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危険な夏は期末試験より③


「俺、中間ヤバかったから、期末は頑張んねーとって思ってさ。補習で夏休み潰れんのヤダかんな! 先輩と遊びてーし! 先輩と一緒だったら、勉強出来る気がするし!」


え? 何か暴露されました私?


「ちょっと待って秋月」


私は冷や汗を垂らしながら、秋月をまじまじと見返した。

今、何て言いました?

最後は得意気に話している秋月の台詞を、頭の中で繰り返してみた。中間ヤバかった?


「ち、因みに何点だったの?」


私は恐る恐る聞いてみる。まさかとは思うけど、いやそんな。いくら秋月が元『問題児』だからって、そこまでじゃないよ……ね?

嫌な予感が私の思考を占領し始めたけど、それが見事に的中してしまったからには血の気が一気に引くのを感じざるを得なかった。


「え、中間? 全部赤点だった! 試験めんどくせーもん。名前書いただけで俺、成長したな」


……………………。

チ――――――ン。


うんうんと頷いている秋月に対し、私はともかく。他の四人も固まりました。


「あれ? せんぱ~い、何で止まってんだよ」


つんつんと私の頬をつついてくる秋月にしばらくの間、私は始めて知った事実に衝撃を受けていた。

ぜ、全部赤点? いや、それはそれで問題だけれども。問題はそこではありません。名前書いただけマシってことですか? 秋月が言っているのは、そういうことですよね? え、それってつまり……。


「あ、秋月、もも……も、もしかして、ちゃんと授業受けてる?」


記憶が蘇ってくる。授業そっちのけで、体育をしている私を見ていた秋月のことを。私は期末を目前にして、とりあえず確認したいことを彼に聞いてみた。そして、目眩を起こしそうになりました。


「んなもん受けてるわけねーじゃん。ゲームしてるか、漫画読んでるか、寝てるか、先輩にメールしてる」


なに――――――――っっっ!?

今、何て言ったの秋月!? それって初耳なんですけど! 

私は思わず、彼にしがみついた。腕を伸ばし、秋月の制服を掴んでグイッと顔を近付けさせる。途端、今度は秋月が顔を赤くし出したけれど、気にしている場合ではありません。

どーゆーこと秋月――――!? あんたに危機感はないわけ!?


「せ、先輩ってさ、時々大胆だよな」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 期末はもう来週なんだよ!? どこ? どこら辺が範囲なの!? 言いなさい!」


少し照れ始めた秋月に、私は問答無用に切って捨てた。

だって、見過ごせないもん! 秋月が好きだからというのもあるけれど、それ以前に後輩ですから! 夏休みはおろか、この先進級でさえ危うい後輩の現状をほっておくわけにはいきません!


「範囲? ……知らね。俺ノートとってねーし」


――ガ――――ンッ


な、何ですと? ノートもとっていないって……ピ、ピンチです!

何故かデレッともし始めた秋月へ、私は開いた口が塞がらなかった。本当に問題児だったんだね……。今更だけど、改めて思い知りました。

と、とにかく! ぐずぐずしている場合じゃあない。期末試験まで時間は限られているから、秋月が私と勉強したいと言っている以上、何とかしなきゃ! 

私は急いで帰り支度をし、秋月を促す。


「とりあえず、去年のノート私まだとっといてあるから、うちに来て秋月! 沙希、智花、柚子ごめん! もう行くね!」

「マジで!? 先輩んち!? …………ラッキー」


何か秋月が喜びと共にボソッて呟いたような気がしたけど、私は焦っていたのであまりよく聞こえなかった。ホームルームはもう終わっていたから、そのまま秋月を引っ張って行く私。だから、馴染みのこの音も聞いていませんでした。


――ニヤッ


「秋月楓、何か笑ってたね」

「だね~。ヤバい感じなのに何で~?」

「まぁいいじゃないの。それより弟くんって秋月と範囲一緒? ちょっとまとめてさ、あとで流香に教えてあげようよ」

「お、おー」


しばらく私と秋月の会話を聞いていて呆気にとられたあと、沙希たちがこんな話をしている間に私と秋月は急いで私の家に向かった。

私の家で秋月の! 秋月による! 秋月のための試験勉強をするために! 

だからまさか、この次点で既に秋月が何か企んでいるとは知らないのは当然でした。

私の頭の中はある意味、秋月のことでいっぱいだったから。





「先輩の部屋……可愛い~~。ヤベ。き、緊張してきた俺」


何でうちに来ただけで緊張してるのあんたは。

家に到着し、私の部屋に入るなりやけに体を強張らせ始めた秋月を見て不思議に思う。

あ、もしかして、流石の秋月も先輩の家に来たら緊張するのかな? なんて。そんな単純なことを思いながら、私はとっておいた去年のノートを探し始めた。本当は秋月、別の意味で緊張していただなんて思いも寄らなかったんだけど。


一先ず、秋月の試験対策のために次から次へとノートを部屋の隅にある本棚から掘り出していく私。実際には秋月と同じ学年の颯太や哲平くん、もしくは演劇部の他の一年生に借りれたらいいんだけど……一学期分は流石に、ね。コピーをとるにしても、それだけで時間が掛かりすぎて大変そうだから、もう必要のない私がノートを貸した方がいいと判断してみた。この判断こそが秋月にとって、色んな意味で好都合だったみたいですが。


「良かった、全部あった~。秋月、これ使って……って! ちょっと待ったぁ!」


私は本棚の奥底にまであったノートを取り出したあと、秋月がいる方向へと顔を向けてみる。そこには、ずっと私のことを大人しく待っていると思っていた秋月が思いっきり、私のキャビネットを開けようとしている姿を確認した。

きゃああぁぁぁ~~~~~~っっ!


