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語られる真意へ向き合う心⑤


□□□□□□□





――キーンコーンカーンコーン


学校のチャイムの音で目が覚めた私は、ゆっくりと体を起こす。

意識が朦朧としている。私は今どこに? 何が起きたんだっけ? 完全に覚醒されていない頭を必死に揺り動かしながら、私は秋月たちから離れたあとのことを思いだそうとしていた。


「そうだ、眠らせられたんだっけ」


教室から出たのち、再び送られてきたメッセージに書かれてある場所へ向かおうとした私は突如、後ろから羽交い締めされ、同時に変な薬を嗅いでしまった。


辺りを見回してみる。

バスケットボールの山。無造作に置かれた網、これはバレーボールに使われるネットのよう。何段にも重ねられている飛び箱に、私が寝ていた場所に引かれているマット。

すぐに分かった。ここは体育館の倉庫です。でも、微妙に違和感がある。私は首をひねった。見慣れた体育用具に囲まれているはずなのに、全く知らない場所に来たような錯覚を覚えたから。そんなはずはない。体育倉庫には、授業で何度も入ったことがあるんだから。


「っ!?」


そのわけをすぐに知った。体育用具一つ一つに書かれてある文字に目が入った私は、それを読んで驚愕とともに思わず呟く。


「『西楠中学校』? ど、どうして!?」


違和感もあるはずです。ここは私が通う『東楠高校』ではなく、知らない中学校だったのだから。いや、違う。私は以前にも、この学校名を聞いたことがある。私は、『西楠中学校』を知っている。


「やっと目を覚ましてくれたね、真山先輩」


私は急いで声がした方へ振り返った。そして、心臓が激しく鼓動をし始めたのと同時に、この中学校の名前をどこで聞いたのかはっきりと思い出す。私に向かって、話しかけてきた人物を見て。

間違いない。ここは、秋月が通っていた中学校です。


――ドクンッ――ドクンッ


異常に波打つ心臓が、私の頭まで揺らしている。


――ドクンッ――ドクンッ


「やっぱり、そうだったんだね」

「気付いてたんだ。いつから? ……何てことは聞かないよ。よく考えれば分かるようにしたつもりだから」


――ドクンッ――ドクンッ


私は、秋月が通っていた『西楠中学校』に来ている。私をこの中学校の、体育倉庫へと閉じ込めた相手によって。薬で眠らされ、連れて来られたんです。


――ドクンッ――ドクンッ


不思議と私は恐怖に支配されていなかった。心臓は大きく鼓動しているけれど、私を閉じ込めた相手の言った言葉に興味があったからです。


「それで、今何て言ったの?」


冷静に口を開く私。それに答えるかのように、相手の口も開いた。


「お願いがあるんだ、真山先輩に。その前に、先輩に知って貰わなきゃならないことがあるけど」

「いいから話して。何であなたが、私にこんなことをしてきたのか」


私はまっすぐ相手の顔を見る。そこにはニコッと笑いながらも思考が読めない、哲平くんがいた。

体育倉庫の入口付近で座っていた哲平くんは、すくっと立ち上がると、少しずつ私の方へ近づいてきた。


――ドクンッ――ドクンッ


心臓が更に早鐘を打つ。まるで私の体が警鐘を鳴らしているかのよう。

でも違う。断言出来る。この早鐘は、もっと別の意味で鳴っているんです。

私は哲平くんから発せられた、ある言葉を聞いているのだから。


「真山先輩、助けて欲しいんだ」


哲平くんが私へ最初に言ってきた言葉は、とても意外なものだった。だから、私はこう答える。


「それで今、何て言ったの?」


これまで彼が私にしてきたと思われる内容を考えたら矛盾しているし、辻褄も合わない。まったくもって噛み合わない話。

でも、哲平くんにとってはすべてが繋がっていることのように伺える。だって、私に近づいて来た哲平くんは私に何かをするわけでもなく、二人っきりになっているというのに、まったく危害を加えようとする気配がないんだもん。

