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迷走の果てに木魂する叫び②


いつの間にか私の前方で、すっかり当たり障りのない会話をしている颯太と哲平くん。そのうしろをとことこと着いて行きながら、私の心は次第に風邪をひいているという秋月へと向けられていった。


熱はどのぐらいあるんだろう? 

着替えは自分で出来るのかな? 

ご飯は食べられるのかな? 

薬はちゃんと、飲んでいるのかな? 


夏休みの前には……会えるの……かな? 


やっぱりあとでちゃんとメッセージを送っておこう。

そう心の中で私は誓った。先ほど颯太が私に対して物分りが良すぎるって言ってたけど、それは建前の行動。本当は哲平くんから知らされるのではなく、秋月自身から連絡が欲しかったのが私の正直な所なんです。

でも、それは私の我がままな部分。哲平くんの言葉を借りれば、秋月の事情を無視していることになる。体調悪くて、なかなか思うように連絡取れない場合もあるんだってことを私自身、納得がいかない様子の颯太をそうやって諌めたんだから、破るわけにはいかないよね。

だけどやっぱり、もやもやする。心の奥底で、わだかまっている私の本音。頭の中では分かっているんだけど……どうしても、ね? 彼女だから、頼りにして欲しかったなぁ~なんて。

つい、手元にはないスマホをカバン越しで見て、すぐにでも連絡してしまいたい衝動に駆られてしまう。哲平くんが秋月の状態を知っているってことは、彼から連絡が来たということ。秋月の友だちだから、別に哲平くんに嫉妬する訳じゃないけど、彼女として、微妙に負けた気がするのは否めません。


「真山先輩、さっきから俺の方ばかり見ているような気がするんだけど? ……楓に殺されるような真似だけは、勘弁してね?」

「え!? そうなのねーちゃん!? 今度は森脇!?」

「うん、ぜんっぜん違う!」


物思いに耽っていたためか、哲平くんをずっと見ていたらしい私は本人から突っ込まれると共に我に返った。そして、それまで私が考えていたこととは全く的外れの二人に慌てて突っ込み返す。

な、何を言ってるの二人とも!? どうしてそうなるんですか! そんなわけないでしょ。私はずっと、秋月のことを考えていたんです! 

……っと言えば、きっと颯太は激怒し、朝の住宅街でお構いなしに怒号を放ちそう。近所迷惑の可能性大です。逆に哲平くんには色々と茶化されるだろうから、颯太の怒号と併せて、私の思考は大混乱間違い無し! べ、別の話にしなきゃ。

私は喉まで出掛かった言葉を必死に飲み込むと、話題を切り替えるために頭をフル回転させた。

何か、何か誤魔化せる内容はない!? 適当に、当たり障りないやつ! 

でも、慌てていれば冷静な判断なんて出来ないのは至極当然のこと。必死に考えて出したつもりが、とんだ墓穴を掘ってしまいました。


「きょ、今日の夕飯は何かな~? って思ってたの!」

「は? ねーちゃん、さっき朝飯食ったばっかじゃん」

「ははっ、俺を見て? 真山先輩、挙動不審になってるよ。さてさて、何を考えていたのやら?」


しまった! 我ながら、苦しい誤魔化しだと薄々思っていたけれど、本当に苦しい内容でした。

既に冷や汗だらだらな状態の私に、颯太と哲平くんの言葉が刺さります。

い……痛い。そりゃそうですね。哲平くんを羨ましく思って見てて、何で夕飯になるの!? 

自分で自分を恨めしく思う。どうして私はこういう時に限って、切り返しが下手くそなんだろう。完全にミスチョイス。まぁ、今まで誤魔化せてたのが不思議なのかもしれないですけど。

あぁ~。哲平くんの髪、すっごく派手だね……ぐらいにしておけば良かった。………………あれ。どうしてそれを今思いつくの私!


「えっと……その、あの……」


選択を外した私は、勿論、狼狽えてます。意味不明だとでも言いたげな颯太はともかく、哲平くんの方は何かを察したのか、クスクスと笑ってこっちを見てくるし!


