危険な夏は期末試験より④
当初うちに来たあと、てっきり秋月が試験勉強をするものとばかり思っていたのに、彼は別の方向へばく進中です。変なスイッチがオン状態です。
本当にもう急に何なの!? 人の家に来てから部屋を物色しようとするわ、離してくれないわ! 親しき仲にも、礼儀ありです!
あれ?
私は混乱の最中でも、あることに気付いた。一連の秋月の行動……。言い方悪いけど、なんか妙に馴れ馴れしいというか。先輩と後輩という間柄にしては、それ以上のことをしてくるというか。まぁいつもだけど。
でも今日はやけにそれがバージョンアップしています。例えるなら、恋人同士みたいな……。彼氏がいたらこんな感じなのかな……みたいな。
ん!? 彼氏みたいな!?
この先、秋月と私はどうすればいいか。
智花が言っていた。これからの私たちは秋月次第だって。
沙希も言ってましたね。私は何も心配しないで、大船に乗ったつもりで行けって。
柚子なんて、保証までくれましたよ。絶対、秋月は何かしてくると。
颯太以外、みんな揃って私に薦めてくれました。秋月に、全部任せておけばいいって。
それがこれですか!? この状態なんですか!?
予想外です。何か秋月、もうすっかりその気みたいなんですけど!
もっと他に、段階的に踏むものがあるんじゃないかと思ってしまう。明らかに、秋月がしてきていることは色々とすっ飛ばしている気がするから。
あ。颯太がすっ飛ばしている、って言ってたのはこういうこと? 納得です。ってぇ! こんな状況、それこそ私には対応不可能だよ~~! いきなりもう付き合ってる感じ!? ムリムリムリムリムリムリ!
「いやああぁぁぁ~~~~! それ以上は、何もしてこないで!」
ようやく自覚したばかりだというのに、いきなりいちゃいちゃ、らぶらぶ状態ですっかり尻込みしてしまう私。更にじたばたと暴れて、何とか逃げようとする。
だってムチャクチャにほどがあるもん! もっと普通はこう、何て言えばいいのか……そう! まずはメールしたり、どこかに遊びに行ったり、登下校を一緒にしたり。ちょっと雰囲気が良くなってきたら手を繋いでみたり、キ、キスしたり……ってあれ?
これって、今まで気付かなかったけど私と秋月は済みですね。段階踏んでます? 知らない内に踏んじゃっています?
うっそ! いつの間に!?
色々すっ飛ばしているどころじゃない!
もうすでに私たちは、最初からすっ飛ばしていたんです。
それというのも全部、秋月が私に、そうしてきたからですが。
何を今更。
哲平くんの言葉が甦ってきました。本当に、本当に……。このまま私たち、つ、付き合うの? 秋月に任せ、ちゃう?
「先輩、俺とこうするの嫌?」
私が余りにも抵抗しているためか、次第に秋月は元気がなくなってきた。ちょっと眉尻が下がり、寂しそうにこちらを見てくる。流石に私も動きを止めた。急に、秋月が切なそうにしているからです。
「まだ、俺じゃあダメ?」
言葉を続ける秋月。こつんと自分の額を私の額に当てたかと思うと、そのまま静かに目を閉じ、キスをしてきた。
――トクン
――トクン
――トクン
動き出す私の心臓。そんな私を支えながら、微かに震える秋月の手。今までとは違い、切なそうに重ねてきた唇は、私の思考を奪うのにそう時間がかからなかった。
――トクン
――トクン
――トクン
暴れていたのが嘘のように、私は自分の鼓動を聞いている。唇から伝わる秋月の体温が、それを更に誇張させているのが分かった。
嫌じゃない。決して嫌じゃない。秋月から伝わる温もりは、とても気持ちが良いから。
――トクン
――トクン
――トクン
私が抵抗していないと踏んだのか、秋月は片方の腕で私を支え、もう片方で今度は私の顔を支えた。より深く、重ねる秋月と私の口。
ダメじゃない。決してダメじゃない。キス一つで、私は満たされている気がする。ただ、恥ずかしいだけなんです。それだけ。秋月とこうしているのは……むしろ、好き。
「先輩、顔赤ぇーよ」
「秋月だって、赤いよ」
名残惜しそうに、唇を離した秋月が私にそう言ってきた。私も返す。ほんのり赤く、頬が染まっているのは私だけじゃあないから。
「目もとろんってしてるよ、先輩」
「あんたも、でしょ」
他愛もないやり取り。でも、私たちにとっては意味のあるやり取り。秋月と私の視線が重なって、見つめ合うと同時に、心も重なっているのが分かる。
やっぱり、状況的には恥ずかしいけど、でも、これが流れっていうものなのかな?
