語られる真意へ向き合う心③
「さっき、先輩が俺を庇ってくれてスッゲー嬉しかった!」
ニコニコと私に向かって満面の笑顔を振り撒く秋月。私が先生から彼を庇ったのを余程感激してるみたい。それに私はちょっと顔を赤くさせながら、「ううん」と答えた。変わろうとしている秋月の真意を知って、ちょっとときめいたからです。
まぁ、変わりたいと思ってるらしいけど。基本的なことは変わらない秋月がいるのも確かです。
「せんぱ~い、どんだけ俺に惚れさせる気なんだよ? 割りに合わなくね?」
ニヤッと不敵に笑い出した秋月。
うっ! すっごく嫌な予感が。
「流香先輩も俺のこと好きになってくんなきゃさー。ってことで、ハイ!」
やっぱり! 案の定でした。すかさず調子に乗った秋月は、私にそう言ってきた。それを聞いた私は直ぐ様秋月から離れ、一目散に沙希たちの所へ逃げ出す。
そりゃあ逃げますとも! だって……だって……。秋月のバカァ――――――ッッ! どうしてみんながいる教室で、思いっきり! キスしてこようとするの!?
「い、いやあぁぁ~~~~! 秋月のセクハラー! 痴漢ー! へんた――い!」
「なっ!? ちょっ、先輩! それ酷くね!?」
秋月も私を追い掛けて来た。途中、「俺は痴漢じゃねー!」と、たった一ヶ所だけしか訂正を求めなかったのが気になるんですけど。
「あ、ねーちゃんが戻った。つーか、秋月ぃ――――! てんめ~~~、ねーちゃんにそれ以上近くんじゃねぇ――――!」
智花と柚子に何やら話を聞かせてたらしい颯太がこちらに気付き、弾丸の如く私と秋月の間に割って入る。
「んじゃまー、流香を助けるとしますか」
同時に、あっくんも颯太と同様。話をしていたのを中断して、颯太と一緒になって秋月の前に出た。
「あ、ついに始まったわ『流香争奪戦:最終ラウンド』! しかも二対一で、秋月に分が悪いけどねん」
沙希が面白そうに口ずさんでいる。それを私は、「ぜぇぜぇ」と息を弾ませながら突っ込んだ。
「え、何それ? 最終ラウンド?」
いつも思うけど、そもそもその『流香争奪戦』って何の沙希ちゃん。
「柚子、最前列! 最前列をとにかく確保!」
「りょうか~い。こんな面白そうなの、見過ごせないよね~」
智花!? 柚子ぉ!? 二人とも、戦闘体制に入った秋月たちのそばで、さっさと観覧しちゃってるし!
私はもう、冷や汗ダラダラです。あっという間に、いつものメチャクチャな雰囲気になっている教室ですっかり取り残されてしまった。
「丁度いー。うぜーテメーら、まとめて相手してやる」
バキボキと指を鳴らし、余裕そうに笑う秋月。そんな彼に対して、颯太も負けじとゴキゴキと腕を回しながら答える。
「調子に乗ってんじゃねーぞ、秋月ぃ。俺はともかくだなー、あっくんはすんげ~んだぞ! 運動神経ハンパねーんだからな! 舐めてっと痛ぇ目にあうぞ、つーかあえ!」
颯太の言葉に「ん?」と疑問符を浮かべたあっくんが、慌てて颯太に突っ込む。
「いや颯太、それお前負けてるぞ?」
「……あれ?」
自分が言った内容を良く分かっていない颯太は、頭にハテナマークを浮かべた。そんな颯太に、秋月は大爆笑しだす。
「ぎゃはははっ! バッカじゃねーのお前!? 人任せの啖呵かよ! ぶっ! は、腹痛ぇ~~」
「るせ――――――――――っっ!」
顔を真っ赤にしながら、颯太は秋月に向かって憤慨している。一方、秋月の方はといえば、人差し指を颯太に向けながらお腹を抱えて涙目になっていた。ツボにはまったようです。
「本当に流香の弟って……ある意味カワイイわー」
沙希も「ぷぷっ」と笑いを堪え出す始末。何だか無性に私は恥ずかしくなってきた。
颯太、おねーちゃんはもう、何て言ったらいいのか分からないよ。
「おっし! 弟の逆襲が始まった!」
智花が握り拳を作りながら、目を輝かせている。何故なら颯太が秋月に向かって、私について語り始めたからです。私を一番に知っているのは自分! 弟である、自分を強調したいらしい颯太。本当にもう……何も言えません。
「大体なー! おめーはねーちゃんを何も知らねーくせに図々しいんだよ! 知ってんのか!? こう見えてねーちゃん、結構食うんだぜ!? それなのに小っさいんだぜ!?」
――ガクゥッ
私は思いっきり転けた。え、颯太、何でそれをチョイスしたの?