「真山先輩にやきもち妬かれるんだったら、とりあえず、俺の身は大丈夫そうだね」


あう、見透かされた。もうこちらの言い分は、聞いてくれなさそうです。きっと哲平くんは、秋月に言うんだろうな。そんな顔をしているよ。「面白い情報を入手したなぁ」みたいなそんな顔をしているよ~。

彼から話を聞いて、調子に乗り始める秋月が自然と頭の中に浮かんでくる。私は頬が火照り始めたのと同時に、恥ずかしくなってきた。次に会う時、どんな顔をして秋月を見ればいいんだろう、って。


だけどそれは、単なる取り越し苦労だったみたいです。

時間を空けて秋月に送ったメッセージは、いつまで経っても返ってこなかったから。





「あら、今日も流香……一人?」

「う、うん。あ! でも途中まで、哲平くんと一緒だったよ」


初日と同様。秋月の代わりとして、今日も迎えに来てくれた哲平くんと一緒に登校して来た私は、昇降口で彼と別れたあと、一人きりで教室へ入る。そこへ沙希が、真っ先に声をかけてきてくれた。

私が教室に入ってきた所を、瞬時に気付いてくれたみたいです。そんな親友へ、何とか笑顔で答えた私。だけど頭の中ではすぐに、別のことへと切り替わっていた。

勿論、それは秋月のこと。心配で心配でたまらないから。

もう数日、彼の姿を私は見ていないんです。秋月が学校を休んでから、既に四日が経とうとしている。結局、あの日から彼に会えない状態でとうとう一学期最期の日を迎えてしまいました。

ここまでくると、私の心は不安で一杯。秋月に会えていないというのもあるけれど、根本的な不安要素が他にもあったから。

それは、秋月から未だに連絡が来ないていうこと。あれ以来、『一度も』秋月からの連絡がなかったんですよ? 四日間の内、『一度も』。

秋月の体調が心配だった私は度々、休み中の間、彼へメッセージを送っていた。体に障ってしまうと大変だから直接電話はしないようにし、極力、連絡も頻繁にしないようにもしました。もう熱は下がったのかとか、薬をちゃんと飲んでいるのとか。

以前、秋月がうちに泊まりに来た時、おうちの人はいないみたいなことを言ってたから、余計に心配で……。

だから、数えるぐらいのメッセージは送ってみたんです。やっぱり彼女として、秋月が困っていたら少しでも力になりたいし。

でも、秋月からの返事は一向に返ってくる気配がない。メールを送ってから何分も何十分も。何時間も待ってみたけれど……秋月からの返信はなかった。

いつまで経っても来ない秋月からの連絡に、私はこの四日間、ずっとスマホに張り付いていたまま、不安な気持ちだけを募らせていった。スマホが小刻みに振動をし、光れば真っ先に手に取り、画面に表示される文字へと目を走らせる。秋月の『あ』文字を探して。

だけど、携帯に表示されているのはメルマガだったり、沙希や智花、柚子たちからの気遣いだったり、颯太からの身内的な連絡だけだった。

どうしたんだろうと思わない訳がない。普段の秋月は連絡魔で、一緒にいない時は勿論のこと、授業中でもお構いなしにメールしてくる。そして、ひとたび返信すれば弾丸の如く返信してきてくれるのが彼なんだから。

それが今は……。


「まだ、秋月から連絡が来ないんだ?」


神妙な面持ちで、私の顔を覗き込んできた沙希が尋ねてくる。


「…………うん」


自分の席についた私はそんな親友に対し、肯定の意思を一言で済ませた。というより、それしか回答出来ない。何も進展する状況が垣間見えないのだから、新たに沙希へと伝えられる言葉が出てこないのが現状です。

やっぱり、そうなのかもしれない。

思案にあけくれている私へ、心配そうに沙希が様子を伺ってくる。その視線の中で、私は不安と共に一つの結論を自分で導き出していた。それしか考えられなかったから。

秋月がずっと休んでいる、その理由を。


最初はただ単純に、具合が悪いからメッセージを返せないと思っていた。

だけど、三日目の夜に連絡しても返事がなかった時には、流石に何かあったのではないかと完璧に感じ取っていた。

普通、どんな風邪でも二日目には大分ましになっている。ましてや四日目ともなれば初日と比べてその差は歴然で治っているのがほぼ。少しでも、何かしらの行動は起こせるというものです。