私はふと、そう思った。それなら、そのまま委ねてみても……いいかも。
――プッツン
え? その場の雰囲気にそぐわない音が聞こえてきた気がする。私はどこからその音が聞こえてきたのか、周囲を見回してみた。何もない。これといって、その音が聞こえてきそうな物など私の部屋にはない。部屋には秋月と私がいるだけ。ん? 秋月と私だけ?
「先輩、俺ヤバイかも」
なっ!? どうやらその音は、秋月から聞こえてきたらしいです。ぶるぶると全身を震わせながら、何かと格闘している秋月。
って! 何と格闘してるの!?
私は少しずつ、秋月から離れた。私を捕まえている余裕すら無さげな感じです。今までの雰囲気は、跡形もなく消え去りつつあります。とういうより、な、何かすっごく身の危険を感じる!
「……耐えろ俺。今日は忘れて来ちまっただろ俺。流石に最初はマズイだろ俺! いちゃつくだけって決めただろ俺!」
「?????」
必死に何かを我慢している様子の秋月にさっぱりな私。しきりに自分自身へ言い聞かせている秋月をただ見ているだけです。
でも近付かない。というより、近付けません。だって秋月の目が、まるで獲物を捕らえたような感じでこっちを見てきてるんだもん! こ、怖い。無性に怖いです。冷や汗がだらだらと垂れてきた。さっきまでの雰囲気が、本当にどこかへ消し飛びました。このまま、流れに任せることも出来なくなりました。
ど、どうしちゃったの秋月? てゆーか、何を忘れたの? 最初はマズイって、何のこと?
どうして秋月がこうなっているのか。このときの私は全然予測がつかなかったんだけど、ある意味、私が危険な状況だったと知るのはもう少しあとのこと。一先ずこの場は、何となくの雰囲気に私たちが乗れなかった。それだけです。
みんながいたらもれなく「なにやってんの、あんたたちは!」って突っ込まれること間違いないけど。
「とりあえず……勉強、しよ?」
「耳だけ……耳だけ……」
まだぶつぶつと呟いている秋月へ、私は当初の目的を進めることにした。こんな状態の秋月が大人しく試験勉強をするのかと思うと甚だ疑問だけど。
でもこのあと、そんな秋月でもやる気が起こさざるを得ない事態になった。私にとっては、冷や汗だらだらの急展開。
「流香、いるかー?」
扉の向こうから聞きなれた声がした。
突然の来訪者。私は慌てて、部屋の扉まで近付く。あっくんがうちに来たんです。
って、どうしたんだろういきなり。昨日の件については家が隣同士ってこともあるから、沙希たちみたいにスマホじゃなく、私は直接話しをしていた。そのときあっくんは心底安心したようで「じゃあもう大丈夫なんだな」とニカッと笑ってくれ、それで終わったはずなのに。
私は不思議に思った。あっくん的にまだ、用事があるのかな? 何だろう?
――ピクッ
知っている声だったから秋月も反応する。徐々に目を据わらせ、ダークなオーラを出し始めたのは……気のせいじゃないです。仕舞いには舌打ちまでしたのを、私は聞き逃さなかった。ボソッと呟いた言葉に、思わず冷や汗を垂らす。
「っち、邪魔すんな。っの野郎ー、非常識だっつーの」
いや、それはあんたにこそ言えると私は思うんだけど。いつもメチャクチャなことしてくれるのは、一体どちらさまですか!