「先輩、ここ何入ってんの?」


突然ニヤッと不敵に笑い出した秋月。そう言ったかと思うと、キャビネットの取っ手へと手を添え始める。まるで、何かを試しているみたいに。


「そ、そこは開けないで――!」


そこには……服とか! スカートとか! し、下着も入ってるんです――――っ! 

慌てて私は秋月とキャビネットの間に、自分の体を滑りこませた。キャビネットを背に、ぜえぜえと秋月の目の前へスライディングを決める。

か、間一髪。危うく秋月に見られる所でした。全く、油断も隙もありません! 男の子って普通、異性の部屋に来たらもっと遠慮するんじゃないの!? 弟の颯太ですら、気を使ってくるときがあるのに! 

あ、でも人前で平気で抱き着いてくるヤツに遠慮なんて言葉、そもそもあるのか不明かも。

言ってやりたいです。急にいつもらしく振る舞い始めた秋月へ、さっきまでの緊張感はどこへやったの! って。

でもそれは、秋月からしてみると余興に過ぎなかった。全てはここから先へ進むための、布石だったんです。


「っち、先輩のケチー。いいじゃん別に、下着の一枚や二枚」

「確信犯か――――――っっ!」


つい、大声で秋月に突っ込みを入れた私。だって、舌打ちしましたよコイツ。そして、ハッキリと言ってくれました。ここに、『何が』入っているのかを! しっかりと目論んでいました。更には、私をケチ呼ばわりです。何で私が「ケチ」なんて言われなきゃならないの!? 勝手に人の部屋を物色しようとした、あんたに言われたくありません! そもそもあんたは何がしたいんですか! 勉強だったんじゃないの!? 

私は秋月に制裁を加えようと試みる。最初は緊張したものの、私の部屋にいることで次第に調子に乗り出した秋月に本来の目的を明確にするために耳をまた引っ張ってやろうと思いました。

そう思ったんだけど……。


奇しくも実行することが出来ない状況になってしまいました。秋月が私を素早く、抱え込み始めたからです。まるでタイミングを見計らっていたかのように私をあぐらをかいた自分の足に乗せ、抱き寄せる秋月。いつの間にか私はすっかり秋月にほぼ全身を包まれる形となってしまった。

え!? あ、秋月? ちょ、ちょっとちょっと! いきなり何するの――――!?


「先輩、好き」


………………。

はい!? え、本当にいきなり何なの秋月? 

私は一瞬、彼が何を言ったのか理解できなくて、つい、止まってしまった。でも、秋月が私に軽いキスをしてきて、一気に体温が上がったのと同時に気付く。秋月……なんか目が、とろんとしてきてます。もしかして。いや、もしかしなくとも。勉強じゃなくて、私とイチャつくつもりですか!? い、いやああぁぁぁ~~~~~~!


「あ、秋月! べべ、べ、勉強するんでしょー!?」


昨日と同じく、再びおかしな雰囲気を持ち始めた秋月へ慌てる私。それに対して、口調は変わらずシレッと答える彼がいた。


「勉強? するよ。先輩を知ったあとで。せんぱ~い…………教えて?」


密着し、間近で私にそう呟いた秋月はそのまま首を少しだけ動かして、また耳を噛んできた。

ってぇ! 私を知ったあとって何!? てゆーか、教えてって何をですか!?

秋月の突然の行動に、私はもう何が何だか分からなかった。どうしてこんな展開になってるの!? どうして秋月と私、はた目から見ていちゃついてるような雰囲気になってるの!? まだ付き合ってもいないのに……誰か、私に教えて下さい!


「ちょ、ちょっと! 本当にま、まま真面目に勉強をって……ひゃあ~~!」


耳を噛まれたかと思ったら、再び舐められました。全身に電流が流れたかと思う程、ビクッと体を震わせる私。そんな私に構わず、むしろその反応にご満悦の様子な秋月はうっとりと今の状況に満足しているようだった。


「はぁ~~。先輩の部屋で、先輩と二人っきり。幸せ~~。ねー、流香先輩って耳、結構弱いんだ? 首は?」


そんなこと知りません! 今度はすりすりと頬擦りをしてきて、何やら聞いてくる秋月から逃げようとしてみる。だけど、ジタバタと彼の腕の中でもがいたものの、徒労に終わりそうです。全く離してくれそうにない! 私の頭と心は、これでもかと言うぐらい乱れまくっています。突然やってきた秋月によるセクハラのせいでパニック寸前です!


「ひぃ~~~~っ! は、離してよ秋月ぃ~~!」

「やなこった、誰が離すか。もうダメ俺、我慢したくねーもん。触りたいだけ先輩を触る!」


何それ!? じゃあ今まで我慢してたと言うんですか! 嘘だぁ――――っっ!


イチャイチャ&楓暴走ターイム!

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