〜みかんの女〜
小学校3年の帰り道、僕は友達ツカサとコウキと帰っていた。
結構な田舎で土道が続いていて、大抵バッタを捕まえたり落ちてる木の棒で草むらにいる蛇とかと戦った。
そんなのどかな帰り道、なにかを感じたのかツカサが後ろを振り向いた。
横に並んでいる僕と、コウキもつられて振り向くと50~70メートルぐらい後ろを女が歩いていた。
「なんか持っとるで」ツカサが言った。確かに、なんか持っとる。
三人が振り向くと女も気づいたのかこっちに顔向けて、突然
「待てーーーーーー!!」と、叫んで走りだしてきた。
はぁ?何が??
誰か追いかけられてる人いてるんかなと思って前を見たが、誰もいなかった。
三人とも顔を見合わせて、「俺らのこと?」と確認したが、それは俺らじゃわからへん。
わかってるんは、走ってくる女だけ。おまけになんか持っとるし。
女はどんどん近づいてくる。
逃げな!!!
直感がそうさせた。
三人、右に左に直進に。逃げた!!
僕は直進!
逃げながら後ろを見たら、なんでか僕のほうに走ってくる!
おまけにツカサとコウキは逃げた先の右、左から「先に逃げたのはあいつですー!あいつー!!」と、わけわからんコトを言ってる。
友達売ったな!あとから覚えとけよ!!
そう心に決めたが、そんなん思ったのもつかの間、女はめっちゃ足早い。しかもなんか必死や!
これは危険!と判断し、僕も必死で直進ダッシュ!
でも、あかん。このままやったら追いつかれる。隠れな!
前方右斜めにいつも通っている歯医者さんが見えたから、そこの駐車場に飛び込んだ。
どこかに隠れるところがないか頭フル回転で探して2、3台止めてあった車の下に潜り込んだ。
息も絶え絶え、何とかひそめてじっと隠れた。
車の下から様子を探っているとそこへ女がやってきた。
何回か見たことある。六年生の女子。小太りで、威圧感がある顔やったから覚えてた。
なんか持っとると思ったものは、なぜか段ボール。
「どこやーーー!!隠れてないで、出て来いぃっっっ!!!」
叫びながら近づいてくる。
無理やろっ!!
どう考えてもそれはできへんし、何で出でこなあかん?段ボールなんで持ってるん??というか一体なんなん???
そこへ裏切ったツカサとコウキが六年女子の後ろから声をかけた。
「アイツ車の下に隠れるの得意やから、下探してみてください!!」
ホンマ殺す!得意ちゃうわ!初めてや!隠れるの!!
六年女子がさっとしゃがんで車の下に隠れていた僕を見つけた。
目が合った。
鬼や・・・
初めて人を鬼やと思った。
「こらぁぁーー!!出て来いぃぃ!!!」
小太りの女子は下にはもぐって来られへんから、手をのばして捕まえようとする。
怖くて奥に引っ込んだ。殺意のオーラびんびん伝わる。
「僕何もしてませんけどーー!!」叫んだ。
「出て来いぃぃぃ!!!」叫ばれた。
なんでや!ちゃんと訳、答えろやーーー!!
「出てこうへんとこれやぞーー!!」
持っとった段ボールからなんか取り出して僕にぶつけてきた。
ドスッ。
あいたっ!!
顔面直撃。それどころか、連射のオンパレード。
体中に当たってめっちゃ痛い。何ぶつけてきとんねん、とぶつかった後のモノを見てみたら・・・
なんでか、みかん。
段ボールの中身は、みかんいっぱい。
もう、とうに意味はわからんかったけど、ここまで来ると誰かタスケテ。
違う意味でイタイやろーー!!これはーーー!!!
出ていかへんと女子はみかんが無くなるまで投げつづける気や。
「すみませんでしたー!!」もう、あやまるしかない。
「こっち来いぃぃっ!!!」
あかん!!会話にならへん・・・
結局、その攻防は投げるみかんが無くなって終了し、最後に「もう、するなよ!!」
と、言い残して六年女子が帰って行った。
最後までわけがわからん終わり方やし、残ったのは段ボール一箱分のみかんと、僕にぶつかって弾かれたみかんを六年女子に渡して後方支援していた裏切りモノのツカサとコウキ。
言うまでもなく、裏切りモノは成敗してんけど、残ったみかんの残骸は踏みつぶし、駐車場に残して行った。
ごめんなさい。よく行ってた歯医者さん。あの時のみかんの残骸は狂った六年女子との激闘の末、敗れた僕の踏み残しです・・・。
みかんをぶつけられている途中、「甘いかぁぁぁーーー!!!」と、聞こえたような気がしてんけど、怖さのあまりの幻聴やと思いたい。
みかんの女、それから学校で何度か見かけたけど、姿を見た瞬間に逃げた。
なんで追いかけてきたのか未だにわからへん。
僕たちはあの偉人を忘れない。
〜みかんの女〜 完