仕舞いには、普通に私の横へ座ってきて、まったりと話をし始めてきた。


「あのね、真山先輩にはど~しても知っておいて欲しかったんだよ、楓のこと」

「?????」


意味が分からない私は、微妙に顔をしかめる。それでも拍子抜けしてしまったとともに、とうとう、ことの真相を確かめることが出来そうな予感もした。


「だから、それはどういうことなの? 私にこんなことする理由にはならないでしょ?」


私は自分が座っているマットを叩きながら、すかさず言い返した。

焦らされている感じが否めない。本当に、危ない目に遭わされてきましたからね。理由を聞かないことには、とてもじゃあないけど納得出来ない。

私を抜きにして、秋月や沙希。智花や柚子。果ては颯太やあっくんまで、巻き込んでしまったんだから。それ相応の答えが哲平くんから返ってこないことには、心配かけたみんなに申し訳ない。

だから哲平くんの話の続きを促す私。

とことん聞こうじゃない! あなたが、私に嫌がらせ以上のことをしてきた理由を! 

そして、秋月のためだと言った哲平くんの、あの言葉の意味を。

今まで私の心臓が早く鼓動していたのは、哲平くんが秋月の名前を出したから。


――ドクン――ドクン


早鐘の正体。それは、私が秋月から聞こうとしなかった彼の過去。そして、哲平くんがこれから話をしてくる、真意からくるものだった。


「真山先輩は、もう薄々気付いているんじゃない? 楓が昔、『色々していた』ってこと。昼の大声、聞こえちゃった」


哲平くんは私の反応を確かめるように、横目でこちらを見てきた。

薄々どころか、大体のことは今日やっと分かったばかり。体育の先生から発せられた、無神経な発言。それに激怒した私の声で、哲平くんは私が秋月の過去に何か気付き始めたと示唆しているんだろうけど、それだけじゃあない。そのあとの秋月から伝わってきた切実な言葉からも、私は彼が一体、今まで何をしてきたのか予測していた。


私に過去を知られたくないと言ってきた秋月。嫌われたくないとも言っていた。それがどんな内容なのかはっきりとはまだ知らないけれど、そう、予測はついているんです。

こちらを伺っている哲平くんを真っ直ぐに見ながら私は、


「『問題児』だったんでしょ?」


と、先生が言っていた単語をそのまま使って答えた。だけど、それを聞いた哲平くんはニコッとはしているけど眉尻が下がり、微妙に苦笑いをしている。


「半分正解。おしいな~」

「は?」


思わずすっとんきょうな声を出してしまった私。哲平くんが口にした言葉に呆気にとられたからです。

半分正解って。ほぼ当たっているんじゃないの? 

でも、哲平くんにとっては満足する答えではなかったみたいな、そんな顔をしている。そして彼がそう反応したのは、至極当然のことだった。


「楓はね、『問題児』じゃなくて『超問題児』だったんだよ」


………………。何、それ。

私は哲平くんから返ってきた言葉を聞いて、目が点になってしまった。

今、彼は何て言いました? 『超』をつけませんでした? ただの問題児ではないのですか? 

私はしばらくの間、哲平くんから発せられた『超』という言葉に反応出来ずにいる。でも、硬直時間はそれ以上、長くなることはなかった。

そこから先は、私の想像を遥かに超えるような話が展開されていったからです。止まっている場合じゃない。


「楓はね、よく誰彼構わずケンカ売ったり買ったりしててさ、いつも相手を病院送りにしてたんだよね。かつあげも容赦なかったな。巻き上げたあと、ボロ雑巾にしてたのがいつものパターン」


…………………。

チ―――――ン。


いや、哲平くん。そんなにあっけらかんと言われても、こちらとしてはどうしようって感じなんですけど。

危うく彼にツッコミそうになった私は、必死でそれをぐっと堪える。ツッコミたいけれど、それが話の中心じゃない。秋月です。

何となく、細身なのに意外にも体が引き締まっていて、力があった秋月を思い出してみた私。ようやく、今まで謎だったものを知り始めることが出来るような気がする。

初めて秋月が私のクラスに来たとき、体を触ってみたことがあった。そして、そんな彼にいつ鍛えたのか聞いたことがあったっけ。どもりながらも、確か中学って言ってたような気がする。嫌がらせで私のロッカーの扉が壊されて、開かなくなっていたときもそうですね。何人もの男子が扉を開けることが出来なかったのに、秋月はたった一回引いただけで開けてくれたりもした。あのときは単純に、どこからそんな力があるのかと思っていたけれど……。ははっ、なるほどね。

私は若干、顔をひきつった。鍛えたって……そういう意味ですか。

でも、哲平くんの話はまだ終わらない。


「あと、よく校舎の物を壊してたよ。机や椅子は当たり前。教室のドアはどっかに行っちゃったし、窓ガラスもほぼ割ってたし。ほら、見てごらん真山先輩」


頭の中で私が暴行を受けたとき、暴れた秋月を思い出しながら……。私は哲平くんに促されて、体育倉庫にあるたった一つだけの窓から外を見てみた。西楠中学校の校舎が見える。途端に、私は仰天せざるを得ない。なぜなら私の視界に、ところどころビニールっぽいやつや、段ボールが窓に張り付いている校舎の異様な姿が飛び込んできたからです。


「な、ななな……な、な!?」


何なのあれは――――――!? 

