紅茶と車、必須【靴下】
紅茶を買ってきてくれ、と職場の上司から言われた。
ブランドや種類はどうするのか、と聞いたら「任せる」と。
一応、来客用なのでそれなりの物にしろ、とのことである。
コーヒーが苦手なお客様用なのだとか。
何と適当な指示なのだろうと思ったが、まぁ上司は紅茶に詳しくないのだろう、仕方がない。
ちなみに私もさっぱりである。
私は会社に車で通っているので、愛車の軽自動車に乗り、付近のショッピングモールへでかけた。
ショッピングモールは若者がうじゃうじゃ居て、オシャレな服を着て歩いている。
スーツ姿の私は若干浮いている。
お目当てのお茶屋さんを見つけたので、そこに入る。
……うむ、種類が多い。
「すみません、少し伺いたいのですが」
「はい」
「職場の来客用に良い紅茶って、どのようなのがありますか?」
分からない事は恥ずかしがらずに聞く。
社会人の鉄則である。
私はすぐに店員さんにヘルプを頼む。
「そうですね。不特定多数相手だと、クセの弱い無難な物が良いかと。
こちらのアッサムはいかがでしょう?」
「それでお願いします」
「ミルクもお付けしましょうか?」
「お願いします」
店員さんのおすすめを買い、それを持って私はショッピングモールを出て車に戻る。
「さて、試しに飲んでみようか」
車に備え付けてある魔法瓶から、カップに注ぐ。
私は普段インスタントコーヒーを、車内で作って飲むのだ。
「んー、こんなものか」
まずいのか、うまいのか、よく分からん。
「おっと……あっつ?!」
手が滑って、カップを落とした。
足にかかってしまった。
「あーあ、靴下がビショビショだよ」
気分が落ち込んだが、まあ仕方ない。
私はトボトボと車を運転し、会社に戻った。