。




おまえ・・・その半紙あげたから、もうお前のもんやけど、もともとオレの半紙やぞ!無駄づかいするなや!!




と、思いつつもホンマに擦れてる。




「え?す、すごいや・・・」と言いかけたトコで墨汁が目に入った。






ふた開いとる。






こ、こいつ。自分から言ったくせに・・・





「反則やん!墨汁使っかとるやん!!」





ツカサは「え?使ったよ。でも水も入れてちゃんと擦ったで。使ったらあかんって言ってないやん」





アホか!そんなん通じるか!!




と、ワイワイしながら習字の時間は過ぎていった。




みんなが文字を書き終わり、机の上には『平和』の文字が並んでいる。先生が一通りチェックした後、




「はい、みんな良く書けてるよー!じゃあ後ろの人から書いた半紙を前の人にまわしてー」



みんなの半紙が積み重なっていって、先生のもとに全員分の半紙が集められた。




「じゃあ、この半紙をあそこに飾りますからねー。みんなホントに上手やよー」と先生が言いながら教室と廊下を別けている壁を指差した。



壁の上、三分の一の所には開閉できる窓がついていてその部分に貼っていく。




「今から貼っていくから、みんな手伝ってー」先生が言い、みんな靴を脱いで貼るのを手伝った。こういうのは大抵、背の高い子の役目や。




貼り終えると「うん、いいやん!」と先生が言った。




豚汁姫はどんなん書いてるんやろ・・・・・・・あっ、あった。え?め、めっちゃうまいやん!!なんやあれ。



跳ねるトコは跳ね、止めるトコは止め。バランスもいい。習字の先生みたいな字。



あかん、負けた。



勝負なんかしてへんかったけど、完敗やった。



豚汁姫の『平和』はクラスで一番うまかった。



そしたらいきなり窓側の席で声がした。




「ふぇーい!」




ガチャン!!




びっくりした、なんや?




と、窓側みたら学校一ややこしい子、みんなからサイテー、関わりたくない。と思われている悪者セイタが子分のアキラとタイチと遊んでいる。



はぁ、またか。



こいつら、いつもこんなんばっかり。



ほら、そろそろ来るで。いつもの・・・




「こらっ!!何やってんの!今授業中やよ!!やめなさいっ」




先生のカミナリ。




だが、「いややー、やめへんわー!」




―――――ガシャン!ガ、ガシャン!!




セイタは先生の言うことを聞かずに、椅子をなぎ倒している。




「セイタ君、やめなさいっ!」先生はそう言うと、すごい剣幕でセイタに向っていく。



あぁ、完全に先生怒らせたな。セイタ。これは居残りやな。



などと思っていると、先生がセイタをとっ捕まえようとした。



その時、




ド、ドンッッ!!




なんと、先生の手から逃れようとしたセイタがジャンプして椅子から机に飛び乗った。




「こらっっっ!!」




先生の怒号が響く。



みんなセイタと先生に釘付けや。




「捕まえてみぃー!」




ギィー、ドンッ、ギィィ、ドンッッ!!




セイタが机から机に飛び乗る音と、机と床の擦れるギィィという音が響いた。先生はセイタを追いかけている。



こいつ・・・どうなっても知らんで。こんなんして、ただじゃすまへん・・・「あっ!」



声を上げたその先にセイタがいて、先生は少し離れていた。そしてセイタがいる所は半紙を飾った壁際の机上だった。



何を考えたのかセイタは半紙が飾ってある後ろの窓を開けようとしている。その結果・・・




ビリ。




うわ。あいつ半紙破りよった。最悪や。誰の・・・・・・。あぁぁぁぁーーーー!豚汁姫のやーーーー!!



セイタはクラスで一番よく書けてる豚汁姫の『平和』をふざけた戦争で破った。




豚汁姫は?どこや?と周囲を見回すと、教卓の近くで・・・・・・・泣きそうな顔・・・・・・しと・・・る・・・・・・・




おのれぇ、セイタァ、よくも豚汁姫を泣かしたなぁ!もうゆるさへんぞぉぉ!!




とっさに僕は「セイタァァ、おまえぇ・・・・・・豚汁姫になにしてくれとんねんっ!」




と僕は椅子から机の上に飛び乗った。



セイタも面食らったのか、何が?みたいなアホな顔しとる。



だが、そんなん関係あらへん。「セイタァァっっ!」と僕は机から机に飛び乗り追いかける。



僕の剣幕に慄いたのかセイタは「うわっ」と言いながら机から机に逃げ始めた。



「まてぇぇー!」僕もみんなの机の上を荒らしながら追いかけた。



クラスは、今や戦場。僕とセイタが机から机に飛び、机はグチャグチャ。




みんなは・・・・・・・・・あれ?静か・・・・・・やな?




机の上を舞っている僕は追いかけるうちに、みんながやけに静かなのに気がついた。




遠くで、




「なんなん豚汁・・・姫って?」




「豚汁姫ってだれー?」




「もしかして・・・・・・のぞみちゃんのこと?」




「なぁなぁ、のぞみちゃん。豚汁姫なーん?」




話声はどんどん大きくなってきよる。




え?豚汁姫??オレ・・・・・・言うたん?もしかして・・・・・・言うたん??





「ええぞーーー!豚汁姫たすけたれーーーー!!」とツカサの声。





言っとるーーーーーーーーーーーーー!!オレ。言ってもたーーーーーーーーーーーーーーー!!!




さ、最悪やーーーーーーーーーー!!




ど、どうしよ




あぁ、どうしよーーーーーーーーーーーーーーーー!!