言葉にもならない声を出すしかない私。いつの間にか冷や汗もだらだらと垂れてきた。

そんな私に哲平くんは、更に詳しい説明をしてくれる。


「ちなみにね、これでも大分窓は張り替えられたんだよ。あー、壁も綺麗になってるなー。俺らがいた頃は汚なかったから。まぁ、中はもっと汚なかったけどね。ゴミは散らかってるわ、カラースプレーぶちまけるわ、タイヤのブレーキ痕をつけるわだったからさ。あははは」


笑っている哲平くんを横目で見る私。説明ありがとう哲平くん。でも、最後のタイヤは意味が分かんないよ。

そんなことを思いながら。哲平くんを見つめていた私は、そのあと彼に、


「ほぼ全部、楓を含めた俺たちがやったんだけどね。おかげで毎日、パトカーに張られてたよ」


と明るい雰囲気で、更なる暴露話を聞かされてしまった。


………………。

チ――――ン。


もうとっくに、私の顔は青くなっています。何かしていたんだろうとは思っていたけど、まさかそこまでとは考えもしなかったから。ム、ムチャクチャにも程があります。衝撃的な内容でふらふらしながら、私は窓から離れ、近くの壁に寄りかかった。何かに体を預けていないと、倒れそうなんだもん。


「あ、真山先輩。そこらへん、楓がケンカ売ってきたヤツの頭を、ガンガン打ち付けてた場所だから」

「へっ!? ……き、きゃあああ~~!」


哲平くんに言われ、私は急いで飛び退いた。よく見れば私より少し上になんか黒い跡がある……し……。卒倒しそうです。

すっかり顔面を蒼白にさせている私をよそに、哲平くんはといえば「懐かしいなぁ」と思い出にふけっている様子。

って! 卒業したばかりじゃないの!? 

突っ込みどころはもう満載です。私は何で彼に、わざわざ眠らせてまでここに連れて来られたのかさっぱり分からなくなってきている。だいたい、どうして今まで哲平くんが私にしてきたことを、彼らの中学校で聞かなきゃならないんだろう? 

お陰様で、秋月が先生たちに警戒される理由を知ることになったけどね。でも今は秋月、大人しくしているんだから関係ないんじゃあ……。ん? 

私は自分自身に問いかけた。秋月は、今は大人しい……。そりゃあたまにメチャクチャなことはしてくれるけど、哲平くんが話してくれたような秋月は、今は……いない。


「さて、ここからが本題。先輩も分かってきたようだね?」


はっとしている私の表情を読みとったのか、哲平くんは私を真剣な表情で見てくると、静かに口を開いた。


「先輩は、楓のこと好き?」


え? 私は哲平くんの口から発せられた言葉に、動揺する。いきなりそんなことを言われるとは、思いもしなかったから。

真剣な表情で私を見てくる哲平くん。普通だったら人として好きと言えるんだけど、私の場合、そうじゃない。異性として、秋月を好きになっているのだから、考えていることは一つ。


「わ、私は……」


明らかに動揺し始めた私。きっとはた目で見て分かるはず。私が、秋月に恋愛感情を抱いているということを。すかさず哲平くんは私のその反応に、今度はニコッと笑いかけながら更に聞いてきた。


「今の話を聞いても、真山先輩はまだ楓のこと好き?」


――ドクン


私の心臓が大きく鼓動した。今までの話。哲平くんから聞いた秋月の過去。それは私にとって衝撃的な内容だったけれども同時に、秋月が私に言ってきた、ある言葉も思い出させた。


“今の俺を見てほしい……”


――ドクン


秋月は。

彼は。

変わろうとしている。


「す、好き……」


ようやく哲平が表に出てきました。

彼の真意は、次回でハッキリします。

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