勢いで突っ込みそうだったけど、それよりもとりあえずあっくんを部屋の前で待たせちゃっているから出ないと。
でも私はこのとき、まだ、気付いていなかったんです。私が秋月を好きになっても、当の秋月自身はまだ、あっくんに対して、敵対心剥き出しのままであることを。
「悪ぃ流香。英和の辞書、学校に忘れてきちまったから貸してくんねーか? お、秋月来てたのか。昨日はありがとな」
あ、何だ辞書か。
私はあっくんが私の元へ尋ねてきた理由を知り、納得する。でも秋月はそうじゃあないみたい。私の部屋に入るなり、秋月の存在に気付いたあっくんが、そのままツカツカと秋月のそばに寄り、頭を撫でた。まるで、手のかかる問題児に良く出来ましたと言ってるみたいに。って、あながちそのままですが。
それを秋月が、撫でてきたあっくんの手を乱暴に振り払い噛み付く。
「気安く触んじゃねー。大体何だテメーはぁ! いくら幼なじみだからって、遠慮無しに先輩の部屋入って来てんじゃねーよ! 親しき仲にも礼儀ありって言葉知ってっか!?」
えーと。そっくりそのまま、あんたにお返しします。後輩のあんたが、先輩のキャビネットを空けようとしたのは何!? 言っとくけど、まだ私たちはちゃんと付き合ってるわけじゃあないんだからね!
でもすぐにおかしな雰囲気はすっかり抜け落ち、あっくんの出現で不機嫌になってきた秋月を私は感じ取った。キッとあっくんを睨み、仕舞いには唸り声をあげ始める秋月。どうやら本気であっくんに邪魔されたと感じてるようです。
あれ? も、もしかして……この流れはまずい? 更に冷や汗がだらだらと出てきました。
「ははっ! そうだな。秋月の言う通り! 悪ぃ悪ぃ、ついいつものクセが出ちまった」
ひょおっ。
噛み付いてきた秋月に対し答えたあっくんへ、私は思わず変な声が出そうだった。同時に、全身から血の気も引いてくる。
何故ならあっくんの発言と共に、秋月から血管の切れる音が聞こえてきたので。ぶちっと。『いつもの』という言葉が、秋月の癇に障ったらしいです。
「……テメー……先輩の部屋、しょっちゅう来てんのか? ……俺、今日初だっつーのに……先輩、そうなの?」
うわわわわわ。地の底を這うような声まで出し始めちゃったよ秋月。そして、私にも矛先を向けてきました。
え、何この微妙な空気。秋月の視線が痛いんですけど。例えるなら、浮気疑惑を向けられているような……そんな感じです。って! 何考えてんのあんたはぁ! だから私たちはまだ、はっきりと付き合ってないじゃない!
仕舞いには、こんなことまで言われました。
「先輩ダメじゃん! そう簡単に男を部屋へ入れんなよ、危ねーんだかんな!」
「………………」
はい? え、それってつまりあんたもってことなんですけど。
てゆーか、さっきのあんたの方が危なかったと言ってやりたいです! 言ってもいいですか!? いいですよね!?
でもすぐさま秋月は思考を切り替え、よく分からない決意を新たにしていた。もう私、ついていけません。
「決めた。これから先輩んち、遊びに来まくろう。つーわけで流香先輩、そーゆーことだから。……負けねーかんな」
ピッと私に指を向けた秋月はそう宣言したあと、再びあっくんを睨みだす。
何がそういうわけで、どうゆうことなの秋月?
一瞬、頭が混乱した私。そして気付いた。えぇ!? つい今しがた、自分が発言したことを思い出してよ! 男を簡単に入れるなって言ってたじゃない! 自分はいいんですか!?
突っ込み所はもう満載過ぎて口から出てきません。しかも、何勝手に決めてんの秋月!! 私んちに遊びに来まくるだなんて、あっくんに対抗? 変な所で張り合おうとしないで!
そんな秋月に敵対視されている当のあっくんは、何故か彼の意見に同調している。
「うんうん。お前が言っていることもっともだな。気をつけろよ流香? 知らない人を、家にあげちゃダメだからな?」
ワンテンポ遅れてるし、微妙にずれてるよあっくん。しかも、小学生以下に言う内容……。
ダメだ。どこからもう突っ込んでいいのか分からなくなりました。メ、メチャクチャです。
まさか学校のみならず、自分の家でも起こるなんて……。あ、大本はいつも秋月だからメチャクチャになりますね。自問自答して納得してしまった。
――ガクゥ
楓残念!(笑)
イチャイチャタイムしゅーりょー