そしたらセイタが、




「とんじる、とんじる、と・ん・じ・る・ひぃめ」と、まじないを唱え始めた。




殺すっっっ!!おまえの息の根、かならず止めたる!!




「まてぇぇーーー!」と僕はセイタを追いかけた。




「追いついてみぃやー!」とセイタが言い、机の上から飛び降りてクラスから飛び出した。




許さん。もう豚汁姫と言ってもうた以上、取り返しきかん。セイタをコテンパンにするしかない。



僕も飛び降りてクラスから飛び出し、後を追った。



廊下に出たセイタは猛スピードで逃げていた。





「待て言うとんねんー!」




叫びながら僕は必殺のベンベン(スリッパ)飛ばしを繰り出した。




「いたっ」




見事、セイタの頭に命中。




どうや、オレのベンベンの威力は・・・・・・・・・・「あ、あぁーーーー!」




セイタの頭に命中した僕のベンベンを、セイタが拾い上げ廊下の窓から外に投げた。




ベンベンが宙を舞まった。




こいつーーー!もう頭にきた!!!




「こらぁぁーーー!」と僕は追いかけた。




逃げるセイタ。




廊下を走り、二階に繋がる階段を下りて行く。




僕も後を追う。



一段飛ばしで二階まで。




セイタも負けじと二階から一階に。




僕も一段飛ばし、最後はジャンプで三段飛ばし一階まで。



一階でセイタが給食室に入る角を曲った。




僕も角を曲がった。




給食室の扉をあけると、セイタが見えた。給食のおばちゃんに「こら!何してんの、あんた!今授業中やろ!」と言われ呼び止められていた。



チャンス到来!僕は「セイタァァっ!!」と言いながらセイタに殴りかかった。と、あれ?腕が止められた。



え?と横を見たら、もう一人の給食のおばちゃんが「こら!あんたも何しとんの!人殴ったらあかんやないの!」と僕の腕を止めていた。



おばちゃん・・・・・・これには深いわけがあるねん。




セイタはカラダ、僕は腕をそれぞれのおばちゃんに止められて身動き取れへん。



「あんたら何しに来たん!」とおばちゃんが言った。




そしたらセイタが「と、豚汁食べにきたら、こいつに『まてー』って追いかけられてん」と言った。



こいつ・・・・・・ほんま死なな治らへんみたいやな!




「ち、ちがうでおばちゃん!こいつが悪いねん!!教室で暴れて、そんでやめろー言うて追いかけてきてん!!」




必死や。なんか必死に説明した。



「何年、何組の子?」おばちゃんが僕の名札を見た。



なんか・・・オレの名札、先に見るのって・・・・・・・オレが悪いみたいやん。




そうこうしている間に先生がやってきて、めっちゃ叱られた。



セイタに復讐できひんかったし、のぞみちゃんを豚汁姫って言ってまうし、ホンマ・・・・・・・最悪やった。



教室に連れてかれた僕らに待っていたのは、




豚汁姫の恥ずかしそうなやり場のない目線。




クラスの笑いがこもった目線。





ツカサの目線・・・・・・・・・・・いうより、もう笑ろとる。というかツカサは大爆笑しとるやないかい!!




最悪や。まだ笑とるツカサの方がありがたいわ。ごめんやで。豚汁姫・・・・・・いや、のぞみちゃん。




などと思いながら、その日は居残り、悪者セイタと僕は職員室に呼ばれ説教&掃除当番一週間のバツを命じられた。




事件終息。



場所:職員室。



加害者:学校一の悪者セイタ。



まぬけなヒーロー:僕。



被害者:のぞみちゃんが書いた半紙と、のぞみちゃんと僕の心。





数日後・・・・・・



僕とツカサとコウキが一緒に帰っていると、突然ツカサが「なぁ、これ知っとる?」と言って本を見せてきた。



何回か見たことある本。ロミオとジュリエット。テレビでも有名なセリフがある。えっと、たしか・・・・・・



「おぉ、のぞみちゃん。どうしてあなたは豚汁姫なの」とツカサが言った。



こ、こいつ!めちゃくちゃじゃボケ!



どこで覚えてきたのか、ロミオとジュリエットの振り付けまでしとる。ツカサだけやない、コウキも真似しとる。




こ、こいつら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わざわざ覚えてきよったな!!




「おまえらーーー!」と僕が言うと同時に、ツカサとコウキが、




「怒ったー!ロミオ・・・・・やない。半紙王子が怒ったーーー!」と言って逃げ出した。




はぁ?半紙王子?なんじゃそら?オレのことか??




「半紙王子ってなんやねん!」僕は追いかけながら叫んだ。




「豚汁姫の破れた半紙のカタキとろうとしたから、半紙王子やー!」




あぁ、なるほどな。おまえら、ない頭使ったわけやな。やけど・・・・・・使うひと間違えとるで!覚悟せーよ!!!




僕は全力で追いかけた。




僕たちの前をのぞみちゃんが歩いていた。



ツカサたちが、「おう、お姫さん!」とからかった。



こ、こいつらーーー!!




「まてーーーーー!!」と僕は追いかけた。




のぞみちゃんを追い抜くとき、




「ウチの分まで頑張って、半紙王子ー!」と声がした。




え?と横を見ると、のぞみちゃんが恥ずかしそうに微笑みながらこっちを見ていた。




あぁ、これやからお姫さまやねん。




「よっしゃ」




「まかせとけ!」と僕は声を出し、ツカサたちを追いかけた。




〜豚汁姫と半紙王子〜 完

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