私は汗だくになりながら、白い目線を弟に送る。
ってゆーか! そんなどうでもいいことは言わなくていいから! そりゃあ……ね。沢山食べたら、背も伸びるかなぁ~とは思ってるけど。
「知ってる。つーか、そんなん誰でも知ってっだろ」
笑いを途中で辞めた秋月が、シレッと返した。うんうんと沙希たちも同意している。まぁ、日常のことだからね。敢えて言いません。でも颯太は、「じゃあこれならどうだ!」と秋月が……と言うよりも、身内でしか知らない私を暴露し始めた。
「ねーちゃんは寝相が悪い!」
――ズルゥッ
再び私は転けた。颯太……どうして、おねーちゃんを貶めることをみんなの前で言うの……。
「え、そうなの先輩?」
それを聞いた秋月は、意外そうに私を見てきた。
あんたも食い付かないで。は、恥ずかしいでしょ!
でも、そんなことはお構い無しの秋月。ニヤッと不敵に笑ったかと思うと、
「じゃー俺が先輩を抑えておいてやるよ。だから今度添い寝してあげる」
と言ってきた。
ぎゃああぁ――――――! な、何を言ってるの秋月――――――――――っっ!?
「じょ、冗談だよ秋月! 颯太ぁ! いい加減なことを言わないで!」
急いで訂正をする私。でも、それ以上に叫ばざるを得ない事態を迎えた。颯太に便乗して、あっくんも私のことを暴露したからです。
「いや~~、辞めておいた方がいいぞ秋月。流香と寝たら殴られるし、蹴られるし、かなり痛い思いをするからなぁ」
苦笑いをしているあっくん。
って、えぇ!? な、なな、何それ!?
「はあっ!?」
驚いている私に被さるような、秋月のすっとんきょうな声が聞こえてきた。わなわなと体を震わせ、顔面も微妙に蒼白してます。
「あれ? 何であっくんが知ってんだよー?」
驚愕している私と秋月の代わりに、颯太があっくんに聞いた。それをあっくんが、「覚えていないのか?」と聞き返している。
「小さい頃、よくお前らん家で昼寝とかしてただろ? あの時、よく流香にやられてたからなぁ~。因みに颯太、お前はそれでも気付かなくて、グースカ寝てたけどな!」
「あははは」と思い出し笑いをしているあっくん。そんな彼に颯太も、「あ~!」と納得したようでした。だけど、二人の会話を聞いていた秋月はピシィと凍りついていた。
始めての現象です。あっくん凄い。秋月をフリーズさせるなんて。
あ、私もそんなことを言っている場合じゃないや。
「あら、最終ラウンドは見事に完敗だね」
大爆笑している智花と柚子の声の合間に、沙希がポツリと一人ごちる。続いて、やれやれと言いながら嘆息もした。
「ま、仕方ないっか。相手が相手だもんね~。一筋縄ではいかないわ。ちょっと聞いてる流香? 大事な場面だよ。秋月が岡田を超えられるかどうか……って、る、流香ぁ!?」
沙希の言葉を半分も聞いていなかった私は、彼女に呼ばれても反応出来ず、床にひれ伏していた。
――ガ――――――ン
ショックです。まさか私、知らないうちにそんなことをあっくんにしていただなんて……。出来れば嘘と言って欲しい。夢なら覚めて欲しい。時間が戻せるなら戻して欲しい。
そんなことをグルグルと頭の中でエコーさせながら、私は項垂れていた。そりゃあ女として見られませんよ。当然ですよ。普通なら引きますよ。いくら幼なじみでも良くて妹止まり。あ、だから妹扱いなのか。……納得です。
「んだとぉ~? 俺まだ、流香先輩ん家……玄関止まりなのに……ぶっ飛ばす。おらぁ! 表出ろぉおお!」
