表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/103

危険な夏は期末試験より⑪






□□□□□□□





「ふぁ~~……」


翌朝。

まだちょっと重たい瞼をこすりながら、私は目が覚めた。そして自分の部屋を見渡して小首を傾げる。

布団も引かず、直接床へと雑魚寝している秋月と颯太の二人が目に入ったからです。

あれ。秋月、私と一緒にベッドにいなかったっけ。ていうか、いつの間に颯太は来たんだろう。それより何で二人とも、そんな所で寝てるの? ん~~? 


昨日の夜、私は途中で寝ちゃったから何が起きていたのかよく分からなかった。最初はとても気持ちのいい夢を見ていた気がするけれど。あ、でも苦しかったような気もしたかな? それ以外は、全く記憶に残っていません。だから秋月と颯太が起きた時、聞いて見ることにした。


「……いや、えっと…………。べ、別にこれといって、その……う、うぅ」


妙に歯切れが悪い秋月。視線が泳いでいるように見えるのは、私の気のせい? かと思えば、ちらちらとこちらを盗み見ては顔を真っ赤にさせ、鼻を抑えだす始末だし。変なの、どうしてあんた…………鼻血だして……んの。って、えぇ!? 鼻血!? 何で! 

突如として発生した流血。私は慌てて秋月へとティッシュを差し出し、同時に、止めてあげようと試みる。そんな中、秋月の代わりに颯太が私の問いに答えてくれた。


「……昨日コイツ、動けなかったんだよ。てか、ねーちゃん! 秋月を診てやんなくてもいいって! 全部、この野郎が悪いんだからなー!?」


ギロッと秋月を睨み付けながら言う颯太。

いやいや、そんなわけにはいかないよ。結構でていますから。

でも肝心の部分は言ってくれなかった。何でその秋月が、動けない状態だったのか。それには颯太までもが黙ってしまい、いくら聞いても教えてくれなかった。甚だ疑問です。辛うじて一言だけ返ってきたけれど。男の事情……って何?


「よへーなことをもーふぇんぱいに言ふんじゃねーぞ、おとーと!」


私に鼻を抑えてもらいながら秋月が颯太に憤慨する。絶対私に知られたくないことでもあるのか、二人が私の部屋で雑魚寝していたいきさつについて、もう終わらせたい様子の秋月。「これ以上は何も言うな!」と、何だかさっきの颯太の発言に焦っているみたいだけど……。でも、鼻血を出しながら言われてもね。いまいち迫力に欠けます。そもそも、何で鼻血を出したのあんたは。そっちも気になるんですけど!


「……いや、えっと……やっぱ思っていたよりも先輩って…………ぶはぁ!」


私からの問いに、自分の意思とは反してついつい答えそうになった感じの秋月。だけど、再び何かを思い出したらしく、ますます鼻血が止まらない状態になったので追求は断念しました。

………………。何なの一体。人を見るなりまた鼻血を出すなんて! 意味が分からないんですけど!? 


一体昨日の夜に何があったのか皆目検討もつかなかった私はもう冷や汗だらだらものでしたが、とりあえず、秋月の鼻血を止めてあげることに専念しようと思い立つ。

先輩としてでもそうだけど、昨日で秋月と私は……。


「……で、何でそーなるんだよねーちゃん!?」

「へ? だって、こっちの方が楽かなと思って。って、ちょっと秋月! あんまり動いちゃダメでしょ!」


でも私が秋月の鼻血を止めるためにした行動は、颯太に物凄く突っ込まれてしまった。まるで信じられないとでも言いたげな弟。そんな颯太には構わず、大喜びをしているのがここに一人。私が注意しても何のその。秋月はすりすりと私にしがみついてくる。仕舞いには叫び始めました。


「無理無理、じっとしてらんねーっつーの! やべ~~~~っっ! 流香先輩の膝枕!」


自分で抑えながら、よくしがみついてこれるね。器用だな~。

私に代わって今度は自分で鼻を抑えている秋月。私の行動が思いがけなかったのか、すっかり有頂天になっています。

いや、だって……ね? このぐらいはしてあげてもいいと思ったんだもん。

だから私はそんな彼へついつい、鼻を抑えながら器用にしがみつくその行動に、関心してしまっていた。特に違和感もなく、ただ別のことで慌てて我に戻る。どうして私が秋月に膝枕をしているのか思い出したから。

ちょ、ちょっと秋月! 引っ付きすぎだから! これじゃあ治まる物も治まらないよ。こういう時は、大人しくしてること! 

私が気になったのは彼の状態だけ。はたから見てとっても変な光景です。鼻血を出しているのに元気な秋月。何かが間違ってます! 


でも、違ってたのは私みたい。そんな彼に対して、変に見えたのはどうやら私だけだったらしいです。秋月に膝枕をしてあげている私。私から膝枕をしてもらってる秋月。そんな私たちを見た颯太は、すっかり目を点にさせていた。

ん? どうしたの颯太? 必死に状況把握をしようとしているのか、ジッと私たちを見てくるのが気になるんですけど……。

でも、構わずにガン見してくる弟。颯太の目には秋月だけじゃなく、私も含めて変に見えていたらしいです。ようやく口を開いて発した言葉から、それを知ることが出来ました。


「……あれ、俺の目おかしい。ねーちゃんと秋月がイチャついているように見える……何でだよ……?」


え? 頭に疑問符を浮かべるかのように、片眉を吊り上げて告げてくる弟。仕舞いにはごしごしと目をこする始末。呟いた声に私は何を言われているのか一瞬理解出来なかった。そんな弟へ、秋月がシレッとしながら答える。