だけど、そんな四日目を迎えても秋月からは何も音沙汰無し。

これって、よっぽどのことだよね? 相当重い風邪にかかっているのか、はたまた別のことが秋月の身に起きているのか……。

いくら私でも分かるよ。風邪をひいて、彼が学校を休んでいるんじゃないってこと。

多分。いや確実に、秋月に何か起きたんだってことを。

今朝、思い切って私は哲平くんに聞いてみた。秋月は本当に、ただの風邪なの? って。私の家まで迎えに来てくれた彼へ、まるでしがみつく勢いで秋月の状態をたずねた私。事実を知りたくて、唯一、秋月と連絡が取れてるらしい哲平くんへ頼みの綱を投げ掛ける。

でも帰ってきた彼からの返答は、私の思いとは裏腹にあっさりしたものだった。


『大丈夫だよ真山先輩。元々楓は、学校をさぼるクセもあるから。そんなに心配しなくていいからね?』


嘘だ。中学の時はそうだったのかもしれないけど、秋月は高校に入ってから今までの三ヶ月間、私の記憶の中では休んでた日なんてないよ。それはもう、クセとは言えないよ。


「そうなの……。まだ来ないんだ」


秋月が休んでいる理由について熟考している私に、沙希はぽつりと呟いた。先ほど私が彼女へ返した言葉へ追従しているかのような反応。

普段、秋月と対立している沙希も、流石に彼がここ数日間顔を見せていないことにちょっと驚いているみたい。最早習慣となっている私と秋月の登校は、自分にとっても馴染んでいる光景であると、彼女本人が私に明かしてくれたから。

そんな私の唯一無二の親友は、どこか物足りなさと共に大きな瞳をぱちくりと瞬きさせ、私の真向かいの席へ座って更に口を開いた。


「っていうか、あの赤毛も律儀な奴。秋月がいないからって、何も連日、自分が代わりに流香を送り迎えしなくてもいいのにね?」

「う……うん」


疑問には感じているものの、哲平くんに関してはさして大したことでもないと思っているのか、あっけらかんと私にそう告げてきた沙希。それを私は、哲平くんは沙希の中で『赤毛』に固定されたのか――と思いつつ、ちょっとどもりがちになりながらも答えた。


「なんか私を一人にさせると、秋月に怒られるって言ってたかな?」


つい先日、哲平くんが言ってたことを思いだしながら沙希にそう伝える私。すかさず、沙希は呆れたように溜息をついた。せっかくの大きな瞳が可能な限り細められ、今度ははっきりと疑問に感じているみたい。

でもそれは哲平くんに対してじゃなく、きっぱりとした秋月へのクレームです。


「そんなに流香が大事なんだったら、人に任せてないで自分がやりなさいよね~。いつまで休んでんのあの馬鹿は!」


馬鹿の部分がやけに強く誇張された沙希の台詞。全ての苛々をその一箇所にぶつけているかのような吐き捨てに、クラス中の男子たちが一瞬ビクッと体を震わせたのを私は見逃さなかった。

あ、別に皆のことじゃないからね。だけど本人がいたらきっと、たちまち辺りは大騒動。まだ眠気が教室中に漂う中、怒り心頭の秋月が沙希へと文句をつけ、それを彼女も言い返す。仕舞いにはバチバチと火花がお互いの視線を交差し、慌てた私は急いで仲裁に入る……って、颯太のパターンとさして変わらないですね。

自分で言ってて思うけど、つくづく秋月はそんな賑やかな私の周囲の中心にいる。でもそれは颯太の時と同じ単なる杞憂で、今この状況では決して起こり得ないこと。だって、その当の本人がいませんから。沙希も言ってみたはいいものの、喧嘩相手がいないため、それ以上口を開こうとはしなかった。その代わりに私の方が口を開いた。


「やっぱり……嘘をついてる」

「え?」


秋月に関して今はまだ何も言えないけど、彼のことなら言える。

突然私が会話の流れを外したので、きょとんとした沙希が聞き返してきた。


「何の話? 流香」


沙希に言ってみようかな? 私の考えを。

哲平くんが……ううん、違う。哲平くんと秋月の『二人』が、私に何かを隠していることを。


はよ花粉が治まってくれないですかね~。

温かくなってきたので、職場に行くまでに汗でマスクの下がダラダラでメイクとれて困ってます、というどうでもいい話←


次回は週末になりますのでご了承ください。

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