フリーズ状態から復活した秋月が地を這うような低い声音で呟いたかと思うと、一気に怒りを爆発させ、あっくんに向かって喧嘩を売り出した。
「やっちまえよあっくん! 秋月なんか返り討ちにしてやれ――!」
追加で颯太が煽る。それにあっくんが、「えっ」と冷や汗を垂らしながら答えた。
「いや、しねーよ。つかお前、そんなことをしたらまた先生たちに目をつけられねーか?」
逆に秋月のことを心配し出すあっくん。だけどそこへ、観覧席にいる智花と柚子がブーイングを放ち始めた。
「岡田篤、あんたそれでも男!? 受けてたちな! 私らは、それも待ってたんだから!」
「そうだよ~! こんなおもしろ……じゃなかった。見物……じゃない。あ、真剣勝負! 早く見たかったんだからぁ~~!」
智花、待ってたなんて。それに柚子? 何でそんなに言い直してるの? あっくんも、「あのな~」と言いながら、二人に向かって視線を投げる。
「朝霧に高木、お前らまで何を言ってんだよ。しねぇって言っただろ?」
「へッ! 弱ぇーからって逃げ腰になってんじゃねーよっ! とっとと来やがれ! 二度と先輩の前に出れねーぐらい、ボコボコにしてやっからなぁ!」
すかさず秋月が横やりを入れた。それにカチンと来たらしい颯太が、秋月へ怒声をあげる。
「あ! 言ったな秋月ぃー! あっくん、こっちこそ二度とねーちゃんに手ぇ出さねーようにしてやろうぜ!」
何なんですか! 何でこんな展開になってるんですか!
「ちょっと待ちな! 『流香争奪戦』には私も入ってるんだからね! 親友の私抜きで、話を進めないよーに!」
沙希まで乱入。
もう……本当……。どうしてこんなことになってるのぉ~!?
既にぎゃあぎゃあと教室内は私たちを中心に騒乱の渦を巻き起こしている。この人数で。このメンバーで。当然と言えば当然になるけれど。
途中ですっかり立ち直った私は事態の掌握にどうすればいいのか、ただ手をこまねいてるしか出来なかった。わたわたとみんなの回りをうろつき、止めようと試みる。だけど、チビの私じゃあ一斉にヒートアップしているみんなの相手にならず。
はぁ~~~~。もう何度も言ってるかもしれませんが、いいですか? メチャクチャです!
――ブーッブーッブーッ
突然。私のスマホが細かい振動をし出した。その時、幸か不幸か、私のスマホが鳴ったのをみんなが知ることはなかった。
騒いでいるみんなから少し離れて画面を覗く私。そには一件のメッセージが届いていて、それをおもむろに読んでみる。
「…………っ!?」
内容を読んで私は驚きを隠せなかった。どうして? と、考えるよりも、直ぐ様体が動く。時刻はもう昼休みが終わる頃だったけれど、構わなかった。構わずにはいられなかった。メールの内容は今までの、私に降りかかってきた、数々の出来事を終わらせる内容だったから。
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真山先輩、お疲れ様♪
もうそろそろ。
本題に入ろうか?
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差出人は知らないメールアドレス。でも、相手が誰かは私には分かった。いや、分からない方がおかしい。ずっと、頭の片隅にはあったんだから。
彼が。
哲平くんが。
ついに私を呼び出してきた。
だから私は、みんなの前から姿を消したんです。
大人数でのやり取りを書くのは大変ですね。
なぜに私はこんなにも出してしまったのだろう……(笑)