「あ? イチャつくに決まってっだろ。俺と流香先輩は付き合ってんだかんな!」


あ、そうか。颯太は知らなかったんだ。私と秋月が、付き合うことになったの。

一人で納得してしまった私。だから弟へのフォローを入れるのが遅れ、とびっきり悲痛な雄たけびをこのあと聞くはめになりました。


「う、うう、う……うそだぁぁあああぁあぁぁ!」


強制否定。断固拒否。問答無用の拒絶。そんな言葉が、颯太の全身という全身から溢れ出してくるように感じられた。


「うそだ! 無理だー! ぜってぇ~~嫌だぁああ――――――っっっ!」


顔面はすっかり真っ青。がくがくと震えまでし始めた弟に、姉の私はと言えば冷や汗だらだらです。だって仕舞いには泣きながら私の肩を掴み、捲くし掛かってきたから。


「ねーちゃん、何でそんなことになってるんだよー!? たった……たった一晩、秋月をうちに泊めただけで! 冗談じゃねーよ! …………あれ、ねーちゃんここ痣が出来てる。じゃね――っ! 今別れろ! すぐ別れろ! おらぁああ秋月! いつまでもねーちゃんの膝で寝てんじゃねぇぇえええ――――っっ!」


な、泣くほどなわけ!? 姉として突っ込み所満載です! 

何やら私の首元に痣が出来ているのを颯太は見つけたみたいだけど、私と秋月が付き合い始めた、という事実を知った今、それどころじゃあない彼にとって矛先はすぐに秋月へと向けられた。

でも、それをあんまり聞いていない様子の秋月。弟と同様、むくっと起き上がると私の首を確認し出してぼそっと呟いてます。要するに無視ですね。


「あ、やべ。………………ま、いっか」


ん? 何か言った秋月? 

「別に!」と慌てて明後日の方向へと秋月は顔を向けたけど、それをしっかりと聞いたらしい颯太の顔が更に青くなってきたのは……気のせい?


「も、ももも……もしかして……」


青を通り越して真っ白。その言葉が今度、颯太にぴったりと当てはまるようになった。何か思い当たることでもあるのかな? 

とりあえず、颯太が秋月に向かって掴みかかったので止めることにします。

って! ちょ、ちょっとちょっと! 何で急に喧嘩を始めるの!? やめなさ――――――――い!


普通はこうなりませんよね? 付き合いたてはもっとこう、初々しいというか恥じらいがあるというか。いい雰囲気がお互いから滲み出てくるというか。

ようやくつきあい始めた二人。これから胸くすぐる新しい展開が……。みたいなキャッチフレーズが浮かんできそうですよね? むしろ浮かびます。何でこんなことになり始めちゃったんですか!?


「殴らせろ! 一発どころじゃね――――! 何発も殴らせろ秋月ぃぃ! よっくもねーちゃんを傷ものにしやがったな――――!?」


ちょっ! 傷ものって何!?


「何回も言ってっだろ!? 未遂だっつーの! 勘違いばっかしてんじゃねーよ弟! 俺だって頑張ったんだ!」


未遂ってどういうこと!? それに、頑張ったって何をですか! もう、もう……ムチャクチャです! 


物凄い剣幕で秋月に殴りかかろうとした颯太を何とか止め、それを受けて立とうとした秋月にお説教をし、朝っぱらからどたばたした時間を私たちは過ごした。ゆっくりしていられません。落ち着いてもいられません! まぁ、色々とすっ飛ばしてきた私たちだから、らしいといえばらしいんだけど。


「ご、ごめんね秋月。颯太が……」


玄関の外まで秋月を見送る私。大激怒の颯太に追いたてられるかのように、朝を迎えてすぐ、秋月は帰ることになった。付き合い始めたばかりだけど、余韻に浸れることもなかったのでいまいち実感も起きないのが正直な所。期末試験も近いしね。


「いや、ま……しょーがねーし……。先輩に借りたノートで帰って勉強すっから! じゃあまた、月曜日に迎えに来る!」


にこにこと私に笑顔を向けてくれた秋月だけど、こめかみに青すじが浮かんでいるのは……き、気のせいです。

そんな彼だけど、帰り際に軽くキスしていった。途端、私の顔が熱くなる。ほんの少し、付き合ってるっぽい……かも。


期末試験が終わったらいよいよ夏休み到来。私は火照ってきた顔にそっと手を添えながら、これから過ごすだろう秋月との時間に思いを馳せた。帰っていく彼の背中を見ながら、きっと楽しい夏になるんだろな……と、胸をどきどきさせて。


だから、それだけしかまだ知らないでいたんです。





「秋月くん、見っけー」





別れ際の私たちを偶然にも、見ていた人物の存在を。





「……その子、誰―?」





付き合い始めたばかりの私たちに訪れる、危険な夏の到来を。


古今東西色々なイケメンがおりますが、うちのイケメンは鼻血を出します←

鼻血ブー男、その名も秋月楓です。

どうぞよろしくお願いします←


はい、一章が長くなりつつある『先輩!!』ですが、この章はこれで終わりです。

サブタイトルにある「危険」はもちろん楓ですが、最後の最後に裏の「危険」を持ち合わせている人物がとうとう流香たちを見付けました。

次章からは波乱に満ちた内容になっていきますが、どうかお付き合いいただけたら幸いです。


次回更新は仕事と幼稚園の都合で週末になるかもです(;´д`)

少々お待ちください(汗)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